骨盤は滑車みたいだ
骨盤の中に、滑車を抱いている
全身にエネルギーを伝えるベルトが
太くしなやかにまわり続けている
歩くたびに、感じられる
自分の軸を。自分のエネルギーを
歩くたびに、刻みつけている
自分の今を
歩けば歩くほど癒されていく
出口があれば循環する
後ろ姿
四回目のセッションの時に、
「前から見ているとバランスがいいように見えますが、後ろに、“悪いところ”がみんな出ています」
と言われた。腰のあたりや、足など、後ろと前では表情が全然違うのだという。
(……)
目に見える部分は取りつくろおうとするし、緊張感もあるけれど、見えない部分は、気の張りようがない。無防備で正直な自分の状態が、ありのまま現れているのだろう。
不思議なのだけど、そのとき、嬉しかった。
すべて鎧をまとっているわけではなかったことも。ちゃんとSOSを出していたことも。
ゆるゆるで、へろへろな自分が、そんな表層にいるなら、すぐに救われていくだろうから。自分で思うより、強がりではなかったことに、ほっとした。
律子先生の指示によって、セッションルームを歩く。数メートルの距離を、何往復か。
立つのも歩くのも苦手だ。見られているのも苦手だ。ふだん、何も考えずに歩いているのに、意識すると、ロボットみたいにぎこちなくなる。
(ふだん、どんなふうに歩いているのだろう?)
(歩くって、どういうことなんだろう?)
そういえば、歩きかたなんて、誰にも教えてもらわなかった。
ロルフィング#4のギフト
前回のセッションで、
「かかとの前のほうに向けて、おなかの中から、たまっているものを押し流すように」
と教えていただいた。
そのことを意識すると、足裏が吸いつくように地面について、体のブレが直る。軸ができ、しっかりと立てる。
かかと、ひざ、腰骨が安定し、肩がゆったりする。大地に吸いこまれながら、天空に浮きあがっていく。
拮抗した安定感のなかで、からだが伸びていくようで、気持ちがいい。
いつも、きちんとした姿勢でいるわけではないので、気がつくたびに、かかとの前に向かうエネルギーの流れを意識するようになった。立っているときも。座っているときも。歩いているときも。
「今とつながる」ことだと、教えてもらったから。
筋肉とタッチフォーヘルス
セッションのなかで、「大腰筋」「腹直筋」「腹横筋」という筋肉の名前が出てきた。
筋肉の名前を聴くと、「タッチフォーヘルス」の授業を思いだす。
「ヘルス」というと、なんだか風俗的なイメージがあり、うさんくさいと感じられるかもしれないけれど、キネシオロジーによる心身バランス調整法だ。西洋医学と東洋医学が融合していて、脊椎や筋肉と中国の五行説や経絡が関連づけられていて、とてもおもしろい。
心と体がつながっているということを、筋肉の反射で実感することができるからだ。
「経絡」とはなんだろう? 「ツボ」なら知っている人も多いだろうか。
人間の体の中を流れるエネルギー(気)の流れを「経絡」といい、手や足の指先を始点や終点として、十四本が全身をめぐっている。「ツボ」は「経絡」の上にある。
経絡を鉄道の路線とするなら、ツボは「駅」のようなものだ。
大阪であれば、JR路線・地下鉄路線・阪急電車・阪神電車・近鉄電車・南海電車・京阪電車…。
それらが、滞りなく運行していれば問題はないが、どこかの路線で事故が発生し、運転見合わせになると、たちまち、ほかの路線に振替輸送や、混雑などの影響が起こる。
乗降数の大きな駅(ツボ)に事故が生じ、流れが滞ると大変なことになる。
たとえば、大阪駅が破壊されて機能しなくなれば、、大阪のみならず、東日本・西日本への交通もマヒしてしまうだろう。
「大腰筋」は、その経絡のひとつ「腎経」に属する筋肉だ。「腎経」は、大阪の鉄道で言えば、どれに当たるだろうか。腎経の始点(始発駅)は、「湧泉(ゆうせん)」というツボで、足の裏の土踏まずの前よりのところ… 足の指を折り曲げたとき、くぼみのできるあたりだ。
人が生まれながらに持つ生命エネルギーが湧きいでるところだと言われている。
腎の経絡は、中国の五行説“木火土金水”の「水」にあたる。
中国思想では、色や感情や季節や味やすべての事象を五つにあてはめている。「水」にあてはめられている感情は、「不安・恐怖」
不安なことや、何か恐れることがあって、限界を超えてしまうと、ブレーカーが落ちた状態になり、エネルギーが遮断されるから、大腰筋は弱くなってしまうのだ。
製品が壊れてしまったのなら、専門の知識をもった技術者に修理を頼まなければ動かない。でも、ブレーカーが落ちただけなら、ただ、戻すだけでいい。指一本で。
簡単にいうと、「タッチフォーヘルス」は、ブレーカーをあげて、途絶えたエネルギーの流れを回復させる調整法だ。遮断された場所が、どのブレーカーとつながっているのかを筋反射で特定していき、落ちたブレーカーを戻す。日常の不調程度なら、本当に治る。
でも、電気容量(メンタル面)そのものを大きくしないと、負荷がかかるたびにブレーカーは落ち続けるから、その対処を、あわせて行っていく。
ところが、毎日、いろんな「不安・怖れ」を感じている私の「大腰筋」は、慢性的に弱かったので、授業のたびに、インストラクターや生徒さんたちに笑われていた。
何度強くしても、いつも弱かった。お腹も固かった。特にギックリ腰になったときは、ひどかった。
おへそのまわりや下腹部、恥骨周辺には、経絡のリンパの流れをつかさどるポイントが、たくさんあり、それらが、滞っているからだ。
予防として、気の進まない会議に出るときは、おへそのまわりのリンパポイントに、チタンシールを貼っている(笑)
貼ると、リラックスした筋肉にエネルギーが注ぎ込まれ、じんわりとなじんでいく感覚がある。不思議な安定感があって、気持ちが落ちつく。下腿に貼ると、力がこもって、しっかり立てるのがわかる。
経絡は電気エネルギーだといわれているが、確かに、その存在を感じることができる。
正確に行うときは、ちゃんと、セルフキネシオロジーで体に尋ねる。何が私を「こんな気持ちにさせているのか?」と。
十四本の経絡には、それぞれ、いくつものメタファーがあるので、それを読むだけでも、気づきがある。
たとえば、大腰筋のメタファーには
「何かにプレッシャーを感じていませんか?」
「目標が実現すれば、別の困ったことが生じるようなことがありませんか?」
などがある。まさに、「アクセルとブレーキ」だなあと思うのだ。
タッチフォーヘルスは応急処置には本当に効果があるけれど、深く根ざしたものを解決するためには、その人の内側で、何かが目覚めなければいけない。
(どんな負荷がかかっても、ブレーカーが落ちないように容量をあげることって、自分に軸ができることかもしれないな)
律子先生のセッションを受けながら、そんなことを考えた。
今なら、自分の大腰筋も、それほど弱いわけではないと思えるのだ。
ロルフィング#5のギフトの前に
ベッドの上で、言われるままに、筋肉を動かしていく。
実際の筋肉を動かすというよりは、気を流し、その流れに筋肉が随行していくような気がする。
かかとを動かすために、後頭骨から、大きなムーブメントを伝えて、一体となって動きが生まれているような。後頭部からすべてつながっているような。
仰向けに寝て、大腰筋や骨盤の傾斜を意識しながら、エネルギーを下方に送り、かかとを突き出していくと、ふっと膝が浮きあがる。膝を曲げようとする力ではなく、別の動きのおまけみたいに、不思議に立膝の状態になる。
左右交互に繰りかえして
「これが、歩いているときの動きです」
と言われても、最初は何のことかよくわからなかった。
(こんなに、膝を曲げるのが?)
(歩いているときに?)
(アスリートがよくやっている「腿上げ」じゃあるまいし……)
(そんな、行進みたいな滑稽な歩き方なんかできない)
と思いつつ、言われるままに足を交互に出していたけれど、とにかく眠くて、困った。先生に何度も、
「今、集中するときです!」
と言われたけど、起きてるのは、その瞬間だけで、三分の一くらい、ぐーすか寝ていたかもしれない。もったいない。
滑車とベルト
終わってから、歩くエクセサイズをしているときに、
(滑車みたいだ)
と思った。
骨盤は滑車みたいだ。
動力を伝えるベルトは、大腰筋・腸骨筋などのインナーマッスル。
大腰筋は、脊椎の十二番目の椎骨から始まり、骨盤の中を通り、大腿骨へ付着する。上半身と下半身をつなぐ筋肉だ。知識としては知っていたけれど、自分のカラダで意識することができなかった。
でも、ロルフィングの五回目のセッションを終えて、
(滑車みたいだ)
と、わかったのだ。
歩行のたびに、ベルトが右足、左足、右足、左足、……
安定している滑車。エネルギーを伝える、太くてしなやかなベルト。
右、左、右、左……
リズミカルに膝があがる。
わたしは、今まで、どんな歩き方をしていたのだろう?
出口
前回のセッションで、“かかとの前あたりから、おなかにたまっているものを押しながすように”と言われた。それを実践していると、からだの軸を感じ、ブレの修正ができるとともに、「今ここ」につながる安定を感じることができた。そのことをお話しすると、こんな答えが返ってきた。
「まず、出口をきちんと開いておかないと」
(出口……)
(出口があれば、循環するんだ……)
(出口を作ったから、わたしはこうして、立っているんだ……)
出せば入ってくる。
思いきり、息を吸いこむことができなくても、肺にある息をすべて吐きだせば、勝手に吸いこまれてくる。
出せば入ってくる。
出口がないのは苦しい。行き場がないと苦しい。
出口を確保する。
この気づきに、わたしは、これから助けられていくだろうと思った。
スポットライト
今回のセッションでは、軸を支える機能……「サポート隊」の存在が見えてきた。
「つないでいるもの」が見えてきた。
解剖生理のテキストに描かれた骨や筋肉が、自分の内側で「力強く」機能している感覚。
骨盤の中が目覚めはじめた。まだ、ほんの少しだ。
気づかないものは、いっしょくたにされている。肩や背中や足が、べったりと一つ。でも、そうではなくて、ひとつひとつの骨や筋肉の存在を認め、機能を知り、つながりがわかったら、それぞれの動きがどんどん活性化する。
誰だって、知ってもらって、認めてもらったら、頑張る。カラダだって同じだ。応援されたら、応える。
動くたびにエネルギーがチャージされていき、そのムーブメントは、大きくて強いのに、「エレガント」になる。
セッションのたびに、「エレガント」になっていく。きっと、これから。
「骨盤あたりに丸みが出てきましたよ」
と、鏡の前で指をさされても、
(そうなんだろうか?)
と半信半疑だけど、骨盤の中に大腰筋や腸骨筋の動きを感じられるようになり、広がりと、あたたかさを感じている。
骨盤の中に、滑車を抱いている。
全身にエネルギーを伝えるベルトが太くしなやかにまわり続けている。
歩くたびに、感じられる。
自分の軸を。自分のエネルギーを。
歩くたびに、刻みつけている。
自分の今を!
歩けば歩くほど癒されていく。
特別な何かじゃない。着替えもいらない。準備もいらない。道具もいらない。
これはすごいな。
セッションを重ねるたびに、舞台裏になっていた部分に、スポットライトが当てられる。
それは、知らないでいた宝物。
もっと自分を知って、もっと自分を応援したい。
浜田えみな