それから、私は時々、自分に問いかけることが多くなった。
「私はどうしたのかしら」
不思議な気持ちだった。
世界は明るくなった。雨空が風で吹き払われ、太陽が射したようだった。
朝、起きた時から心は弾む。
ティボルトはゆうべ、帰ってきたかしら。すぐに様子をみたいけれど、身支度は念入りにしなくては。
バラの花と豹の模様のドレスに身を包む。
その華やかさ、その艶やかさが私を惹きつける。こんなに着るもののことを考えたのは、初めての舞踏会以来だ。
そう、私は少女のように恋をしている。
たとえば、彼に会うと微笑んでしまう。たとえ、寝不足で目を腫らしていても、お酒の飲みすぎで肌がくすんでいても、私には王子様に見えてしまう。
「お早う、ティボルト」
「ああ」
彼は面倒臭そうに返す。
そして、コーヒーだけ飲んで、食堂を出ていく。私はその背中を目で追わずにはいられない。
ティボルトが側にいたら、彼から目を離せないのだ。
「恋」をしていると、悩みは軽くなる。夫の夜遊びも、娘への負い目も私の心から消えて行った。キャピレット家の財政のことも、一人で悩まなくてもいい・
ティボルトが私に自信と安心をくれた。自分を求めてくれる人がいるというのはなんて素晴らしいのでしょう。それに彼ならキャピレットの危機を救ってくれる。私たちを守ってくれる。
だからこそ心配だった。
ティボルトがいつか大怪我をするのではと。
モンタギューの若者たちとの喧嘩は、もはや闘争とも呼べるほど激しくなるばかりで、とうとう大公様が宣言した。
「今後、負傷者が出るほどの喧嘩をしたものには重罰を命じる」
夕べの喧嘩で、市民が巻き添えになりそうだったのだ。
「憎しみ」それがすべて。両家の若者たち、いや全員の心を支配している。
「憎しみ」訳もなく、生まれた時から、憎んでいる。それが一族の団結の手段のよう。
「憎しみ」ティボルトはそれの塊だ。
いつかとんでもないことが起きる・・・。
「叔母上」「ティボルト」
嫌な予感に怯えていた私は、ティボルトの顔を見てほっとした。
彼は物陰で、私を抱き寄せ、口づけする。
それだけで、不安が取り払われる。彼の力強い腕は、安心できるのだ。
「今晩はだめだ。他に行くところがある」
ティボルトの素っ気ない言い方に、私はすねてみせたが、内心はほっとしていた。
彼が夜中に私の部屋に忍び込んできたのは、数回だった。
二人きりで部屋にいると私はどうしていいのかわからなかった。
彼は口数少なく、私を見ていても遠くをみているような目をする。
私を慌ただしく抱いた後、来たときより深い目になって、去っていく。その背中は私の言葉を拒否しているようで、彼が去った後は来る前より、寂しくなるのだ。
それより、こうした合間の機会に話す会話や、すれ違う時にかわす視線、人目を忍んでの抱擁のほうが、私は嬉しかった。
それにしても、ティボルトはまた、街に行くのかしら。争いに巻き込まれなければいいのだけれど。
彼の後ろ姿を目で追いながら、祈らずにはいられなかった。続く