親は、わが子の姿だけを探す
わが子が見えたらいいのだ
* * *
リクトとコツメの通う小学校では、運動会のとき、五、六年生が、放送・競技の準備・下級生の誘導など、先生の補助をする。
リクトは去年、体育委員で、競技係だった。
障害物走で散らばった大小のボールを片付けたり、リレーのゴールテープを持ったり、団体演技の補助ラインを引いたり、学年競技以外でも、トラックの中に姿を見つけることができて、とても嬉しかった。
一年生競技の玉入れで、中央でかごを持っている姿を見つけたときは、てんちゃんと、手をたたいて大喜びした。入った玉を先生の声に合わせて、空に放りなげるリクト。
露出度高すぎ!! うれしすぎるっ
「今年は何係?」
てんちゃんが尋ねた。たしかリクトは今年も体育委員だ。
(何をやるのだろう? 開会のあいさつもカッコいいな。スタートのピストル係もシブイな。また競技係だったら、いっぱい見れるな)
(わくわくわくわく)
「清掃係」
(?)
「それは…… それは運動会のあいだは、ずっと出番がないってことかな?」
(ぶぶーっ)
てんちゃんが、あんまり情けなそうな声で確認するので、吹きだしてしまった。
競技のあいだのお手伝いは花形だが、運動会終了後の清掃係は、観客のいなくなった校庭の清掃だものなー。
わが子ながらビックリするけど、どうやらリクトは、こういうのを「損なこと」だとは思わないようなのだ。
そもそも、「損得勘定」というものがない。そこまで高度に進化していないというべきか。徳が高いというべきか。
ドッジボールクラブでも、人が嫌がるような重い荷物を率先して幾つでも持つし、ゼッケンなどの洗濯も、なぜかいつも、二倍使ったときに持ち帰ってくる。で、ほめられるかというと、そうではない。
「荷物は持ちたがるよね」
とか言われるのだ(苦笑)
重い荷物を積極的に持っても、誰もほめてくれない。リクトは六年生なのだ。
コートで積極的になれ、ボールを持ちたがれと言うことだ。もっともだ。情けない。
で、「清掃係」
(もっと花形の係りがあるだろう?)
「どうやって決めるの?」
「それしか余ってなかった」
「……」
「あ! 思いだした! 体操のときに、みんなの前でやるねん!」
てんちゃんの顔が輝いた。
「それ、一人で朝礼台に立ってやるやつ?」
(えーっ それ、めっちゃ、かっこいい!!)
「それは、別の人」
(やる人がいるんやー)
「どうやって決めんの?」
「立候補」
「なんで、立候補しないの!」
「だって、そのときは、やりたくなかってんもん。それに、あんまり覚えてなかったし」
(覚えてない???)
リクトが「あんまり覚えてない」と言ったのは、一年生から運動会の整理体操として行っている学校オリジナルの体操だ。
誰が考えたのだろう? ラジオ体操でいいじゃないかと、いつも思うのだけど、それにしても六年間もやっているのに、覚えていない???
リクトは、そういう子なのだ。
でもまあ、とりあえず、運動会開催中に係の仕事があることがわかって、よかった。
終了後の「清掃係」じゃ、あまりにもさびしいものな。
* * *
「組体、どんなんすんの?」
仕事で運動会を見れないてんちゃんが、リクトに尋ねている。
リクトは、あれこれ説明しているが、技の名前と完成形が一致しないため、二人の会話は、私には意味不明。
二人の通う小学校では、六年生は毎年、組み立て体操をする。
目玉は六年生の男子女子がそれぞれ全員で作る大ピラミッドだ。今年は、五十五人ピラミッドだとプログラムに書いてあった。
「場所、どこ?」
「一番下」
「一番下のどこ?」
「三番目」
「横から三番目?」
「ちがう」
「三列目?」
「そう」
「三列目って一番うしろ?」
「ちがう」
「何列あんの?」
「五列」
「まんなか?」
「うん」
「どこからも見えへん?」
「うん、どこからも見えへん!」
(……)
絶望的な私たちの表情とは対照的に、このときだけ、リクトは、キッパリ言って、自分でも吹きだしていた。
「どこからも見えへん(笑)」
がーん。
最下段の真ん中なんて、一番負荷がかかるところだ。しかも、本当に、どこからも見えない。まるで棺を納めた石室のように(笑)
前からも横からも斜めからも後ろからも! ぜったいに見えない。
どんなに立派な五十五人ピラミッドができたとしても、親は、わが子の姿だけを探す。わが子が見えたらいいのだ。たとえ、四つんばいの腕だけでも、かかとだけでも。
それが、真ん中!
絶望的な位置だ。ピラミッドができあがったら、まったく見えない。クライマックスの大演技なのに!
「いつやったら、リクトは見えるの? だんだん作っていくんでしょ? いつやったら、見えてる?」
「三番入りますー っていうとき」
ピラミッドは、先生の太鼓の音で、子どもたちが順番に駆けだしていって形づくっていく。
そうか、三番ね。わかった。
真ん中に埋もれてしまう子たちが、いっせいに走り出すときを、しっかり見とくからね。
* * *
次にてんちゃんは、コツメを部屋に呼んだ。楽しそうに団体演技の話をしている。
「花笠音頭」を踊るのだ。練習用にダンボールをまるく切り抜いたものを、二学期そうそう、用意させられた。本番はホンモノの花笠を使うらしい。
三月十一日のあの大震災。がんばれ東北の思いと祈りをこめて、東北地方の踊りにしたのだという。
「コツメ、めっちゃうまいでー」
てんちゃんが大絶賛している。
「ほんまー?」
キッチンから飛んでいった。
コツメは保育園の年少時代から、ダンスはとてもうまかった。ゆびさきをピンと伸ばして、重心が安定し、視点も定まっている。ひとつひとつのポーズが、ピッシリ決まるのだ。これは見なくちゃ!
「コツメ、おかあさんにも見せて」
「えぇぇ~ おかあさんは、運動会に来るやん。そのとき、見て」
「おかあさん、PTA本部のお仕事があるから、見れるかどうかわからへんもん。お願い! 見せて!」
理屈をこねて、やろうとしないコツメを、さんざんなだめて、花笠音頭を見せてもらった。
うまいうまい。ひねりや返しが入るのだけど、とても上手だ。
「でもな、練習のダンボールは軽くて、くるくるまわせるねんけど、本番の花笠持ったら、むちゃ重いし、まわしにくいねん!!」
なるほどね。たしかにね。しっかりね!
* * *
「明日の準備、ちゃんとした? おとうさんも早いし、おかあさんもPTAの集合時間が早いから、あんたらだけになるんやで。ちゃんと鍵しめて出るんよ。忘れものあっても、おかあさんおれへんよ。ちゃんと、今、用意して」
「おかあさん、お弁当のおかず何?」
「からあげと、たまごやきと、ウインナーと、ミートボールと、ブロッコリーとミニトマト」
「みかんもってきてー」
「うん、ちゃんと買ってあるよ」
「てんちゃん、ビデオ、充電しといてー」
「コツメ、くつした、何はく? 目立つのがいいなあ。赤いのなかった? ほら、クリスマスみたいなやつ。ないなあ……。おばあちゃんのところかな? しゃーないな。シマシマにしよか? リクトは…… 何もないな。黒いのにしよか?」
「ほらほら、もう、寝なあかん。早く寝なさいよー」
明日は運動会!
浜田えみな