Immortality Bee Gees
今年の春頃、U2のボノが60歳になった記念に'60 Songs That Saved My Life'というプレイリストをアップしていた。流行りものはとりあえず押さえるボノらしく、ビリー・アイリッシュやケンドリック・ラマー、ラップではベタにカニエとジェイZ、パブリック・エネミーを挙げ、自らの初期衝動であるパンク・ロックからはラモーンズとクラッシュ、海(大西洋)を超えた同世代の好敵手ではR.E.M.の“Nightswimming”、ストレートなロック・ソングに回帰するきっかけを与えた(と思われる)後輩バンドにオアシス(“Live Forever”)を選出するという、まあかなりメジャーなアーティスト中心で、選曲も本当にベタなプレイリスト(プリンスやプレスリーの「ハートブレイク・ホテル」も入っている!)なのだが、そのなかで異彩を放つ曲が目についた。ビー・ジーズ!!の「イモータリティー」だ。
いま、鬼滅の刃のアニメがタイタニックの記録した興行収入記録を早々と「沈没」させたところだが、「イモータリティー」はもともとタイタニックの主題歌を歌ったセリーヌ・ディオンがその頃にリリースしたアルバムの2曲目に収録されていた曲で、1曲目がキャロル・キングの提供曲、2曲目がサタデー・ナイト・フィーバーでおなじみのビー・ジーズの提供曲(新曲)だった。プロデュースがこの手のバラードに強いウォルター・アファナシエフで、初期マライアのようなディーヴァのイメージを踏襲することが狙いだったと思われるこの曲は、のちにビー・ジーズ自身のベスト・アルバムでデモ・ヴァージョンが発表されている。ボノはそれを「自分の60年の人生を救った曲」のプレイリストに選んでいる。
僕はビー・ジーズのオリジナルは聴いたことがなかったし、それに思い当たって探すこともなかった。そこに惹かれた自分はさっそく視聴し、ダウンロードして手元に置いて聴いている。メロディーとヴォーカルの美しさは、確かに心に響く。
海の声 BEGIN
もとはauのCMソング。ボノに触発された訳ではないが、作曲者のビギンのほうを聴く。いかにも沖縄らしい音階と、飾り気のない間奏が心地よい。
No Woman, No Cry (Live 1975) Bob Marley & The Wailers
U2が興行的にというか、路線的に「失敗」したと言われるポップマート・ツアーで演奏していた曲が、じつはとてつもなく素晴らしいと気付くまで、「史上最高のライブ曲」はベタにこの曲だと思っていた。
主義変わりしてからは聴くことを避けてきた曲だけど、イントロのオルガンの音で自然に湧きあがる歓声、そして、Everything’s gonna be all right という希望に満ちた繰り返しから、早口に訴えるように祈るように「ノー・ウーマン、ノー・クライ」と歌い切って、苦難すら祝福に変えていくゆるやかに流れるようなリズムは、確かに人の心を容易に魅了する。
「史上最高のライブ」とか「伝説のライブ」なんてものより、毎日毎晩の「あたりまえ」の方がいい、という考えに今も変わりはないけれど、素直に聴いてしまうべきだろう。そういえば、この曲には当然ライブではなくスタジオ録音のオリジナルがあるが、ドラムが打ち込みで軽い曲だった。
Man in the Mirror (Live) Camila Cabello
世界的に大ヒットした“Havana”、そしてなにより見た目が今どきにかわいいカミラ・カベロがチャリティーで披露したのが、マイケル・ジャクソンの有名曲「マン・イン・ザ・ミラー」だ。マイケルを神格化するファンからは否定されるのかもしれないが、歌い方やメッセージ(「まずは鏡の中の自分から変えるんだ!」)はの伝え方はとてもアーティスティックで、オーディション系のガールズ・グループの元メンバーみたいな目で見られてしまうようなレベルではない。マイケルの歌い方も意識しているのかもしれないが、そもそも“Man in the Mirror”は女性シンガー・ソングライターのサイーダ・ギャレットが作った曲なので、とても自然に聴こえる。パフォーマンス中の仕草や表情はかわいらしいようでも、何気ない手の上げ方や、最後のサビを振り絞って、座りこみながら
Change!
と歌いきるステージは、マイケル・スタイプのようなカリスマ性すら感じさせる雰囲気がある。
The Light Common
コモンのラップはそんなに好きではないけれど、このトラックは好きだ。プロデュースはあのJ Dillaで、DillaがサンプルしたのはAOR系の白人シンガー、ボビー・コールドウェル。ソウルフルなメロディーと歌い回しはスティーヴィー・ワンダーのようで、ビートと見事にマッチしていて非の打ち所がない。
Jimmy Boogie Down Productions
ヒップホップには常に元ネタがあるものだが、ヒップホップ界のパイオニアにしてレジェンドであるKRS ONEはそのインスピレーションを思わぬところからとっている。同時代のレジェンド、ラキムのフロウがジョン・コルトレーンのようなジャズサックスの演奏やリズムを実は取り入れているというのは有名だが、この曲の場合、KRS ONEはなんとポール・マッカートニーのウイングス時代の甘ったるすぎるヒット曲"Let' em In (幸せのノック) "からメロディーを剥ぎ取って使っている。あの原曲からヒップホップ界でも屈指のタフさを誇るティーチャーが着想を得る、というのはかなり衝撃的だ。
地球上のあらゆる音楽の元祖はビートルズであることを主張したがるビートルズファンでも、その事実に気付いていないのか、Wikipediaでも触れられていないほどだ。しかも"Jimmy"は2000年台に入ってからP Diddyとファレルによって"D.I.D.D.Y"という曲にリメイクされているのに。ヒップホップの創造力は、時としてサンプリングという手法故にヒップホップのオリジナリティを安直に否定する評論家の意見などはるかに超えていく。
Friendship H Jungle with t
知名度は「WOW WAR TONIGHT」に遠く及ばない。これがラスト・シングルになったことからもミリオン・セラーに届いていないはずの90年代TKサウンドは、ふと思い出して聴くとかなりの名曲だ。
今の鬼滅の刃とかもそうだが、メッセージがきわめて日本的なところがいいんだろう(右翼的な意味ではなく)。浜ちゃんが坂本龍馬を演じた日テレのドラマの主題歌だから、という理由かもしれないが、Body feels exit 等、迷フレーズの多いTK作なのにタイトルを除けば歌詞に英語が登場しない。
報われることもある やさしさを手抜きしなけりゃ…
逆らうこともある 時代が必ず正しいとは限らないから
サウンドもセールスのように後退したようなところはないし、もう少し陽の目をみていい曲だと思う。
No Time For Love Like Now Michael Stipe & Big Red Machine
R.E.M.解散後、パティ・スミスのライブに飛び入りするくらいの印象しかなかったマイケル・スタイプが遂に名曲を届けてくれた!という作品。なんだかんだで聴き手を感動させるマイケルのヴォーカルを引き立てているのは作曲者であるThe Nationalのアーロン・デズナーと、そのコラボレーターであるBon Iverのジャスティン・ヴァーノンの弾くギター・サウンドだ。ザ・ナショナルはR.E.M.の前座をしたこともあるバンドだけにマイケルをリスペクトしているし、カニエ・ウェストとの絡みでジャンルの幅を広げたジャスティン・ヴァーノンが参加していることでサウンドがクラシカルなようで新しい響きがある。こういう曲を聴くと待たされた甲斐があるし、今後もコラボ次第でさらなる名曲をドロップしてくれるのではないかと期待してしまう。歌われているテーマはストレートに「ロックダウン」だが、希望のある曲だ。
ナゼー 日向坂46
ドラマのなかのアイドル・ユニット、という設定で遊びが効きやすかったのか、Perfume的なサウンドを上手く消化している曲です。
ふつうにやったらパクリだなんだと炎上しかねないですが、これならPVがかわいいとかで済むので、ビジネスとしては上手いやり方だなと感心してしまう。歌詞に合わせたような振り付けはこれも「設定」が生きているせいか絶妙で、今年リリースされたポップ・ソングの中で1番いいかもしれない、と結構本気で思っている。
この「電卓で弾いてみた」動画はクオリティー高いです。
Ten Storey Love Song The Stone Roses
ストーン・ローゼズといえば89年に出したファースト・アルバムがほとんどすべてというバンドなので、アルバムの出来がそのまま解散につながったような2ndアルバムの曲をチェックする人はほとんどいないだろう。
タイトル通りわりと直球なラブソングですが、「10の物語 (Story) 」ではなく、「10階建て (Storey) のラブ・ソング」。ジョン・スクワイアの奏でるキラキラしたギターにイアン・ブラウンの音域も声量もない、およそプロらしさのかけらも無いボーカルが絡む、UKロック曲だ。
Tomorrow Never Knows Mr. Children
僕は90年台育ちだから、この曲のCDは買っていなくてもどこかで聴いて自然に覚えている。歌詞も歌い回しもぜんぶ分かっている。R.E.M.の"Man on the Moon"のミスチル版といった感じの、冷静に聴いていい曲だから、素直に聴くべきだろう。最近の仕事は「孤独」を感じることが多いので、そんなときによく聴いている。今の仕事場は音楽を聴きながら仕事をしていても文句は言われないし、冬になって布団から出られず9時過ぎに家を出てからゆっくりと10時頃に会社に着いてもフレックスタイム制なので問題はないし、コロナでリモートワークになってもその他ほとんどの人と違って席も用意されているという、冷静に考えて恵まれた環境だが、やっぱり将来はわからない (Tomorrow never knows) 。