しんどくて
ヘロヘロなんていうことは、ないんだな
ぐったりで
もうイヤだっていうことも、ないんだな
どんなことも
楽しくて、可笑しいんだな
(注:以下は小学校の運動会のレポートです)
* * *
わー 子どもたちが全員こっちを向いている!
赤組。白組。全校生徒が二つに分かれ、一年生から外向きに六年生までクラス順に並んでいる。
なんて壮観なんだろう。
真正面にいるのは一年生だ。小さい! かわいい! が、列がぜんぜんまっすぐじゃない!(笑)
(なんで、あそこだけ、あんなふうに間が空いているんだろう?)
と思っていたら、先生が中腰姿勢のまま、小走りですっとんできた。隣の列とぺったりくっついている先頭の子を、正しい位置に引っぱっていく。続く列が、のろのろと蛇行して正しい位置に移動する。
(あれれ?)
上は体操服なのに体操ズボンをはいていない子が二人!! 白組の二年生と、赤組の三年生だ。気づいた先生が、生徒の腰のあたりにしゃがみこんで、何やら尋ねている。
(忘れてきたのだろうなあ~)
朝から体操服で登校させれば、こんなことは起こらないのに、うちの学校は、私服で登校して、教室で体操服に着替えることになっている。競技で汗もかくし、汚れるから、私服があると、さっぱりとした衣類で下校できるけれど、こんなふうに体操服を忘れる子どもが出てくる。
リクトとコツメは? 来賓席からは見えない。二人とも、身長は低くないから、後ろのほうにいる。ぜんぜん見えないなあ。
来賓席テントの長机には、配付用のペットボトルのお茶と礼状の封筒が置いてある。そのとなりの本部席テントには、ダンボール箱がいくつも置いてあり、必要な道具類がはみ出している。
放送委員の子たちが一列に並び、進行を読み上げる順番を、くすくす笑いながら待っている。すぐ後ろは校舎の壁だ。テントの内側には、太鼓や、じょうろや、リールや、メガホンや、その他もろもろ、いろんな器材や道具がごちゃごちゃと置かれ、入れ替わり立ち代わり、先生が出入りする。校長先生は、じっと前方を見すえているが、教頭先生は、あちこち走り回り、打ち合わせをしている。
保護者席は、もう、ぎっしりだ。
これから運動会が始まる。
子どもたちが、全員こっちを向いている! 全校生徒は六百三十五名。
* * *
ここは来賓席。今年はPTAの本部役員なので、来賓接待の役目があり、こんなVIP席にいる。
最後の運動会なのに、
(なんで子どものそばに行けず、来賓席付近で作業しなければならないんだ?)
と、当初は役員全員で、ぶーたれていたが、これはこれで、なかなか得難い体験だった。
校庭が一望でき、先生たちの動きもよく見える。
どの先生も、子供たちが好きなのだなあと思う。しょっちゅう、大きな声を出さなければいけないのだなあとびっくりする。ものすごい運動量だなあと圧倒される。
ところで、運動会の練習のために、いったいどのくらいの時間が費やされているのだろう?
今朝、リクトとコツメは、赤組と白組のどちらが勝つかという話で盛りあがっていて(二人の組が分かれていると、児童席の位置が対面なので、様子を見に行くのに移動距離が長いし、どちらが勝っても、その日の晩御飯の食卓が「穏やかでない」ので、親としては喜ばしくない)、
「全体練習では白組が勝った」
とリクトが言うので(リクトは白組らしい)、
(全体練習!!)
と、懐かしい響きを思いだした。
考えてみると、子どもたちは、運動会のために、学年競技の練習を(二学期の体育の時間を、がんがん前倒しにして)何校時も行う上に、さらに丸一日「全体練習」の日を設け、本番と同じプログラムで朝からリハーサルしている。
今年は涼しいが、例年、この時期は猛暑なので、たいへんだ。毎日、着替え用のTシャツを用意させられていた。
リクトとコツメは、勉強の時間が減るので、嬉々として登校しているけれど、運動会シーズンは、登校拒否傾向の子も増えるという。
走るのが遅い子。団体演技の振りつけを、なかなか覚えられない子。外にいるのが苦痛の子。
そのうえ、リレーの選手や応援団は、授業が終わってから、毎日まいにち練習がある。学校によっては、ものすごい時間をかけて運動会演目を仕上げるところもあるようだ。で、遅れに遅れた授業内容のしわ寄せの行方は……?はてさて。
(完璧に仕上げなくても、そこそこの授業単位で、できあがったところまでの仕上がりでもいいのではないか?)
と、思っていたけれど、こうして、子どもたちや先生のようすを見ていると……、
小学校という、たぶん、もう二度と経験することのない、不思議なコミュニティで、できなかったことが目に見えてできあがっていく過程や、みんなで創り上げていく過程を、子どもたちが実感し、体で記憶できる体験は、得難く在り難いものかもしれない。
だって、笑顔。笑顔。笑顔。作り物じゃない笑顔は、すがすがしい。
一年生は初めての運動会だ。六年生は、最後の運動会だ。放送委員の女の子たちは、一緒に並んでいるだけで、そわそわくすくす笑っている。最初に読みあげる子は、少し離れて緊張した顔つきだ。
朝礼台後方テントのこの場所は、まるで司令塔のようだ。運動会のまっただなかにいるライブな感じ。「中心にいる」って、こういうことなのだな。
* * *
小学校の校歌が流れる。十回以上は聴いたはずだが、まったく覚えられない(笑) 四十年近く前に卒業した小学校の校歌は今でも歌える。不思議だなあ。中学校の校歌や高校の校歌なんて、出だしすら覚えていないのに。
校長先生の長い長い長い長い長い長い長い挨拶。毎年のことだが長すぎる。
今年は涼しいからいいけれど、ここ数年は、猛暑だったから、運動会が始まる前に倒れる子が出そうで、イライラしていた。
さあ、児童代表の開会宣言だ! 何度も練習したのだろうな。まっすぐな声。かっこいいなあ~。親は嬉しいだろうなあ~。
放送委員の子が順番にマイクの前に出る。
「プログラム一番。○○体操!」
誰が考案したのか知らないけれど、小学校の名前がついているオリジナル体操だ。
「みんなの前で体操するねん」
という言葉どおり、後方から、体育委員の子たちが、一斉に飛びだしてきた! 清掃係兼体操係のリクト(笑)
(あ、やめて!)
リクトは、なんでだか、体操服のジッパーを上まであげてハイネックにして着用するのだ。
(がーん)
そうだったそうだった。去年も
(何やってるんだー?)
と思ったのだった。ああ、走っていって、ジッパーをおろして、「普通の子」にしたい。
ポロシャツの襟をピンと立てているのはオシャレだが、体操服のジッパーをあごまで上げているのは、へんすぎる。そんなことをしてるのはリクトだけだ。
(なんでかなあああああっっっ)
しかも、赤白帽のゴムが黒! しかも太ゴム! へんへんへん!
これは、私が、リクトが前日になって、ゴムがとれたと言ってくるものだから
(黒ゴムしかない。これでいっかー?)
と、コツメの髪の毛をとめる黒の丸ゴムをつけてしまったからだ。
(がー。こんなに目立ってヘンだとは)
(くー)
と悔やんでも、もう遅い。ヘンなリクトは体操を始めた。
(おお!)
うまーいっ!! あんなに手足を伸ばせる子だったっけ? あんなにしっかり軸を持てる子だったっけ? 別人のような整理体操! 信じられない信じられない。ビデオに撮りたいくらいだ。
そう。リクトたちは、「特訓」を受けたのだ(笑) リクトが体操を覚えていないと言ったことをブログに書いたら、てんちゃんから、
「リクトが覚えていないのは、逆向きにやらなあかんからやで」
と言われた。
並んでいる生徒と向かいあって体操をするので、右から始める動きは左から。右回しは左回しで行わないといけない。おお、それは難しい!!
(ほんまにそんなことリクトがやってんのかなあ?)
と思っていたけど、ちゃんとできていた。やればできるやん、リクト。大特訓の成果だ。すごい。
* * *
子どもたちは、運動会のプログラムとあわせて、自分たちのレース番号や団体演技のポジションを略図に赤丸で記したものを持ち帰ってくる。
たとえば、コツメだったら
プログラム№5 「GO!GO! つなひき」 …(トラックに綱の図があり、コツメのいる場所に赤丸)
プログラム№9 「ロケットスタート80」(80M走) …( 15 )レース目 ( 赤 )帽
プログラム№20 「がんばれ日本 花笠音頭で舞い踊れ」 …(フォーメーションの図が3パターン書いてあり、それぞれにコツメの位置が赤丸)
リクトの学年は、セリフ付きで、( )の中を各自で記入する様式。六年生の担任は気合が入っている。演目のタイトルの凝っている。
私は( 白 )組で( 体操 )係です。私の演技場所は、赤印のところです。
プログラム№11 「速きこと風の如し」(リレー)
私は( オレンジ )色のゼッケンで( 1 )レースの第( 1 )走者です。 …トラックにスタートとゴール位置の記載。待機場所のリクトの位置に赤丸。
プログラム№19 「侵略すること火の如し」(騎馬戦)
私は( 白 )組で、前から( 6 )番目の騎馬です。…騎馬の並ぶ位置に赤丸。
プログラム№23 「動かざること山の如し」(組体操)
一人技~二人技 リクトの位置に赤丸
三人技~六人技 リクトの位置に赤丸
波・花 円の形の図の中に赤丸
フィナーレ 私は( タワーの場所 )にいます
55人ピラミッド 私は( 3 )番目です。( 一番下 )
ピラミッドの正三角形が書いてあり、その中心に赤丸
この情報で、親たちは、どこにシートを敷いて観覧するか、どの場所でビデオを構えるかなどを検討し、シャッターチャンスをねらうのだ。
子どもたちの徒競走なんて、一レース数十秒だから、どんどん進行する。ぼやぼやしていたら、子どもを探している間に終わってしまう。
(朝、シマシマのハイソックスを履かせたはず)
などと、シマシマを探していても見つからない。なんでー??? と焦ってよくみたら、くるくると丸めてロールダウンしていたりする(泣)
今が何レース目なのか、しっかり数えていないと、本当に見逃してしまうのだ。
基本中の基本として、赤組と白組がわかっていなかったら、まず探せない。児童席の場所すらわからない。(わからないと、お弁当のときに迎えに行けない)
そうそう、うちの小学校は、お弁当は保護者と食べることになっている。親が仕事で来れない子たちもいるので、運動会の前には、必ずお弁当調査がある。
1 保護者と食べる 2 祖父母と食べる 3 近所の人と食べる 4 先生と食べる
該当するものにマルをつけて提出するのだ。「先生と食べる」子がどのくらいいるのかはわからない。
* * *
朝から何度もプログラムとポジションの用紙を取りだして、子どもたちのいる位置を確認してしまう。赤丸で教えてもらっても、団体演技のフォーメーションは、数回、移動するので、けっきょく、どこにいればいいのかわからない。コツメの花笠音頭も、三回、踊る場所が変わる。
「どこで踊っているのが一番長いの? 最後?」
「フィナーレは最後のポーズだけ」
「じゃあ、おかあさん、ここにいたらいいの? はじめのとこでいい? コツメ、どっち向いてるの?」
「ここのときは前。ここのときは後ろ」
(どこにいても、正面からは見えへんやん!)
リクトの組み立て体操も、いったい、どちらを向いてポーズを決めるのかがわからない。
「一人技」ってなんなんだ? 「波」は? 「花」は? 「タワー」って何?
リクトに聞いても、ぜんぜん、わからない。それどころか、
(もぉぉーっ。おかあさんは、なんで、わからへんの!?)
と、ブチ切れられる(苦笑)
まあ、どこからでも見えるやろ。
* * *
「コツメの綱引き」
綱引きって、何を見るんだー? と毎年思っていたのだけど、今年は、コツメの横綱級の肢体に釘づけになった(苦笑) なんて、ジャンボリー。探すまでもなく、後ろから四番目の位置にいる。
今まであまり考えたことがなかったけれど、綱引きは、体重の重い人が後ろに配されるのだな。
おかしいなあ。コツメは、あんなに小さくて細かったのに。
リクトは赤ちゃんの頃から、もっちりぷっくりがっしりどっしりだったけど、コツメは、小粒で、シュっとまっすぐ伸びたバランスのいい体型だったのになあ~。ごはんもおやつも、そんなに食べていないのに、小学校二年生あたりから体重が増えはじめた。今では大女。身体測定のたびに、リクトにからかわれているけれど、本人は全く気にしていない。
「コツメよりも太い子いるもん!」
「女の子?」
「うん」
たしかに、コツメより大きな子が三人いる(苦笑)。
気にして拒食症になられても困るので、本人がのびのび元気なら、それでいいです。
太いけれど力はないので、あまり戦力には、なっていなさそうなコツメ。綱引きは一勝ずつの引き分け。
「コツメの80M走」
保育園のときから運動会のたびに、
(コツメはなぜ、本気を出さないのだろう?)
と思っていた。どう見ても本気で走っているように見えないのだ。
(やる気があるのか?)
(一番になるための競争だとわかっているのか?)
(今、一所懸命走るときだとわかっているのか?)
と、保護者席でコツメの姿を見て、常々思っていたのだが、今年初めてわかった。
(コツメは本気だったのだ!)
本気で走って六人中五番目の子には、もう徒競走の話はしない。
(と、わたしは心に決めたけど、リクトがまた、言うんだなー!! コツメを逆なでするようなことを)
「リクトのリレー」
第一レース第一走者のリクト。
リクトは保育園の時から足が速い。五年生のとき、クラスで一番足が速いときいて、びっくりした。学年は三クラスだ。
「それって、学年で三位以内ってこと?」
「ちがう」
「なんで? クラスで一番なんやろ?」
「二組の二番の子は、オレより速いから」
(なるほどなあ)
「じゃあ、学年で五番以内??」
「そんなん、わからん」
(そりゃそうやな)
リクトの足が速いのは、浜田家七不思議のひとつだ。少なくとも、てんちゃんとわたしの優性遺伝ではない。小学生で人気者になる三種の神器は、
・おもしろい
・足が速い
・ドッジボールがうまい
だと思うのだけど、そのうちの一つは確実に満たしているのに、リクトは、まったく自己肯定感が薄い。不器用で、忘れっぽくて、球技が絶望的に下手だからだろう(笑) 女子にいつも怒られているらしい。好きな子いるかな? と思って聞いてみたら
「保育園のときはいたけど、今はいない。女子はきつい。こわい。うるさい」
“おかあさんとコツメと一緒” とは言いませんでした。
オレンジゼッケンの十番を付けて一レース目に並んでいるリクト。見逃す心配がない。さえぎるものがないので、よく見える。来賓席前がスタート地点なので、かぶりつき!
(あのオレンジの十番は、うちの子です!)
と、みんなに言いふらしたい気分。
コツメは、わたしが本部席にいるのは知っているので、トラックの中でも、移動のときも、必ず、手を振ってくれるけど、リクトはまったく関心がない。
(こんなに近くにいるのだから見てくれよー)
リクトは二番でバトンを渡した。
「リクトの騎馬戦」
第一戦。リクトは中央。男の子四人一組。終始笑顔で、ものすごく嬉しそうに入場してくる。どうせなら、戦国武将の甲冑もどきでも工作でつくって付けていたら、かっこいいのになあ。
向かいあって一列に並んだ騎馬は壮観だ。
「一度、騎馬をくずしましょう」
太鼓の合図と、先生のアナウンスが流れる。入場してきた騎馬が崩され、いったん、三角座りになる。先生がルールの説明をする。リクトたちは、何を話しているのか、終始ニコニコ。何をやっても、おもしろくて楽しいようだ。
「騎馬をつくりましょう」
いったい何騎あるのだろう? 男子生徒が四人一組だから、三十騎近くだ。
ひときわ大きく太鼓が鳴った。戦闘開始だ。
(……)
(あれれ?)
騎馬戦というものは、始まったとたん、
「うぉぉぉぉぉーーーーっ」
という歓声とともに、敵陣へ向けて、騎馬が突進し、帽子をとりあって、追いかけたり逃げまわったり、入り乱れるものではなかったか?
信じられないが、リクトたちは、戦闘開始の合図があっても、騎馬が動かなかった。
(?)
そりゃ、敵陣に行かなければ、帽子を取られることもないけどサ。覇気がないというか、弱々しいというか。
(どうすんの???)
と思って観ていたら、三々五々、ポツポツと騎馬が動き始め、それをキッカケに、やっと、騎馬戦らしくなった。リクトたちの騎馬は、帽子を取りもせず、取られもせず、楽しそうに走りまわって、笑いあっているだけ(苦笑)
それ、騎馬戦?
第二戦目
次は、女の子たちの騎馬だ。女子のほうが成長が早く、身長が高い子が多いので圧倒される。気迫もちがう。
合図の太鼓の音が鳴り響いた。
(きゃー)
いきなり、双方、大突進だ。これこそ騎馬戦。一瞬で騎馬は入り乱れ、腕をふりまわし、帽子をおさえて、ものすごい修羅場になっている。男子の一戦目とは全く様相がちがう。
(こわーい)
(おそるべし、女子パワー)
この騎馬戦が、教室での男子と女子の性質をよく表しているのだろう。
第三戦目
男子騎馬と女子騎馬の混合戦だ。男子も女子の帽子を取っていいし、女子も男子をねらっていい。
今度は、リクトは右後方だ。ふがいないので降格か(笑)
結果は赤組の勝ち。残っている騎馬は、女子の騎馬がほとんど(笑)
「コツメの花笠音頭」
来賓席の後ろを通って、児童は入場門に移動する。私のそばを通るので、コツメは、花笠をぷりぷり振って、アピールしてくれる。思わずシャッター。女の子はかわいいなあと思う。
大きな菅笠に、お花紙の花が五つついている。コツメたち三組はオレンジ色。一組は黄色。二組は紫。内貼りは黄色の画用紙だ。とても明るくまぶしい。みんなでつくったらしい。
入場してきた!
コツメの位置は確認できたけど、三列目なので、前方の子どもたちの体が重なり、全身は見えない。動けないので、そのままビデオを構える。ほかの子の動きのすきまから、見え隠れするコツメ。真剣な顔で、花笠をまわしている。指先からつま先まで、ピンと気合が入っている。花笠の扱いも、とても丁寧。がんばってるなあ~。
ハァ~ ヤッショーマカショ シャンシャンシャン
鈴の音にカラフルな花傘が舞う。子どもたちが花笠をまわすたびに、幸福の風が巻きおこるようだ。黄色の内貼りが映える。みんなで一生懸命貼ったのだろう。
花笠いっぱい、この元気をすくいとる。何度も何度もすくいあげる。
くるくると、青空に向けてまわすたびに、東北の空まで、みんなの祈りが届くといいね。
「リクトの組体操」
なんていう曲なんだろう。トラックにリズムビードの音楽が響いてくる。
二手に分かれて一列に並んだ六年生が、笛の合図で行進してくる。中央で交差する。折り返して、もう一度交差する。どの保護者も、わが子を探しているにちがいない。
みんな、前を見て胸を張り、両手を大きく振り、足を高くあげ、白い体操服と紺の体操ズボンなのに、タキシードを着ているみたいにカッコいい。何度も何度も、行進の練習をしたのだろう。
リクトは、やたら嬉しそうだ。
音楽が止まって、笛の音で、それぞれ定位置に。曲が変わる。テンポよく、組体操のポーズが展開していく。リクトは三列目なので、前列の子どもたちに見え隠れしながら、しっかり、楽しそうにやっている。腕もピンと伸びている。背筋もまっすぐ伸ばしている。
一人技。二人技。三人技。六人技…… 波。花。タワー…… 仲間たちとポーズを創りあげている。六年生のリクト。十二歳のリクト。大きくなったリクト。
あれは、何歳だったのだろう? 三歳だろうか? 保育園の運動会で、みんなが体操をしているのに、一人だけ微動だにせず、あらぬ方向を見て立ち尽くしていたリクト。
(何を考えているんだろう???)
どうやったら、みんなが音楽に合わせて体操をしているときに、一人だけ別の世界に行けるのか教えてもらいたいくらいだった。
(なんでリクトは体操しないの?)
てんちゃんと、不穏な予感を抑えきれなかったけれど、なんとかなるものなのだな。
そして、クライマックスの五十五人ピラミッド。
曲は、ゆずの「栄光の架橋」
リクトは三番目の笛。
(三番、入りまーす!)
心の中で、小さく言った。
三番の子たちは、あっというまに、後続の四番の子たちに後ろに付かれ、五番の子たちに手をかけられ、六番の子たちの下になり、七番の子たちが、さらに、その後ろに着き…… というふうにして、あっというまに見えなくなった。
「幾つもの日々を越えてたどりついた…」のところで、上に登る子どもたちが、背中や肩に手をかけ、ピラミッドの段を越えていたので、感きわまるものがあった。
これから、のりこえて、たどりついたと感じることが、何度も何度も出てくると思う。
あきらめず、のりこえてほしい。たどりついてほしい。達成感を味わってほしい。君たちの栄光に。
だって、もう、手を架けている。
そして、最後の一人がピラミッドをよじ上っていく。
もったいつけて、なかなか立ち上がろうとしない。すぐに立つなと言われているのだろうか?
一番上に乗る子は、細くて小さいけれど、運動神経抜群で、おサルみたいにすばしこいMくんなのだ。顔が笑っている。余裕のかたまり。演技派だー(苦笑)
(リクトたちは、一番下でシンドイんやから、早く決めてぇや)
ためにためて(ためすぎや!)、
立ちあがったー!
ひざを伸ばし、胸を張り、両手を横一直線に伸ばし………
完成だー!
大きな大きな拍手!!!
六年生の保護者たちは、ムービーもしくはカメラを持っているから、拍手できない(笑)
ピラミッドが、丁寧に解体してき、子どもたちが、順番に帰ってくる! どの子も笑顔! 笑顔!
リクトは?? もうすぐ?
なんて嬉しそうに戻ってくるんだろう? 友だちと笑いあって、ガッツポーズしている。
しんどくてヘロヘロなんていうことは、ないんだな。ぐったりでもうイヤだっていうことも、ないんだな。
どんなことでも楽しくて、可笑しいんだな。
ありがとう。リクト。
創立百周年の時に入学したリクト。今年は第百五回目の運動会だ。
保育園で、一歳のときから運動会に出場しているリクト。四歳からは、コツメも一緒。
歴代の運動会ビデオを続けて観てみたいなあ。どの年も、子どもの姿に、胸がいっぱいになる。
ありがとう、リクト。ありがとう、コツメ。
さて、気になる勝敗は??? 優勝は赤? 白?
ジャーン。奇跡の引き分けでしたー。
浜田えみな