自分の体なのに
思い通りに動かせない


イメージはできあがっていて、
エネルギーもあるのに、からまわりする


どこかなにかがズレているなら、直したかった


大丈夫なんだと思えるゆるぎないものを、
手に入れることができるなら、
どんなことでもよかった。


変化するきっかけがほしかった


* * *


「リクト、からだ、軽くなったんか?」
「うん」(にっこにこ)
「コツメも?」
「うん」(にっこにこ)
「えみなちゃんも?」
「うん」(にっこにこ)
「…… おれだけ、何も変わってない! えーーっ オレ、連れてきただけやんか~」
リクトとコツメと顔を合わせる。(にっこにこ)
「オレが、一番、必要なんちゃうんかー ああ、カラダが重い! オレもカラダ軽くなりたい!」


帰りの会話(笑)


* * *


その日のあらまし


まず、リクトとわたしが十時にセッションルームを訪れ、律子さんと三人でカウンセリング。
その後、リクトだけが残ってセッション開始。


十一時三十分に駅で、てんちゃんとコツメと待ち合わせ、十二時にセッションルームに戻って、所見を聞かせていただき、コツメも、少し体を見てもらった。

そのあと、てんちゃんと子供たちはゴハンを食べに出ていき、私は「ロルフィング#5」
四人で合流し、帰宅。


リクトの施術だけであれば、わたしが引率すればよいのだけど、


(せっかくだから私も受けたいな) 


と思ったので、家族総出で大移動になってしまった。


ロルフィング前夜


子どもたちは、療育目的の図画工作教室(何回通ったか思いだせない)や、ドルフィンスイム(いいなあ、イルカと泳げて)や、ホースセラピー体験(効果のほどは?)や、クラニオセイクラルセラピー(何を間違えたか私がワークを習ってしまった)などに、とってつけたような説明で、突然、連れていかれることは慣れている(と思った)ので、今回も、あまり詳しく説明しなかった。


だって、わたしがロルフィングで一番、感動したのは、


「ちゃんと立てる」
「軸ができる」
「歩くたびに元気になる」
「つながり」
「今ここ」 
「存在理由」
「エネルギー循環」
「ムーブメント」


……など。

このことをうまくリクトに説明できる自信がない。
だから


「ドッジがうまくできるようになる」
「強いボールが投げられるようになる」
「からだが思いどおりに動くようになる」


などということを、口早に言っただけで


(とりあえず、連れていけばいい。カラダが変わればココロも変わる)


と逃げてしまっていた。


大ヒンシュク


リクトのカウンセリングの前に


(しまった! 律子さんに伝えるのを忘れていた!!)


リクトは、耳から入ってくる情報の認知が弱いのだ。
どのくらい弱いのかわからないけれど、長いセリフだと、最初のセンテンスしか聞き取れていないのではないだろうか?
家族で食卓を囲んで話していても、リクトだけが


「聞いてない!」


ということが多い。たぶん、聴き取れていないのだろう。

いつだったかなあ。劇場版「クレヨンしんちゃん」のDVDを見ているときに、ボタンを押しまちがえて、画面に字幕が出てしまったので、急いで消したら、リクトが、


「消さんといて! あったほうがよくわかるから」


と言ったので、驚いたことがあった。


(そんなにわかっていなかったのかー)


と、おそまきながら実感できたのだ。

リクトのような子は、大勢の人が集まって会話している場は、外国にホームステイしているようなものらしい。


(高学年になったら、授業についていかれへんなあ)


と思ったけれど、目から入った情報を処理することは問題がないので、教科書を読めばわかるkらか、なんとかなっているみたいだ。通知票の成績は悪くない。
でも、一斉指示や、耳からしか情報が入らないことなどは、抜けていることも多いだろう。


《 注意はワンセンテンスで。具体的な指示。スモールステップ。紙に書く 》 


この鉄則を、すぐに忘れて、長々と説教をしてしまう母親のわたし。


「そんなに長い間、話しても、リクトは最初の一文しか、わかってへんで」


と、てんちゃんに言われるけれど、それでも言いたい! 言わずにはいられない!!!


リクトのカウンセリング


どきどきのカウンセリング。
リクトはもう十二歳だから、律子先生は「大人」として尊重してくださり、とても、ていねいに説明してくださっている。
それを聴きながら、


(これは、リクトの容量を超えているかも……)


と思いはじめてきた。

あとで説明してやろうと思い、横でメモしながら、リクトの様子を見ていると、やはり、キャリーオーバーな様子だ。

たとえていうなら、私が英検二級程度のヒアリングテストを受けている感じだろうか?
聴き取れる単語はあるかもしれないが、文脈が理解できるかどうか……。

まず、きちんと椅子に座っていない。丸くなった背中を指でつついて、


(背中をまっすぐ伸ばしなさい!)


と喝を入れたくてたまらなかったが、


(何気ない姿勢を見てもらわなくてはいけない)


と思って、ガマンしていると、
話が二十分を超えてきたあたりで、リクトは、もぞもぞと、背中やわき腹を、掻きはじめた。


(げ!)


たぶん、


(すごく優しい声で自分のために、話をしてくれているけれど、何のことなのかよくわからない)
(いつ終わるかもわからない)


という状況で、それでも、リクトなりに、ずーっと、聴いていたのだなあと思うと、


(ものすごく成長したんだなあ~)


と感じて、


(ボリボリがりがり)


が、精一杯の「無言の抵抗」なんだと思ったら、


(ごめんよー)


と思いつつ、可笑しくてたまらなくなって、つい、吹きだしてしまった。


(めっちゃ不謹慎!)


律子先生がお話をされてる最中だったので、気を悪くされたことと思い、たいへん申し訳なかったけれど、


(ガンバレ、リクト! がんばれ、ごめん!)


という想いだった。


*    *    *


自分の体なのに思い通りに動かせない。
イメージはできあがっていて、エネルギーもあるのに、からまわりする。

どこかなにかがズレているなら、直したかった。
大丈夫なんだと思えるゆるぎないものを、リクトが手に入れることができるなら、どんなことでもよかった。
変化するきっかけがほしかった。


リクトはどこまで覚えているかなあ。
律子先生が話してくれたこと。


十二歳という時期。
これから中学生になる。人生のうちで、一番、骨や筋肉が著しく成長していく時期。
このときの、体の使い方が大事なのだという。


急がず、正しい基礎をつくること。


結果は早くでないけれど、たとえ、今、うまくできなくても、高校、大学で伸びてくる。
急ぐと、その瞬間はいいけれど、つぶれてしまう。
先生は基礎のお手伝いをすることはできる。

急がないで、育ててください…… と。


どんなふうな自分になりたいかと訊かれて、


「あてたい」


と言ったリクト。アタックを決めたい。

アタックするために必要な要素を、先生が一つ一つ言葉にしてくれた。


「方向性・強さ・速さ」


リクトは、相手がどこにいても、同じように投げていたのではないだろうか。
当てるって、どういうことなのか、どういう要素があるかなんて、考えたことがなかったのではないだろうか。


なぜできないのかと訊かれて


「焦ってしまう」


と答えていた。


リクトはどれだけ覚えているかわからないけれど、わたしが感銘を受けた言葉は……


・スポーツが上手になることは、自分をコントロールできること。本当の自分の素晴らしさを使いこなすこと


・(ずっと練習しているのに、うまくいかないときは)自分の可能性を信じる力が弱くなっている。どんなときでも自分の可能性を信じること。


・リクトはリクトのコーチになれる


・自分のことを、本当に知ろうとして関わる人を信じてまかせる。


・努力している人に可能性はついてくる


・コートで焦るのはしかたないけれど、普段の自分に焦ったらダメ。


・(イチロー選手は)自分を大切にして、今をつかんだ。



リクトが座って先生の話を聴いている姿勢から、


「緊張すると、からだが開く」


ことを指摘され、ドッジボールのコートのなかでも、同様のことが起きていると教えていただいた。

だから、


「絶対に当てなければいけない」
「絶対に受けなければならない」


ときほど、リクトは、自分のイメージよりも、体が開き、右肩が下がっている。
それなのに、同じように投げているから、コースがずれたり、球が浮いてしまったり、肩や肘に負担がかかる投げ方になる。しんどいばかりで、ちっとも当てられないという状態になっている。


では、どうすればいいのだろう?


「体幹を使う」


と教えてもらった。
ゴムテープを使ったトレーニングの仕方も教えていただいた。

カウンセリングの最後に、リクトはこんなふうに言ってもらった。


「今日、リクトくんの持っている種を、からだに植えます」


*    *    *


リクトは、先のことなんて想像もできないだろう。
中学生の自分。高校生の自分。大学生の自分。大人になった自分。
これからさき、どんなスポーツをするかも、想像もできないだろう。


今、ドッジボールがうまくなりたいだけだろう。


コーチや監督の期待に応えて、チームのみんなの期待に応えて、大阪大会を勝ち、関西大会に進み、全国大会に出場したいだろう。

でも、リクトは、まだ十二歳。あと、何十年もスポーツできる。


先生が植えてくれた種を大切に。ドッジボールをゴールにせずに、中学、高校、大学、社会人の自分のために、ていねいに、大切に。


このことを、リクトとともに、わたしが、意識の中にセッティングする必要があるのだった。


ドッジボールのコートで、リクトが活躍できず、チームに迷惑をかけ、それでもリクトが残るというなら、わたしがスタッフの用務を人の何倍も頑張ってカバーすればいい。
活躍できたのなら、六年生の母として、リクトを成長させてくれたドッジボールクラブに、感謝の気持ちをこめて、さらに、もっと、貢献すればいい。


リクトの可能性を信じる。
今、もしも芽が出なくても。
リクトの人生は、小学生だけで終わるものじゃない。


*    *    *


「信じることが弱くなっている」


という律子先生の言葉は、リクトだけでなく、誰にでも言えることだ。

誰だって、自分の力を信じている。自分の子どもの力を信じている。
だけど、まわりと比べたり、他人からの評価に左右されたり、目先のトラブルで、どんどんへこたれてしまう。


自分自身を守るために、逃げだしたくなるのだ。


リクトは逃げずに頑張ると言っているのに。
逃げたいのは誰だ?


「ホントは自信の塊」だと、胸を張ろう。
「根拠のない自信」を持とう。


受けとることも怖いほど、大きな才能が隠れているのなら。


*    *    *


「リクト、先生が、おなかを伸ばすようにって、言ってたやろ? どういうふうにするのか、教えてもらった?」
「うん」
「どんなふうにするの? やってみて」
「……」
「やって」
「忘れた。わからへん」
「! 先生が、“質問はありませんか?” って言ったときに、なんで、ちゃんと教えてもらえへんの???」
「だってー。次に行ったときに教えてもらったらいいと思って」
「次はいつ行けるかどうかわからへんやろ? おうちに帰ってから、でけへんやんか。どうするの?」


「どんなことした?」
「足とかマッサージしたり」
「お話ししてくれた?」
「うん」
「どんなこと?」
「いっぱいあったから覚えてへん。それに、眠かったし」
「!」

(おかあさんといっしょやん!)


わたしも自分のセッション中、とにかく眠くて、何回も夢の世界に入って、そのたびに起こされた。
「今、集中するときです。眠いけど、起きて!」
ホント、親子で恥ずかしい。


コツメ


どうしてだか、もじもじ。

(あれあれあれ。何ブリッコしてるのー?)


「コツメさん、ちょっと、からだをさわらせてもらってもいい?」
「……」
(えーっ 何それ。ハイ! でしょー)


「あ、無理にじゃなくていいのよ。イヤだったらいいのよ」
(あかん、あかん! ちゃんと視てもらいなさい!)
(なんでやの? コツメー。先生にちょっと見てもらったらいいのに! おかあさんは、おにいちゃんも心配やけ

ど、あんたのことも心配なの!!)


「ちょっとだけ、いい?」
「んー」
(ぎゃー なに首をかしげてるのー! お願いしますでしょーっ)


しかも!


(いったい何着て来てんのー???)


駅で待ち合わせしたとき、改札に現れたコツメを見て、目を疑った。すわりこみそうだった。
真夏に着るような、切り替えなしのノースリーブワンピース! 
まさか、こんなものを着てくるとは(泣) 


リクトと先に家を出たから、時間がなくて、コツメの着ていく服を用意していなかった。
よりによって、なんでこんな日にこんなものを。
てんちゃんに、ひとこと言っておくべきだった。
(くー)


先生の前に立っても、妊婦さんみたいなワンピースでは、からだの線がわからない。
いつものTシャツとスパッツは??? 

(ほんとにもぉぉぉ……)


でも、先生はプロなので、軽くふれただけでいろんなことがわかるのだ。

コツメは、ひざから下……ふくらはぎのあたりに、流れが悪くたまったエネルギーがあるそうだ。そこを、先生にしばらく触れてもらっていた。
すると


「軽くなった!」


それまで緊張した顔をしていたのに、先生の不思議なマジックで、表情がゆるんだ。
ちょっと、にこにこしたコツメ。


セッションルームを出てから、尋ねてみた。
「コツメも、おにいちやんみたいに、先生にロルフィングしてもらう?」
「ううん」
「なんで? おにいちゃん、嬉しそうやったやろ? コツメもしてもらったら?」
「だって、おとうさんがかわいそうやもん。連れていく人おれへんねやろ?」

(がーん)


これは、わたしたちの責任……。

事情を説明すると、
リクトのドッジボールチームの試合が、ほとんどの週末に入るため、わたしとリクトが、ロルフィングに行ける日は少ない。
だけど、コツメは予定がないので、てんちゃんさえフリーなら、いつでも受けることができる。
で、


「てんちゃんの用事のない日に連れていったって」
「オレが? なんでオレやねん」
「わたしが空いてるなら連れていくけど、ドッジボールとPTAで空いてる日がないねんもん。てんちゃんとコツメだけの日、いっぱいあるやろ?」
「そんなん、しんどいーっ」


という会話を、どうやら、じっと聴いていたようなのだ。


(があぁぁぁん。ごめんよー)


「お父さんは、しんどくないよ。コツメがやりたいなって思ったら、大丈夫だからね」


*    *    *


感覚でしかないけれど、リクトとコツメのエネルギーはちがう。


リクトのエネルギーが「地」なら、コツメは「天」という感じ。その大きさも可能性も、わたしの想像を超えるものだ。
クラニオセイクラルワークで、寝ているコツメの後頭骨に両掌をカップリングして、脳脊髄液のポンピングを活性化していたとき、あまりに大きなエネルギーの波動で、頭が爆発するような気がして、思わず手を離してしまいそうになったことが、何度もある。


その大きなエネルギーの行き場が、今のコツメには、ないように思えて、なんとか見つけてやりたいのだ。


*    *    *


「リクト、からだ、軽くなったんか?」
「うん」(にっこにこ)
「コツメも?」
「うん」(にっこにこ)
「えみなちゃんも?」
「うん」(にっこにこ)
「…… おれだけ、何も変わってない! えーーっ オレ、連れてきただけやんか~」
リクトとコツメと顔を合わせる。(にっこにこ)
「オレが、一番、必要なんちゃうんかー ああ、カラダが重い! オレもカラダ軽くなりたい!」


わたしも、てんちゃんが一番、必要だと思う!(笑) 
それがロルフィングかどうかはわからないけれど、何かが必要。


いろんなセラピーがあり、からだの調整法がある。
どの人にも、出会うべくして出会う施術がある。
そのときの自分に必要な扉が、開かれているのだと思う。

わたしが、アロマセラピーや、ヨガや、オステオパシーや、タッチフォーヘルスや、名前のことだまや、カードリーディングに出会ったように。


てんちゃんに、必要なものが何なのかは、わからない。


わたしが


「なぜ、今、ロルフィングなのか?」


ということを、会話では、うまく伝えられない。だから、文章で、書いていこうと思う。


浜田えみな


いよいよ 「ロルフィング #5」 へ