あの子の街(クラブセブン)9 | えみゆきのブログ

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涼風真世さんのファンです。
パロディ小説を書いています

それから、歌は度々、聞こえてきました。

そんな時、周りを見ると、黙々と作業をしている男のひとや茫然と立ち尽くすおじいさん、抱き合って泣いているおばさんたちがいました。



震災の直後より、今になって罪悪感や怒りや恨みが人々の心を犯してるようです。

そんな自分と向き合いながら、一人ひとり、懸命に今を生きている・・・。



パックはそっと、その手を人々の手に重ねました。

きっと、人々はやさしい風が、手の上を過ぎたように思ったことでしょう。



こんなふうにパックは震災の街ですごしていました。

あの子が来ていないのは、わかっていましたが、あの子が近くにいる気がします。心がこの街まで飛んできているような気が・・・。

特に、空を見上げると、あの子も同じ空を見ている気がするのです。



今日も空を見上げていたパックは、ものすごい勢いで走ってきた女の人にぶつかってしまいました。でも・・・大丈夫。

パックは人に見えないし、触れてもわかりません。通り過ぎるだけですから。

「あっ、危ない!」

同じように走ってきた人が、パックの前で止まろうとして転んでしまいました。

「僕、ぶつからなかったわよね」

女の人は笑顔で、パックに笑いかけました。

「僕が・・・見えるんですね」

「何を言っているの。あたりまえじゃない。ごめんなさい。支援物資を貰いにあちこち、走り回ってて、あわててたの」

女の人は長い髪を揺らしながら、立ちあがりました。白いエプロンをウエストで結び、買い物かごが腕に抱えられています。

「脅かしたお詫びに、これをあげる」

その買い物かごからカップめんをパックに差し出しました。

「いえ・・・僕は・・・。いりません。あなたが、どうぞ食べてください」

「あら、遠慮しなくていいのよ。こっちは隣のおじいさんのだけど、これは我が家の分だから。そして、これは裏のおばあさんの」

「ご近所の分も貰いにいっているんですか」

「私たちの所は1階は水がついたけれど、家は流されなかったの。なんとか2階で暮らせそうだから避難所から戻ったのよ。どこも満員ですもの、家が残った人は出て行かなくちゃ」

「でも、まだ水や電気が・・・」

「そうよ。でも家があるだけ恵まれている・・・。というか、負い目がある・・・」

パックはよくわかりません。大変な被害を受けているのに負い目なんて・・・。

「だから私にできることをしようと思って。お年寄りや小さい子のいる家の分まで、貰いに行っているの」

女の人は、当たり前のように明るく言います。

「それなら、なおさら僕はもらえません」

「でも・・・」

女の人は困ったようです。



「奥さん、早く!お水を貰いに行く前にこれを届けましょう」

遠くから声がかかりました。先にパックの体の中をすりぬけた人が手を振っています。

女の人はそれに応えて、手を振ると、パックに笑顔を残して走って行きました。



あんなにさわやかな笑顔の人なのに、悩んでいるのか・・・。でも、助け合って生きているんだ。

今度は、パックにやさしい風が吹いてきたような気がしました。10