苦しかった。だからこそ感激はひとしおだ。こみ上げる喜び。原監督の目は少し、うるんでいた。主将の阿部を抱きしめた。選手の疲労を心配し「辞退」したという胴上げ。だが選手が熱望し実現した。今季のリーグ優勝の時よりも2回多い10回、宙を舞った。
「(胴上げは)大変、ありがたかった。いただきました。非常に価値ある日本シリーズ出場だと思います。(中日に)2、3発、引っぱたかれましたが、七転び八起きで上がったと思います。進化しました」。興奮で声はうわずっていた。
圧倒的有利といわれたファイナルSで3連敗と絶体絶命のピンチを迎えた。そこから大逆転の3連勝を果たした。試合前の全体ミーティングでは「徳俵に乗っかった状態から今日を迎えることができた。まさに今日は決戦だ。昨日と同じスタイルでチーム一つになって全力でベストを尽くして頑張ろう」と熱く、選手を鼓舞していた。
名将たちの心得は決して忘れない。母校の東海大相模と東海大で監督を務めた父・貢氏はもちろん、藤田元司、王貞治、長嶋茂雄と歴代巨人監督の下でもみっちりと経験を積んだ。原監督と親しい球界関係者は「ミーティングでの説教、連敗中に選手を引き締める時のコツ。原は肌で感じてきた」と証言する。
18年前の中日との10・8最終決戦は、長嶋監督の下で選手として体験した。その当時について原監督は「試合前のミーティングでは長嶋監督が『最後はわれわれが勝つんだ』と8度言った。あれほどの緊張感はなかなか、ない」と振り返ったこともあった。
ミスターからは、自身の監督就任前から「将来、君が監督になるんだよ」と“予告”されてきた。恩師と同じような状況で、将として「10・22」を迎えた。「10・8」では槙原、斎藤、桑田の先発3本柱をつぎ込み勝利を収めた。この日は六回から2番手で中1日の沢村をつぎ込んだ。経験に裏打ちされた信念を貫き、タクトを振った。
次のステージは真の頂上決戦となる。「セントラルリーグを代表して相手は日本ハムファイターズ。しっかりと整備してしっかり戦いたい」と原監督。日本一奪回に向けての挑戦がスタートする。