『カレルチャペック紅茶店のレシピ』(山田詩子著 白泉社刊)参照
忘れたくない思い出は、なんですか?
抱きしめていたい思い出は、なんですか?
忘れるのではなく
胸にかかえたままで
ゆっくりと立ちあがって、踏みだしていける強さを
あなたに
* * *
青が好きだ。海の青。空の青。
水色の花が好きだ。どんな色の花より。
海のしずく
ローズマリーの学名(Rosmarinus)だ。
地中海地域が原産で、沿岸の海辺に生育する。小さな水色の花は、ハーブの中では、もっとも美しいといわれている。
乾燥を好むので、少しくらい水やりを忘れても大丈夫。
葉をつまむと、それだけで、よい香りが漂う。指さきを鼻に近づけると、いつまでも、かいでいたくなる。記憶力と集中力を高めるという香りは、思考がクリアになり、へこたれた自分を強くしてくれる。
花言葉は、「思い出」「記憶」「わたしを忘れないで」
水色の花が、大好きだ。
そんなローズマリーのビスケット。
山田詩子さんのレシピは、アイスボックスだった。生地をつくり、棒状にまとめ、冷蔵庫で休ませておく。
なんの映画だったか覚えていないけど、突然の来客に、飲み物を用意しながら、
「クッキー焼こうか?」
と、大きな冷蔵庫に手をかけるシーンを観た時、
(ぜったい、やりたい!)
と思った。クッキーの焼きあがる甘いにおいが広がる、気持ちのよいリビング! くみたてのお湯がわく音! 生地さえ作っておけば、焼き上がりを待つだけだ。誰もが笑顔になる、そんなもてなし。そんなひととき。
* * *
お茶を飲むと、葉っぱなのに、木を想う。なぜだろう。
いろんな飲み物があるけれど、お茶がいちばん、くつろぐのかもしれない。日本人なら。
ころあいの温度で、ゆっくり浸出させる日本茶のまろみ。ふくよかさ。舌さきで、ころがすように、大事に味わう。広がる奥深さを、どこまで感じとれるだろう。目の裏に浮かぶ光景も、年月を重ねるごとに、さまざまなパノラマをみせるだろう。
そんな煎茶と、ドライハーブのカップリング! 画期的だ。
できれば、カモミールは、ティーバッグではなく、ドライハーブで。
だって、ぜんぶ、お花なのだ。マーガレットを、小さくしたようなかわいらしい花。
不安や緊張、怒り、恐れの感情をほぐして、心を落ちつかせてくれる優しい力。
ハーブティには、ジャーマン・カモミールという種類が使われることが多い。ジャーマン・カモミールの精油は、とてもきれいなブルーなのだ。学名(Matricaria)は、子宮を意味するという。
どんな環境でも根づく、生育力の強いカモミールの花言葉は、
「苦難・逆境に負けない強さ」 「あなたを癒します」
あんなに小さく可憐な花に、そんな秘めた力があったなんて……
踏みしめられて香るカモミール。
弱った植物のそばに植えると、その植物が元気を取りもどすという。
そんなカモミールと煎茶がおりなす、黄金色のハーモニー。
口にふくんで、目をとじたなら…
* * *
歯ざわりのよい、ローズマリービスケットが、くだけて口のなかで、とけていく。ゆっくりと。
海のしずく。
あなたの、忘れたくない思い出は、なんですか?
いつまでも、抱きしめていたい思い出は、なんですか?
忘れるのではなく。
胸にかかえたままで。
ゆっくりと立ちあがって、踏みだしていける強さを……
あなたに。
浜田えみな
レシピは、30ページに掲載されています。
