青空のゆくえ  →スイカ?



人は、誰もがオリジナルだ。


宇宙に伸びる自分の軌道が見えたなら、
生まれたての銀河のように、
もやもや、ほわほわとしているオリジナリティに気づくだろう。


こわれないよう、傷つけないよう、
それを外に出してみるとき、
一番、うまくいきそうな予感がするもの。

それを頼りに、

自分の軌道を進む。


人に寄り添う。


*    *    *


(承前)


四番手 Dさん
 
「仕事で毎日、文書を書いているけれど、それは小説とはちがって、感情を交えず、事実を論理的に書くことしか考えていない……」

というようなことをおっしゃった。

職業から察するに、論旨を簡潔かつ明確に、抑制の効いた格調高い文章を書かれているのだろうと思う。
何が争点なのかをとらえて、事実を明らかにしたり、立証したりするなかで、多くの事柄から必要なことを取捨する力。


そんなDさんが取り上げたのは、196ページ。
お医者さんからの質問 【簡潔でわかりやすい文章】 と、村松先生の回答 【まず何を知りたいのかを押さえる】 だった。

これは、


《患者さん向けのパンフレットを作るときに、なるべく専門用語をつかわず、病気のことをわかりやすく説明したようとすると、長くなってしまい、絵を入れたり、レイアウトを工夫しても、患者さんは読んでくれない。簡潔に書こうとすると、言葉足らずになったり、専門用語を使わざるを得ない。どうしたらいいだろうか?》


というお医者さんの質問に、村松先生が、患者さんの知りたいことを五つあげ、患者さんの関心の優先順位を大切に書くことを、具体的な例をあげてアドバイスしている項だ。


読み手が何を求めているかを察知して、それに沿う文章を書く。これは、医者と患者という立場だけでなく、どんな文章を書くときにもあてはまると、Dさんはおっしゃった。誰に向けて書いているのか。なんのために書いているのか。

そして、304ページに書かれている言葉も取り上げた。

ここは、二番手 Bさんの心を揺さぶった名言、


「あらゆる人は自らの軌道と運命を持った星である」 


という、A・クロウリーの言葉を引用して、村松先生が説いている【オリジナリティ再々論】の答えの部分だ。
太ゴシックで3ページにも渡って書かれている。


なお、オリジナリティについては、


質問 【オリジナリティって何?】
答  【人の内面が持つ視点】
質問 【オリジナリティ再論】
答  【自分を客観的に見られる視点】
    【オリジナリティ再々論】


と、14ページ半に渡って展開されているように、読者にも関心の高いテーマであり、村松先生が 


「オリジナリティ! それこそ私がお話ししたいことです。~ 中略 ~ したがって、質問が期待している以上にオリジナリティについてお答えしましょう」 


と、力をこめて伝えてくださったものなのだ。表現の源泉だ。


誰もが自分の軌道と運命を持っている。
すなわち、オリジナリティを持っている。


オリジナリティは、わたしたちの魂の核の中で、生まれたての銀河のように、もやもや、ほわほわとしている。
見える形で取り出そうとしたとき、その輪郭が一番、鮮明になる方法が、人によってちがうのだ。


見つけたら、人生はどんどん楽しくなる。
絵でも、音楽でも、造形でも、工芸でも、舞踊でも、競技でも、映像でも。


*    *    *


Dさんの発表は、「創作のための文章」と「それ以外の文章」の話を呼び、文章作法について書かれた本の話を呼び、『理科系の作文技術』(木下是雄著)という本のタイトルを連れてきた。


(理科系の作文技術???)


幾人もの人が、仕事上の文章を作成する際に、この本がとても役に立っているのだとうなずかれた。
わたしはタイトルすら知らなかった。
Mさんが話された言葉が印象に残っている。


「僕がやっているのは、構造を日本語に置き換えること。三次元物体を日本語に置き換えること。この本がなかったら、今の仕事はできていない」


文章は、そもそも、何かを日本語に置き換える作業だ。
何を置き換えるかによって、適した文体や形式がある。


『日本語の作文技術』(本多勝一著)のタイトルも出た。とても懐かしい。
何を隠そう、野生の暴れ馬のような文章を書いていた私が、まがりなりにも、人に最後まで読んでもらえる文章を書けるようになったのは、この本のおかげだ。


とはいえ、二十年近く前のことなので、どんなことが書いてあったのか、詳細は思い出せない。

この類の本は、教習所のようだと思う。ルールと運転技術を身に着けるための。

運転できるようになったら、どこに行くのか、どんな道をゆくのか、誰を乗せるのか、そんなあれこれを楽しめる。

『理科系の作文技術』は読んだことがないので、さっそく注文した。免許を取っておかないと(笑)


五番手 Eさん


Eさんは、一番長く発言していた人で、私にとって大きな気づきを与えてくれた人だ。メモも多い。そのまま転記してみる。


小説を書く人の本だと思った。
ぼくは小説を書くわけじゃないけど、仕事では使う。
推敲一回が役に立った。
小説を書くのが趣味の人がいるとは知らなかった。なんで趣味なのか? 趣味を仕事にしようと思わないのか?
自分も小説家に対するあこがれはあるけれど、難しい。
そうか、才能なんやと思った。だって、赤ちゃんで生まれたときはいっしょなんだから。
内面を見続けた人や、○○○○な人(聞き取り不明)が小説を書く人になるんだと思って、ぼくには小説家は無理やなと思った。


と、ここで、まわりから、「本、出してるやないですか」 という声。


「それは仕事の本だから。○○さんも書いてるでしょ。仕事の本は、テーマさえ与えてもらったら誰でも書ける。みんなも書けるでしょ? でも、随筆とか、人に感動を与えるのは難しい」

(ここでCさんが、「おれも、“こだいし”やったら書けるかも」 と発言)


心のなかで、
(Eさん、小説も、テーマなんですよー!!!)
と連呼した。


発言メモを続ける。


この本には、文章を書くだけでなくて、いろんなことがうまっている。
外在・内在
ぺらぺらしゃべる人は、自分と対話していない。外在的に受け止めたあと、いったん、内在的に、じっくりかみしめてから的確な言葉で話そうと思った。
何かで読んだけど、『ベルサイユのばら』を池田理代子が描いたのは、めっちゃ描きたかったから。売れそうだから描いたのではない。
自分の中に、それほどまでにして書きたいものがあるのか?
書きたいものが出てきたら、めざそうかな。


テーマさえあれば書けると気づいてるEさんは、小説でもなんでも書ける!


*    *    *


「小説を書くのが趣味の人なんているんやー」と驚いた というEさんの言葉に、わたしも驚いた。
ノウハウ本があふれているし、自費出版社も林立しているし、公募もたくさんあるし、世の中には書きたい人だらけじゃないのか? と思ったからだ。

だけど

「浜田さんは趣味で書いているのですか?」と言われても、
「プロを目指しているのですか?」と言われても、
どちらも微妙に肯定できない。


ところが、『秘伝』の質問者のなかには、「趣味として文章を書いてゆきたい」と宣言している人たちが、少なからず登場する。趣味で書けたら、楽しいのかもしれない。


(わたしはなぜ書いているのだろうか?)


〈プロになりたいから書くというのならわかるけど、ただ、書いている人がいる。なぜか?〉
というEさんの疑問は、耳に痛い(笑)。


今まで
本を読むことが好きだったから、自分も本を書きたいのだと思っていたし、人にもそう言ってきた。
だけど、好きなことと、やりたいことは、まったく別のエネルギーを持つ軌道だとわかった。


人は、誰もがオリジナルだ。

宇宙に伸びる自分の軌道が見えたなら、生まれたての銀河のように、もやもや、ほわほわとしているオリジナリティに気づくだろう。

こわれないよう、傷つけないよう、それを外に出してみるとき、一番、うまくいきそうな予感がするもの。
それが、わたしの場合は、文章だった。そうだったのだ。


自分の軌道を進むための乗り物。人に寄り添うための乗り物。


六番手 Fさん


Fさんの第一声は、「長い本!」だった。


本当にそのとおりだ。厚みは2.5センチある。重さも(量ってみると)492グラムもあった。電車で立って読んでいると腕が疲れる。みなさん、お忙しい中、よく読んでみようと思われたものだ。それだけ、「ネタ本に選定される本」に対する信頼は、厚いのだろう。

『秘伝』は、メールマガジンに寄せられた読者からの質問と、村松先生からの答で構成されている。


Fさんは、ブログも文章も書いていないそうだ。
だからだろうか? 「Fさんだから」だろうか?
『秘伝』の内容ではなく、村松先生にスポットをあてておられた。



「質問者の中には、いろんな人がいるのに、すごくていねい! 親切な人!」

そう思いながら読みすすんでいくと、Fさんの中で、


(村松恒平という人は、どういう人なのか?)


という

ことが、ものすごく気になってきて、ブログや著作などを検索して、いろいろ調べたそうだ。


質問者が話していないことまで、まるで見えているかのようにフォローする村松先生の深い洞察力と、適切でわかりやすいアドバイスは、質問されていること以外の場面でも、さまざまにあてはまる優れた汎用性を持っている。


それは、『秘伝』に質問を寄せている読者のかたも書かれていたし、読書会の中でも、みなさんに取り上げられていた。


ネタ本推薦者のMさんの口から、すかさず、「三日月」の話が出る。

97ページだ。

村松先生は、その人が言ったことを聞くと同時に、その人が言えなかったこと、言わなかったことに重きをおき、その真ん中に話しかけるようにしていると話されていた。


その部分を引用する。質問のタイトルは【アドバイスの方法】 答は【自然な説得力】


三日月のように見えても、月は球体だ。その明るい部分が語られた部分だとすると、暗い部分が語られなかった部分。明るい部分だけを見ていると中心を取り損なう。あくまで球体の中心に働きかけるようにします。
あと、僕の言うことをそれなりに納得してもらっているとしたら、それは、答えの一本道だけじゃなくて、その脇道も全部知っているということです。


……
どんな人も、目に見えているのは三日月の光った部分。見えない球体を想像して、その真ん中に向かって、働きかける。


(向い合う人に、そんなイメージを心に持つだけで、接し方が変わるなあ)


そう思っていたら、


「ホームセンターにドリルを買いに来た人にドリルを売ってはいけないって言うもんな」
「そうそう。それやな」


と、グループの皆さんが盛り上がっていく。


(ドリルの話は、そんなに有名なのだろうか?)


知っているフリをしてニコニコしてるほうがラクチンだけど、勇気を出して知らないことを伝えて、「ホームセンターのドリル」という話を教えてもらった。
皆さんが、口々に説明してくださったことをまとめると


ホームセンターにドリルを買いにきた客に、言われるままにドリルを売ってしまうのではなく、なぜ、ドリルが必要なのかを尋ねてみる。
その理由は客によって違うけれど、板に穴を開けるだけなら無料コーナーがあったり、壁に収納の棚を作るのなら、それよりも目的に合致した既成の棚があったり、ドリルを使わなくても解決できることを提案できるから だそうだ。

三日月の部分がドリル。隠れている残りの部分が、お客さんが本当にやりたいこと。


七番手 Gさん


Gさんも、文章技術に関する本だと思って読み始めたけれど、


(ちがう)


と感じだそうだ。これは、セラピーか、カウセンリングの本じゃないのか? と。


(なんて、いろんな人がいるのだろう?)
(なんで、こんなことを質問してくるのだろう?)
(なぜ、ボツにしないのだろう?)


首をかしげたくなるような質問にも、村松先生はていねいに回答されている。
それを読んでいると、全く見当違いに思えた突飛な質問の答の中にも、自分に必要な言葉が書かれている。
村松先生の審美眼と洞察力には、感銘を受けるばかりだ。

『秘伝』は、生きていくための奥義に思える。

読んでいると、言葉や文章は、普通の人が普通に生きていく上で、あたりまえに必要とされることなのだということがわかる。


村松先生の言葉に、ひたひたと癒されていく。


そんなGさんが、響いた言葉として読み上げたのは、182ページ


「文章を書く技術というのは、一面が自分の内側にあるものを主張する技術だとすると、もう一面は人の心に寄り添う技術なのです」


人の心に、寄り添う技術。


自分に寄り添う言葉を受け止めながら、相手に寄り添う言葉をそそぐよろこびを感じているから、自分は書いているのだと、Gさんは感じている。(わたしのことですけど(笑))


八番手 Mさん


Mさんは、まとめです(笑) 
ものすごくかっこいいことを言われたような気もするのだけれど、メモがない。というか、このあたりになると、三々五々、皆さんしゃべりまくりなのだ。


Bさんが、昔、新聞記者になりたくて、勉強して、かたっぱしから採用試験を受けた…… ということに端を発し、新聞記事の書き方の話になり、Eさんが、へたくそな新聞記事について辛口の意見を述べ、ノンフィクションとフィクションの話になり……


聴いていると、
皆さんが文章をよく読まれていることがわかった。
業種はさまざまだけど、毎日、人と関わる仕事につき、文章を書いておられることもわかった。
仕事以外の文章を書きたい気持ちがあることもわかった。


『秘伝』の言葉は、読んだ人に必要な言葉を浮かび上がらせる。
その言葉がきらめく角度に光を投げかけているのは、その人自身なのだということを、参加された皆さんを見ながら感じた。


トップバッター Aさんがおっしゃったように、『秘伝』は、開くたびに響く言葉がある。

古本屋に売らずに、どうぞ末永く大切にしてください(笑)


*    *    *


『秘伝』は、まだまだ続きがある。書籍としては、あと二冊。
作家志望女子には『文章王』が一番人気だった。 → 村松恒平書店


書籍になっているのは、メールマガジン150号までで、その後もメールマガジンは続き、267号をもって終刊。
今年の1月から『GOLD2012』という有料メールマガジンへ移行…… とみせて、不死鳥のように三か月で復活し、村松先生の近況やイベントやセミナー告知の折に、発行されることになった(笑)。→ 近況報告イベント告知 秘伝メールマガジン


読書会レポートを読んでくださり、執筆者の村松先生に関心を持たれた人へ、朗報!

5月17日(木) 18日(金)に、大津で村松先生のセミナーが開催される。なんてタイムリー!

詳細は、主催の千代里さんのブログへ → 千代里の福ふく日記

千代里さんは、元新橋の芸者さんで、著作も多数あり、たおやかで美しい人。

ぜひ、お会いしたい! 声を聴いてみたい。


同様のセミナーを、大阪では、6月9日(土)、6月10日(日)に集中して開催することが決定している。
詳細は、このブログ、メールマガジン、ツイッターなどで告知される。


この機会にぜひ、ご自身の軌道を照らす光を、受けとってください。


浜田えみな


読書会レポート おまけ(懇親会)へ(つづく?)