自分の軌道は目には見えない。
だけど在る。


言葉は、見えないものを照らす光だ。


沈んでいたものを浮かびあがらせ、
気づかせてくれる。
誰もがもっていて、忘れそうになっている、
失くしてはならないものに。


*    *    *


『なにわビジネス読書会』は、ネタ本としてとりあげたビジネス書を一読したうえで集まり、食事をしながらざっくばらんに意見を交換することにより、新たな気づきを得てビジネス感覚を磨いていこうという名目の、気軽ぅ~な勉強会兼飲み会です。
 異業種の方々と人脈を構築する絶好の機会にもなります。初めての方でもお気軽にご参加ください。


◆今月のネタ本
[プロ編集者による]文章上達スクール『秘伝』
(村松恒平著/メタブレーン) \1890-


というお誘いメールを、二月に開催された村松先生の「自己表現の夢をかなえたい」というセミナーに参加してくださったMんからいただき、参加してきた。


Mさんは、ネタ本:『秘伝』のことをこんなふうに紹介している。


メールマガジンに寄せられた数々のガチな質問に、プロ編集者がガチで回答。技術論ではなく『視点を磨く』ノウハウ・エッセンスは、プロにも認められている。目からウロコの『文章バイブル』だ。
これまで数多く読んだ文章本の中でも最高の一冊です(M)。


(なにわのビジネスマンのみなさんは、『秘伝』をどのように読まれたのだろうか?)


*    *    *


会場はビジネス街の居酒屋の二階の突き当りの部屋だった。

壁には古いポスターや張り紙がそのままになっていて、照明の微妙にレトロな色合いや、壁のクロスの退色加減や、人数分用意されたコップや小皿に、昭和の香りが漂う。


居酒屋というよりは、商店街の管理事務所の二階みたいな雰囲気で、福引のガラポンが置かれていたとしても、まったく違和感がない。
なぜかヒロ・ヤマガタの古いポスターが壁に残されていて、タイムスリップしたような気持ちになる。


(ここは、いったい、何時代なんだろう?)


次々に人が入ってきて、明るい挨拶をかわし、名刺交換をしている。
参加者は十七名ほどとのこと。


店を出て少し足を伸ばせば中之島だ。開け放たれた窓から、ぬるい川風が入ってきて、ますます秘密会議の雰囲気になっていく。

どこからか、おいしそうな匂いがただよってきたけれど、料理は討議が終了するまで、おあずけとのこと。

最初は、二つのグループに分かれて座り、読んできたネタ本について感想などを発表するのだと、Mさんが教えてくれた。


わたしが座っていたのは、入口を背にした、テーブルの末席だったので、全体を見渡すことができた。
ふと見ると、全ての参加者の前に、


元気あふれるビタミンカラー(表表紙-赤、背表紙-緑、裏表紙-黄緑)の『秘伝』! 『秘伝』! 『秘伝』! 


みんなが、それぞれのポーズで、『秘伝』を手にとり表紙を開けているので、まるで秘伝鳥の翼がはためいているようだ。


この部屋だけで十七冊!! 『秘伝』のオーラが部屋中に!!


(うわあああ……)
(すごい)


しかも、参加者しているほとんどの人は、文章書きなど目指しているはずもなく、Mさんの推薦のままに、読書会に出席するために購入したのだと思う。
帯も傷んでいない、ピカピカの『秘伝』を持っておられる人もいて、あまりのまぶしさに、ひれ伏してしまいそうだった。


(この光景を、村松先生に観ていただきたかったなあ)


『秘伝』の赤と黄緑は、昭和レトロな空間に、ものすごく映えた。


*    *    *


発表の時間。

この近さで発表しあうなんて、小学校の班学習か給食の時間以来だ。
初めての参加だったので、わたしは発表はグループの最後にしてもらえた。


驚いたのは、皆さんがものすごく真面目にとりくまれていることだった。
手元に置かれた『秘伝』には、付箋が飛びだしている。マーカーで線が引かれている。
細かな字でびっしり書かれたメモノートを用意されている人もいる。


(プレゼンの資料ですか?)


と確認したくなるほど、びっしり何十枚もの付箋をつけている人もいる。
付箋の色や大きさ、つけかたなども、さまざまだった。
目に入るものなんでもが新鮮でおもしろい。


いただいた名刺の肩書きにしても、ビジネス用語に疎い私には、なんの仕事なのかよくわからなかったので、あれこれと質問攻めにしてしまいたくなるのを、必死でおさえた。
何を隠そう、一番あやしい、ふざけた名刺を出したのは、私なのだ。

「コトバの指圧師」に「ことだま師」に、この日初めてつけた「文章作家」(爆)


(だって、ビジネス名刺なんてもってへんねんもん)


“ハマってみな人生 爆笑中 浜田えみな” の名刺を作る時間がなくて、本当によかった。


*    *    *


さて。
まだ読んだことのない人や、村松恒平さんをご存知ない人に、『秘伝』を手にとっていただけたら嬉しいことと、何よりも、村松先生にお伝えしたいので、この日の読書会で、発表されたことを綴っておこうと思う。走り書きのメモなので、細かいニュアンスは違っているかもしれないけれど(汗)
お名前は実名ではなく、アルファベットAからの通しにしておく。


*    *    *


トップバッター Aさん。


「半分しか読めていない」と言いながら……


(『秘伝』の赤い表紙には、[プロ編集者による]文章上達<秘伝>スクール 壱 秘伝 と書かれているので)
「文章上達のテクニックが書いていると思って読み始めたけれど、そうではない、【哲学的】だと思った」

とおっしゃった。

【哲学的】という言葉に、わたしも含めて、その場にいたメンバーが、


「そうそう!」


と、大きく賛同した。


(やっぱり、誰にでもわかるんだ……)


そう確信できた。


弐作目の『文章王』を読み、参作目の『書く人』を読み、『心が大事』のブログを読み、『GOLD2012』を購読し、村松哲学にどっぷり浸かっている身としては、思いだそうとしても、『秘伝』を途中までしか読んでいない自分には、もう戻れない。


でも、途中までしか読んでいない人にも、ただの文章技術の本と違うということがわかるのだ。
それが、村松先生の「行間の妙」だと思う。
その場にいる人が皆、同じように感じていることが、嬉しかった。


だけど、閉じられた『秘伝』の表紙は「文章上達」の文字があるから、手に取って読む人は限定されてしまうだろう。

Aさんは、文章上達に興味のない人にも「おすすめ!」の本だと力をこめ、別のタイトルで出されていてもおもしろく読めると思う とおっしゃっていた。
さらに


「『秘伝』を読んでいると、自分が漠然と感じていた悩みが解決するのを感じた」と語り、
「最後まで読む」と、みんなの前で宣言された。


そして、目次のページを開いて、

「この本に書かれていることは、今、響かなくても、将来的に響くものがあると思うから、古本屋に売らずに持っておく」と(笑)


Aさんに響いた箇所は、161ページの 質問 【批評って何?】 答 【本物偽物を見破る力】
神道の「審神者(さにわ)」を例にあげて、批評に関しての見解がひもとかれている項だ。


読書会の記録メモには、走り書きで

「物の価値、本物偽物、大事なものを見る力を失くしてる……」

としか書かれていない。Aさんの心に、この項目が響いた理由を語るには足りない。

たぶん、Aさんの話に聞き惚れていたか、まわりからの意見もどんどん出て、メモしきれなかったかどちらかだ。感動のシメの言葉があったはずなのに(残念)


二番手 Bさん。


「なにわビジネス読書会」の定例会は、毎月、ネタ本が指定されるのだけど、忘年会の時は、それぞれがおすすめの本を持ち寄って発表するらしく、今月のネタ本『秘伝』は、実は、昨年の忘年会で、Mさんが「今年の一冊」として紹介されていたそうだ。


Bさんは、忘年会でのMさんの推薦の言葉を聞いて、「これは!」と感じ、


「年末に、すぐ買いに行った!」

そうだ。さらに、


「読めば読むほどハマってきて、仕事でも戦法として使ってみようかなって思うことが書かれていた。インデックスを作りたいくらいだ。今までにないタイプの本だ」

と熱弁。

そして、Bさんの心に残るひとことは、297ページの


「あらゆる人は自らの軌道と運命を持った星である」


二〇世紀の魔術師、A・クロウリーの言葉で、村松さんご自身も大好きだと引用されているもの。

『秘伝』で、この言葉を目にしたとき、どういう感じだったかを、とても熱く語られていたBさん。

メモもとらずにお話を聴いていたので、そのセリフを再現することはできないけれど、聴いているこちらの胸まで熱くなってくるものだった。


(自らの軌道)


まさに、今、村松先生のメールマガジンで沸騰中の話題であり、読む人の心の銀河に、くっきりと伸びていく道筋だ。

Bさんの心に向けて閃光を放ち、場にいた人をうなずかせた「軌道」という言葉。


あらためて視覚で認識する文字が、沈んでいたものを浮かびあがらせ、気づかせてくれる。
誰もがもっていて、忘れそうになっている、失くしてはならないものに。


自分の軌道は目には見えない。
だけど在る。
言葉は、見えないものを照らす光だ。


Bさんは、太字になっている箇所にも着目して読まれていたようで、301ページからの【オリジナリティ再論】と331ページからの【コミケ論】など、数ページにわたって太字が続いているところなども紹介してくれた。


三番手 Cさん。


帯のついたぴかぴかの『秘伝』を携えている。

今まで私が目にしたことのある『秘伝』は、みんなボロボロだったので、手に取らせてもらいたくて仕方がない(笑)


「これ、読んだら、“書けるかも!”という気になる」

とCさんがおっしゃると、


「おお! そやろ?」
などと、そこかしこから賛同する声があがったので、驚いた。

わたしは、読んでも「書ける」気にはならなかったし、「書けてもいない」から(汗)。


Cさんが『秘伝』を読んで目からウロコ」だと感じたのは、54ページと129ページにある 【推敲は一回】 だそうだ。
村松先生は、その項で 〈人は一晩寝ると変わってしまう〉 と書かれているのだけど、


「そのとおりだ」

と、Cさんは力説されていた。
なんと文体も変わってしまうのだそうだ。


(え? 文体が変わる??)


信じられなくて耳を疑っていたら、


「変わる変わる!」

という賛同の声多数。


(えーーーーーっ)


びっくり仰天。
一晩寝たら文体が変わるなんて、ありえない。

気持ちの違いを表現するために、意図的に文体を変えて挿入することはあるけれど、途中まで書いた「だ・である」の文章の続きが、翌日に書きはじめたら、「です・ます」になるなんて!?


それは、日本語で書いていた原稿が、気づいたら英語になっていた…… のと同じくらい、私には間違えようのないことに思える。


Cさんは、豪快に笑いながら、何度も


「書ける気がする」
「“こだいし”を書いてみようかな」

とおっしゃっていた。

“こだいし”という響きの漢字が思い浮かばず、「古代詩」に変換してしまい、


(古代ギリシアの詩曲? ダンテの神曲? どうしてまた……?)


などと不可思議な気持ちでいたら、懇親会の時に「古代詩」ではなく「古代史」のことだとわかった。
Cさんは、今、歴史に夢中だそうだ。「古代史」を執筆される日は近い。


(つづく)


まだまだ続きます。あと五人。
そのあとの懇親会もめちゃくちゃおもしろかったので、お楽しみに。


浜田えみな