その日の午後だった。
我が家にお客様が来た。パリス公だ。最近、父から爵位を受け継いだ街一番のお金持ち、そして大公の親戚でもある。ヴェローナ郊外に、たくさんの領地があり普段はそこのお城に住んでいる。
だから、いささか趣味が洗練されていないが、素朴な人柄だ。
そのパリス公の訪問の目的は、なんとジュリエットへの求婚だった。
彼の想いは熱く、必死に夫に頼んでいる。
その姿は好感が持てる。彼なら、娘を大事にしてくれる気がする。
パリス一族は田舎が大好きで、狩猟やガーデニングが趣味だ。時折、街の屋敷に滞在するが、社交界はそれほど好きではないようだ。
ジュリエットのように夢見がちの少女にはぴったりではないか。私の生まれ故郷のようなところで暮らしたほうが、喧嘩ばかりの街中よりジュリエットにあっている。
おまけに、我が家の負債も肩代わりしてくれるという。こんなよい縁談はまたとない。
お金持ちでも、遊び好きで妻を顧みない男なら、結婚させることはできないが、パリス公ならそんな心配もない。
私は、ほっとした。これで娘は幸せになれる。
ジュリエットはたくさんの使用人にかしずかれ、何の苦労もせず、愛してくれる夫と田舎でのんびりとすごすのだ。
夫は彼に約束した。
今夜、娘と会うための仮面舞踏会を開くことを。
そこで、ジュリエットの心をつかむように、パリス公に助言している。
仮面舞踏会で会わせるのは良いことだと私も思う。彼と踊ってみて、話してみることは、とても大事。そこで気に入らなければ、無理に嫁がせることはしない。
しかし、舞踏会の前に娘に話しておこう。今晩はお見合いだと。それを知った上でパリス公と言葉をかわすとよいと思う。
私の時は何も知らされず、ただ傍にいた夫に何の注意も向けなかった。あの時、もう少し話をしていたら・・・。
いや、あの舞踏会はお見合いではない。私のことをキャピレットの一族が審査するものだったのだ。私に選択権は始めからなかった。
その様な立場にジュリエットを追い込みたくない。パリス公を好きになれないのなら、断ればよいふさわしい人をゆっくり探してもよいと思う。借金のことはティボルトがなんとかしてくれるはずだもの。
もちろん、ジュリエットがパリス公を気に入ってくれるのが一番よいのだが。
玄関の間で大声が聞こえた。夫がパリス公を御見送りしているはずだけど・・・。
ティボルトの声だわ。ちょうど、帰ってきたのね。
私は大急ぎで、行ってみた。
続く