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幾重にも守られていることに気づく喜びと、
何度でも形を変えて守るものを持つ強さを、
栗の花はわたしに教えてくれた。


*    *    *


「6月15日が家元の誕生日なんよ~」


という二段さんの言葉で、5月のゼロティブ辞典作成委員会定例会議(仮称)は、あっというまに、吉井春樹さんへのお誕生日プレゼント創作プロジェクトに切り替わった。
コトバ作品をプレゼントするわけだけど、七人での統一感が欲しい。「七人」というのは、吉井春樹さんが主催されたゼロアーティスト養成講座一期生五人(あんとみさん きゃらめるさん 木村二段さん ちありまきさん と、二期生二人(はるきちさん tokiさん)だ。


検討した結果、「誕生花言葉絵本」を作成することになった。


誕生花言葉というのは、誕生花の花言葉に吉井春樹さんのメッセージと、きゃらめるさんのイラストを添えて、2010年1月1日から、きゃらめるさんのブログで発信されているもの。
七人が、それぞれ、花言葉のメッセージを作成して、一冊の本に仕上げる。絵本作家のあんとみさんが製本してくれる。


(6月15日の花はなんだろう?)


と思ったら、きゃらめるさんが、違うお花にしよう!と提案してくれた。
誕生日のお花といわれるものは、ほかにも幾つもあるのだそうだ。
さっそく調べてくれた6月15日の花は全部で九つ。そのうち、花言葉の意味があまりふさわしくないものと、現在使われているものをのぞくと、残りがちょうど七つになり、きゃらめるさんは、厳正な「あみだくじ」で、みんなの分担を決めてくれた。

そして。
わたしの花は……



(は?)
(クリ? クリの花???)


“クリの花”なんて、女の子がひとまえで言えないーーーーーーっ と叫びそうになったのは、ゼロティブメンバーでは、どうやら私だけだったので(なぜ?)、慎んで受託しました。


*    *    *


メイキング


「栗の花」ではなく、「栗」で作ればいいと思いこんでいたので、栗のことばっかり考えていた。

すぐに思いついたのは、栗って、守られているなあということだった。


イガの中に入っているだけも十分なのに、まだ硬い殻がある。その中で守られて、じっくりほくほく、あんなに甘いのだ。

栗はたぶん、自分がそんなに守られていることを知らない。
同じように、わたしたちだって、自分が知らないだけで、きっと幾重にも守られている。
そのことに気づいたら……。

豊かな気持ちが満ちあふれてくる。優しくしかなれない。


「こんなにも 守られて 甘くなる」


*    *    *


(できたできた)


栗は、五語展のカルタに使った「フランス伝統色おりがみ」(!)で、貼り絵にしようと思った。

おいしそうな栗の実は、二色か三色使いで立体表現ができると思ったし、イガは、めんどうくさいけど、一本一本、色合いの違うトゲを作って貼れば、ぜったいにかわいい!と思った。
このあいだ、初めて気がついたけど、わたしはけっこう貼り絵が好きだ。下手だけど。
言葉のフォントは探せば、ぴったりのものがあるだろうと、のんきに構えていた。
のだけれど。


(ほんまに、栗でいいの?)


と心配になり、花言葉を調べてみた。
すると。


「栗の


がーん。「栗」じゃない!!!


(栗の花って、どんな花?)


*    *    *


みなさんは、栗の花を見たことがありますか?
どんな花だか知っていますか?


さて。
栗の花って、どんな花?


ネットで確認して初めて知った。ほわほわとした白い綿毛のような花が長く垂れ下がるように咲く。人知れずひっそりと花開いて風に揺れる、静かな花だと感じた。


(栗のイガって、なんやろう?)


わからないことはすぐに調べる。

すると。
栗の花のことやイガのことが、さらに詳しくわかったのだ。


(すごーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい)


ああ、わたしは栗になりたい(感動)


*    *    *


栗は、雄花と雌花が別々の花だった。

たくさんの白い花は雄花で、雌花は、その根元に蕾をつける。雌花の房の雄花は育たない。同じ房で受粉しないようにだろう。

ちょうど6月15日ごろ、栗の木は白いふさふさで満開になる。


雌花には、将来、栗の実になる突起がでていて、受粉すると栗の実になる。雌花は形を変え、やわらかいイガの赤ちゃんが生まれる。栗のイガは、雌花が形を変えたものだった。
やわらかく緑色のイガの赤ちゃんが、だんだん丸く大きくなり、栗らしいイガになっていく。そして、

9月。

まんまるのイガが開く。

まるで笑っているように。その中には、つやつや大きく甘く育った栗の実がのぞいている。


(どこまで大切に守ってるのーーーーー???)


栗のおかあさんってすごい。
花が咲いたあとも、ずっとイガとなって包みこみ、巣立ちの日まで栗を守り続けているなんて。


熟して地面に落ち、ころがり落ちたあとも、硬い殻がある。
それは、おとうさんの愛だろうか。
こんなにも守られている……。


今まで秋になったら栗を食べ、秋でなくても、栗のお菓子をおいしいと思って食べてきた。栗拾いに行ったこともあるし、栗のイガのことも知っている。
だけど、栗の花がどんなものかは知らなかったし、雌花がイガの赤ちゃんになっていく様子も、このたび、初めて画像で知った。


栗のイガがひらくのは、子どもの巣立ちを祝福する笑顔。
偶然にも、吉井さんが奥さんのおなかの中にいる赤ちゃんと待ち合わせしているのは9月だそうだ。


「人知れず咲く栗の花は イガとなって栗を包み、巣立ちの日に再び開きます。笑っているように」


幾重にも守られていることに気づく喜びと、何度でも形を変えて守るものを持つ強さを、栗の花はわたしに教えてくれた。


栗を見るたびに、わたしは豊かな気持ちで笑顔を取りもどすことができる。両親の愛に感謝を。子供たちに愛を。


七つの花を通じて、わたしたち七人に、それぞれ、一番必要な気づきを、吉井春樹さんが導いてくださったのだと思う。


栗の花の花言葉は、「情熱・公平・豊かな喜び」


おたんじょうび、おめでとうございます。


浜田えみな


あれ?
かっこよく終わってしまった。


ちがうちがう。わたしは メイキング を書こうと思っていたのだ!!!


なぜ、「おフランスの香り漂う」伝統色折り紙で貼り絵をするはずだったのに、絵手紙先生になってしまったのか???


それは、技術不足で、白い綿毛のように垂れ下がる栗の花の綿毛を、貼り絵では表現できないと断念したからだ。

じゃあ、描けるのか? と言われれば、それも自信がなかったけれど、筆ならば伝わりそうな気が
して、筆文字に挑戦することにした。


(へっへっへっ わたしには堀内正己先生の「笑顔流筆文字教室」で学んだノウハウがあるぜ)


と思ったけれど、実際は、ぜんぜん、ダメだった。
さらっと書いたように思われるかもしれないけれど、ぜんぜん、無理。わたしは、筆文字は初心者だし、才能もインスピレーションもないので、筆をもてば、


(あとは筆が連れていってくれるさ)


という状況は全く望めなかったからだ(泣)


テキストに掲載されているお手本の文字は参考にできるけれど、そのほかの文字は、笑顔流の講座で教えてもらったポイントを元に、どんな形にするかを自分で考えなければならない。
今回の文字は、ほとんど全てが、お手本なしだった。


(がーーーーーーーーーーーーん)


適当に書いているうちに活路が開けるのかと思っていたけれど、ダメなことがわかった。わたしには才能がない。


しかたがないので、一つ一つの文字について、形を決めることにした。どこを太くするか、どの部分を強調するか、どの線は省略できるか、目をつけるなら、どの線を使うかなど。
それを練習してから、全体のバランスを見て、強弱をつけることにした。
勢いにのって書きすぎると、字が大きくなって、最後まで書けなくなる。


最初は絵を描いてから字を描いていたけれど、字で失敗することが多いので、絵はあとからつけることにした。それでも、何枚も損じてしまう。
漢字より、ひらがなのほうが難しい。カタカナなんて、どうしていいかわからない(!)


笑顔流のテキストをもう一度読みなおして、戦略を練る。
どうすれば、生きた線が生まれるのか?
筆の持ち方を変えたり、進行方向を変えてみたり。
長い文だとたいへんだ。
紙も何十枚も使ったし、筆ペンのレフィルも幾つも買った。
そして結論。


(夜はムリ)


仕事を終えて、家のことが終わって、一日の終わりに、蛍光灯の灯りの下で、夜中に書くのは、絶対に無理。

キーボードで打つ文章だって、たいがい、へろへろなのに、文字は絶対に疲れた心身ではダメだと思った。何より、歓びの言葉なのだから、やっぱり、おひさまの光が必要だ。


浜田えみな。金曜日の午前中、仕事を休んでしまいました(ひょえー)


絵本の大きさは見開きA5。現物は二枚あわせてA4の大きさなので、倍の大きさで書いた。
最初は、原寸で書いていたけれど、筆文字に慣れていないので、小さい字が書けなくて、倍にした。習字の時間でも書き初めでも、こんなに練習したことはない。

 
青空のゆくえ  ← ほんの一部


子供たちも学校に行って静かになった家。おひさまが射し込む窓辺で。
試行錯誤のなか、文字の形が決まって、デザインが決まって……


(これだ!)


という決め手は、わかるのだなあと思った。

ちょっとズレてるのも気になるし、裏表をまちがえて、裏に書き始めてしまったので、にじみもあるけれど、それでも、


(これが最終作品)


だとわかった。もう書けない。
わかるということが、うれしかった。
わかるなら、大丈夫。
それは「軌道」の上だ。


********************


『よしいはるき日和』
発行 2012年6月15日
著者 ゼロセブン
製本 あんとみ製本所


扉絵

きゃらめる
タチアオイ/大きな志


花言葉


きむらにだん
カーネーション/熱愛・情熱・熱烈な愛情


はるきち
カンパニュラ(別名:風鈴草・つりがね草)/感謝・誠実な愛・共感・真剣な愛・鋭敏


はまだえみな
栗/情熱・公平・豊かな喜び


ちありまき
スイカズラ/愛の絆・献身的な愛・友愛


きゃらめる
野ばら/詩・才能


あんとみ
ベロニカ(別名:ルリトラノオ)/人のよさ・忠実


toki
ユり/陽気


二段さんは、イカした言葉と独特の筆文字に、ピンクの水玉リボン細工のカーネーションが飛びだす立体絵本仕掛け。とっても乙女ないじらしさ。


はるきちさんは、黒地にゲルペンで、心をこめて、丁寧に点描し、「よしいはるき 愛の銀河系」とでもいうべき、美しい宇宙観のあるマンダラ風の作品だ。荘厳さにためいき。


まきさんは、おNewのパステル画材で、スイカズラの花をてのひらに見立てて、清純で透明感のある色彩を創りだしている。光と風がとどきそうだ。てのひらのぬくもりにつつまれていく。


きゃらめるさんは、今回、扉絵も担当してくださり、現在、ブログ公開されている誕生花言葉の花を、手描きの水彩バージョンで表現してくれた。清楚ななかに、凛とした強さを感じる。野ばらは可憐ながら、野生の意思を持つ。その詩う(うたう)声に、そっと耳をかたむけて、いつまでも心をゆだねていたくなる。


あんとみさんは、表紙絵や目次や製本やデザインその他もろもろ、装幀を担当してくださり、『よしいはるき日和』を誕生させてくれた。


萌える若芽の黄緑色は、いつまでも、芽吹くエネルギーと晴れ晴れと広がる空に向かって伸びていくことを忘れない初心を思い出させてくれるナイスチョイス。


吉井さんと、わたしたちゼロセブンの似顔絵を、リアルタイプとおちゃめタイプの2バージョンで作成し、飾ってくれた。似顔絵は「ひらたい顔族」が描きやすいのだとか。

作品は、ベロニカの別名が「ルリトラノオ」ということから、瑠璃色をした虎を、あんとみタッチで描き、わたしたちに勇気を注ぎ込んでくれる吉井春樹さんのかわらぬ愛のスタイルを、大胆な構図で表現してくれた。圧巻。
あんとみさんは、動物を描くのが、本当にうまい。


tokiさんは、吉井さんの名前のあいうえお作文。丁寧に選ばれた真摯でひたむきな言葉がちりばめられたパッチワークのよう。大切な人へ贈る大切な気持ちがこめられた、いつまでも見晴らしていたい春の空のような心地よさだ。


*    *    *


待ちあわせ場所の「ボダイジュカフェ」に到着した人から、あんとみさんが製本してくださった白いページに、自分の作品を貼ってゆき……


本が生まれました。


いいなあ。こんな本が贈られるなんて。

贈られる人も幸せ。
贈りたくなるわたしたちは、もっと幸せ。


浜田えみな


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