人から言われると
「心が凍るような、置き去りにされたような、
ひとりぼっちになってしまうような、
悲しい気持ちへ向かう」
しがらみをほどいて、
「あたたかいもの、みたされるもの、
すくわれるもの、うれしい気持ちへ走る」
つながりに結びかえるための物語だ。
* * *
今、決めかねているのは、
① 主人公の名前を作中に出すかどうか
② 会話の文体をどうするか
決めかねたまま書きはじめた。決めかねたまま、少しずつ物語世界が出来ていく。登場人物が動き始めた。
第四章を書いていて、ふと思った。
(これは、同一人物だろうか?)
章ごとに場面が変わり、扱っているモチーフもちがう。伝えたいメッセージをめざして文章を書いていると、場の持つ空気感にひきずられて、登場人物のセリフが走り出す。走り出すのだが……
ちょっと待て。
(第一章で、ああいう考え方をしている登場人物が、はたして、このセリフを言うものだろうか?)
(この会話は不自然ではないだろうか?)
(言動に整合性はあるだろうか?)
(別人になっていないだろうか?)
そう考えたときに、登場人物の設定がアバウトだったことに気づいた。
年は? 身長は? 体型は? 髪型は? 顔は? 服装は? 趣味は? 性格は? 食べ物の嗜好は? 住んでいる場所は?
今書いている一つの物語は、だいたい原稿用紙四~五枚。全部合わせても三十枚にも満たない。詳しい人物プロフィールを作らなくても、「だいたい、こんな感じ」という設定で、書けるのではないかと思っていた。
そもそも、もっと短いストーリーの予定だったのに、五つを一つの物語につなげることに決めたので、主題に対するメッセージのほかにも、いろいろと描写が必要になってきた。
単品から定食へ。となると……
(土台を持たないと、ブレるかも)
* * *
今、書いているのは、五つの言葉の
人から言われると、
「心が凍るような、置き去りにされたような、ひとりぼっちになってしまうような、悲しい気持ちへ向かう」しがらみをほどいて、
「あたたかいもの、みたされるもの、すくわれるもの、うれしい気持ちへ走る」つながりに結びかえるための物語だ。
伝えたいメッセージがあり、もってきたい方向があり、場面を設定した。言ってほしいセリフもある。言わせたいと思っている。
でも、わたしが無理やりに台本を読ませるわけにはいかないのだ。
登場人物の心の変化が読む人の心の変化になる。物語のなかで、とらわれていたしがらみをほどいて、新しいつながりへ結びかえる。このことが自然に行われ、ステージがどんどん変わっていく。最後の物語で開く扉。その向こうには……
(わあ、こんなん読みたい!)
最後の場所のイメージは、テーマ曲が私に喚起してくれるものなので、大切にして、外さないよう、ブレないよう頑張る。
では、登場人物が場面ごとに「別人」にならないためには、どうしたらいいのだろう?
やはり、プロフィール設定なのだろうか……
作家さんの中には、市販の履歴書の用紙を使うという人もいた。住んでいる町の地図を作ったり、家や部屋の間取り図を作るという人もいた。
そんなエッセイやインタビュー記事を読んだときは、(へぇ… そうなのか)と思っただけだったけど、やらないとダメだとわかった。
こういう考え方をする人物は、どういう服を着ているのか。
どういうしぐさをするのか。
どういう話し方をするのか。
考えが変わるときは、どういうときなのか。
そういうことすべてが整合していないと、収束できない。
* * *
第四章で、編み物が登場する。プロフィールを作成するのは「ゲージ」のようだと思った。
編み物で言う「ゲージ」とは、一定の広さの中の編地の目数と段数の平均密度のこと。自分の思うサイズの編み物を作るときに、何センチ編むのに何段編めばいいのかを計算するために使う。
十五センチ四方ほどの試し編みをして、その中央の十センチ四方の中に、何目、何段あるかを数え、一センチに必要な目数と段数を計算する。
出来上がるまで手元において、編地や手触りなどが変わっていないか、確認しながら編む。そうしないと、編んでいるうちに、力の入れ具合や糸の引き具合でサイズが変わってくるので、計算した段数を編んでいるのに、前後の身頃や左右の袖の長さが違うものができてしまう。
編み物に慣れないと、本体を編むのさえ遠い道のりだから、試し編みに労力なんて使えないという気持ちになるけれど、ゲージがないと、どこに終着するかわからない。目的地まで、迷子にならないための優秀なガイド。
というわけで、手間をいとわず、今日は、登場人物たちの「ゲージ」をとる。
勢いあまって、書き手の自己チューに陥っていないかどうか?
登場人物の気持ちをないがしろにしていないか?
読み手を置き去りにしていないか?
そんなことを、要所要所で確認するための。
とはいえ。
大丈夫なのかなあ。こんなことしてて。間にあうのかなあ。あと四日。
でも、ゲージは必要なのだ。
* * *
冒頭の懸案事項について。
① 登場人物の名前は決めた。物語の中で出すかどうかは、検討中。
② 会話の文体は検討中。
浜田えみな