Nature's Law Embrace
エンブレイス。UKロック・バンドというのは日本で人気があり、知名度も高いものですが、このバンドはあんまり覚えている人が少ない気がする。
90年代に出てきたときは、オアシスのフォロワー的なブリット・ポップ・バンドで、イギリスのトップ10入りできる程度の人気、作品を作っていた。ブリット・ポップ・ブームがほぼ終わりのときだったとはいえ、このキャリアの差であのコールドプレイがサポート・アクトに付いてライブを行ったこともあるほどだ。そのあと完全に立場が逆転したのは言うまでもなく、エンブレイスはレコード会社から契約を切られるほどだったらしい。が、この縁で、クリス・マーティンからエンブレイスのイメージに合うピアノ曲“Gravity”をプレゼントされたバンドは息を吹き返す。
僕が知っているエンブレイスの歴史はごく最近までここまでだった。“Gravity”はまあまあいい曲とはいえ、コールドプレイにとっては過去の二番煎じの曲で、捨てるのがもったいないからお情けであげた、という感じの曲だったから、コールドプレイ効果でそこそこヒットしてもそれで終わりだろう、と思っていた。だが、エンブレイスの全盛期は実はこの後に来ていたのである。
しかし、UKロックバンド人気が高いこの日本で、なぜあんまり記録にも記憶にも残っていないかというと、タイミングが少し悪かったとしか言いようがない。一言で言えば「必殺のピアノ・バラード」であるこの曲は、日本でも人気の高いR&BシンガーNe-Yoの“So Sick”の世界的大ヒットの前に、本国イギリスでも2位どまりだったのだ。
ニーヨの曲は確かにいい曲だった。が、エンブレイスの「ネイチャーズ・ロウ」はじつは「ソー・シック」を上回っている。クリス・マーティンがあげた曲よりももちろん数倍いい。プロデュースはユースで、UKロック好きな人には説明不要だが、元キリング・ジョークのベーシストで、ザ・ヴァーヴの『アーバン・ヒムス』を手掛けた人物。
この曲のような「お涙頂戴」バラードというのは基本好きではない。むしろ嫌いな方だ。オアシスの後追いのようなサウンドでデビューしたことも、落ちぶれたところを世界的バンド様になっていたコールドプレイに助けられるなんてところも、苦労知らずの学生バンドのようなイメージがした。だけどこのバンドは、最後には自分の力でキャリアハイに辿り着いた。曲にはリアルタイムとか関係なく、出会うタイミングがあると思うが、ほとんど忘れられているこの曲を拾いあげて聴いているのは、“So Sick”や“Gravity”を知っていることと、最近、『ダイの大冒険』を読み返して感動しているせいかもしれない。
「オレは男の価値というのは どれだけ過去へのこだわりを捨てられるかで決まると思っている たとえ 生き恥をさらし 万人にさげすまれようとも 己の信ずる道を歩めるならそれでいいじゃないか…」
Tower of Death すぎやまこういち
ドラクエⅤの塔の音楽。オリジナルのスーファミの音源の方が安っぽい分逆に禍々しい、という意見あるようですが、僕はIPadでプレイしていた時に気に入ったので、ふつうにオーケストラで演奏されたものを聴いています (つまりPSとかスマホ版向けの音源) 。ドラクエシリーズに関してはⅠ~Ⅷまで (Ⅵを除く) プレイしてクリアしてますが、Vはやっぱりストーリーが素晴らしい。限られたメモリーや技術的制約のなかであれほどの物を作るのが日本人ぽいし、だから国民的なゲームになったんだ、と。
いまでは当時に比べれば格段にきれいになったグラフィックで、ゲーム機なんかなくともiPadにアプリをダウンロードして楽しめてしまえる時代なのだから、昭和産まれの僕としては感心してしまう。平成生まれにはこの感覚はまず解らないだろう。だいいち、ゲームのシステムもグラフィックも、ドラクエはしょせん今の基準からすれば時代遅れもいいところだ。でも、ドラクエが当時も今も楽しめるのと同様、基本的に僕は昭和産まれで良かったと思っている。
最近はスポーツとかでもフィジカル的に外国人から見ても規格外なエリート選手が出たりしてますが、日本人はやっぱり劣ったものを何かで全力で埋めようとする姿が観たいもので、二刀流の大谷がどんなに活躍しようが何も感じない。そうしたものは今よりもちょっと昔のものに見つけられ、僕は人生のインスピレーションとしてそれがないとやっていけない。
ドラクエⅤの主人公はもともと一国の王子として産まれているが、主人公なのに「勇者」ではないし、青春時代を奴隷として過ごし、結婚をしたと思ったら石化される、という、途方もない壮大な人生を送る。スーパーヒーローではない主人公。そんな人生の「要所」に流れるこの音楽は、夜の時間のデスクワークで脳内リピートすると、「死の塔」というテーマとは裏腹に、とても気が落ち着く。
僕は渋谷の某タワーで働いていたとき、そう感じていました。
Blissing Me Bjork
新作をリリースしても、「今度はどんな新しいサウンドに手を出したんだろう?」というような注目を、もう以前のように集めることはなくなったビョークの新作から。アルバムから2番目のPVとして公開されたことから考えても、ビョーク本人のお気に入りなんだろう、と思う。
two music nerds obsessing
ふたりの音楽オタクが取り憑いて
sending each other MP3s
MP3の音源を送り合い
falling in love to a song
ある歌に恋に落ちるの
最初ピッチフォーク誌のインタビュー記事で読んだこの文は、てっきりアルカとの共同作業をビョークが語ったものだと思っていましたが、曲に耳を傾けると歌詞だった事に気づいてちょっと驚く。
昨年リリースされた曲 (ビョークに限らず、僕が知るかぎりのすべて) の中で、僕はこの曲がベストだった。『ヴェスパタイン』の頃のサウンドだけど、アルカが関わっているから焼き直しには聴こえない。そして、そもそも『ヴェスパタイン』はビョークの最高傑作。その頃のサウンドに近いものを構築して、悪いはずがない。新作『ユートピア』はアルバム・ジャケットで示しているようにフルートをメインにしたアルバムですが、この曲は基本的にハープで構成されている。アルバム毎に常に新しいサウンドを取り入れてきたビョークが、むしろデビュー・アルバムの頃から使っているハープで、ビョークらしい歌メロの絡み合う曲を今も歌っているというのは過去への逆行のようでもあるが、そんなに悪いことだとは思わない。暗闇を切り抜けるような、あたたかい光に満ちた作品だ。アルバム・ジャケットでは年相応の化け物のようにみえるビョークだが、この曲のPVは以前と変わらない天真爛漫な表現をみせています。
いつかできるから今日できる 乃木坂46
ビョークの「ブリシング・ミー」と並んで、去年気に入っていたのがこの曲。アイドル・ソングにしては出来が良すぎるので、逆にオタどころか歌っている当人たちもそこまでいいとは思ってなさそうな雰囲気ですが、ふつうにいい曲です。和の中に洋あり、洋の中に和のテイストがある曲で、物足りなく感じている人たちが多そうなのはJ- POPにしては異例なほどめずらしく、派手な転調がまったくないためだろう。地味めなようで、サビはちゃんと日本人好みの流れだし、ブームが終わったEDMを入れるというのも合っている。綺麗に循環するピアノも清楚できれい。それでも実際は、洋楽っぽくも日本のヒットのパターンで、歌詞 (というかタイトル部分) は小野不由美の『月の影、影の海』の台詞みたいだ。
5年あとに王の器になれるなら、今から王でもいいじゃないか。ここで竦む必要がどこにある?
Walk On (Additional Production by Nigel Godrich) U2
What you got they can't steal it
君が得たものを、奴らが盗むことはできない
No they can't even feel it
いや、感じることすらできやしないさ
What you've got they can't deny it
君が手に入れたものを、奴らは否定できやしない
Can't sell it, or buy it
売ることも、買うこともできないさ
You could have flown away
君は飛んで行くことだってできたのに
A singing bird in an open cage
開いた鳥かごのなかで歌う鳥
Who will only fly, only fly for freedom
いつか、ただ自由のためだけに飛び立とう
2番目に好きなバンドであるU2の中でも屈指の名曲だと思うこの曲をこれまで挙げてこなかったのは、iTunes Storeで探しても海外のストアを含め見つからないからです。
U2を知っている人なら、10thアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』の4曲目でしょ?と思うだろう。でも、そのアルバム・ヴァージョンとシングル・ヴァージョンは違っていて、しかもシングル・ヴァージョンは通常のもの (赤写真) と、ナイジェル・ゴッドリッジがアディショナル・プロダクションでクレジットされているもの (青写真) がある。この青盤が今では見つかりにくく、そのくせ名曲なのだ。
最近なら、アプリのClipboxでネットの音源動画をダウンロードし、mp3化してPCのデスクトップに落とし、それをiTunesにドラッグして同期・取り込むという手法で対応するだろう。正直、ドラクエの「死の塔」の音源はもともとYouTubeにあったものですが、この“Walk On”の音源はCDシングル盤からとったもの。一度破損してしまってiPodにだけ音源が残っていたものをCopyTransという有能なアプリの力でふっかつできたもの。もっと前に復活できていたのに今になって出したのは、名曲だから音楽ブログの最終回用にしよう、と思ってキープしていたからです。
ナイジェル・ゴッドリッチはこのあいだ (といってももう2年前だが) ものすごく退屈な新作をリリースしたレディオヘッドのプロデューサーとして知られていますが、2000年前後には『OKコンピュータ』以降のレディオヘッドの傑作のほか、トラヴィスの2nd & 3rdアルバムを全面的にプロデュース、また、R.E.M.の当時の新曲を部分的に手掛けていたりしています。レディオヘッドとの仕事、特に『OKコンピュータ』と『キッド A』が当時ロック・バンドのリリースしたアルバムとしては聴いた誰もが衝撃を覚えるほど革新的だったので、ナイジェル・ゴッドリッジは=レディオヘッドのサウンドのイメージでしたが、ナイジェル・ゴッドリッジの特徴的なプロデュース手法はもう一つある、と思う。もう一つの代表的なプロデュース・ワークであるトラヴィスよりむしろこの曲に顕著なのだが、ナイジェル・ゴッドリッチはかなりクリアな音作りをする人で、曲にギリギリのところまでテンションを加える一方、できる限り不要な音をはぶいて、逆に言うと構成要素を1つでも引いたら崩壊してしまうような曲を作っている気がする。サウンドを左右に振りわけるような平面的なものでなく、クリアで立体的な音だから、そもそも空間的な音を得意とするエッジのギターと相性がいい。感動的ながらどこか野暮ったく、テンポの悪いアルバム・ヴァージョンは、こうして劇的にといっていいほど変わった。テンポが歯切れいいだけでなく、鳴らしたギターの残響音が気持ちいい。悪い点はエンディングくらいだろう。収録アルバムのタイトル・フレーズ
All That You Can't Leave Behind
を含むイントロや、間奏を大胆にカットしたのは大英断でも、最初から中盤、クライマックスの勢いに比して、ハレー、ハレールヤで終わってしまうラストがあまりに尻すぼみなせいか、いまではこの音源は公式扱いされていないかのようだ。もったいない。
U2は日本でももちろん有名ですが、この曲の扱い一つとってみても、さほどに「良さ」が伝わっていない気がします。それはU2が傑作アルバムを何枚も出しているアーティストでありながら、オリジナル・アルバムにはU2の良さが100%あるとはいえないからだろう。むしろ、ピーター・ローウェン少年のジャケットのベスト盤を聴いた方がU2の魅力はよりストレートに伝わるし、U2の真価はアルバム・ヴァージョンよりもライブ・パフォーマンスとかで発揮されている。あのベスト・アルバムは日本でも良く売れたけど、もう20年前のことだし、U2のライヴ・ヴァージョンに触れる機会はそんなにない。これだから、Appleの強制ダウンロード事件でバッシングなどが起こるのだ。
「ウォーク・オン」は、ライブではシングル青盤に近いアレンジで演奏されています。U2のこの時期の曲は、意図せず同時多発テロ後のアメリカの心情とコネクトするものが多く、感動的な歌詞のこの曲も例外ではない。日本ではライブとCDで同じ感じに歌えるシンガー、バンドが理想みたいな風潮があり、ライブ盤の歓声とかが邪魔だという意見をよく聞きますが、U2のコンサートに関してはむしろライブのようにアルバム制作してほしいと思うし、歓声は高揚感の効果的なアクセントのように聴こえます。僕が好きなのは同時多発テロで亡くなった消防士たちに捧げられたライブ盤『A Trbute to Heroes』に収録のもので、同じアルバムに収録の“Peace on Earth”の一節からメドレーのように続けています。
冒頭に掲げた歌詞。詩なので時事問題を知らなくてもそれなりに響きますが、意味が合わないようにみえるだろう。開いた鳥かごからなぜ鳥は飛び立とうとしないのか。それはこの曲がアウン・サン・スー・チーに捧げられたものだからだ。
スー・チーさんはミャンマーの非暴力民主化運動の指導者ですが、かつて軍に自宅軟禁生活を強いられるなか、国外退去を条件に自由になることを拒否し母国に留まる決意をしたという。この決断はもう一度夫に会えない、というものでもあった。これを、開いた鳥かごの中にいる鳥に喩えているわけです。感情的なボノのヴォーカルと、砕けそうに美しいエッジのギターが最高に聴ける名曲です。
And if the daekness is to keep us apart
暗闇が私たちを離れ離れにするのなら
And if the daylight feels like it's a long way off
陽の光が遥か彼方にあるように感じてしまうなら
And if your glass heart should crack
もし、あなたのガラスのハートが粉々に砕けてしまうようなことがあれば
And for the second you turn back
きっと一瞬でもあと戻りしてしまう
Oh no, be strong
ああ、だめだよ、強くなるんだ
Walk on, walk on
歩き続けよう、歩き続けるんだ
Stay safe tonight
今宵の無事を祈るよ
You' re packing a suitcase for a place
君はスーツケースに荷を詰める
None of us has been
僕らの誰も行ったことのない場所へ行くために
A place that has to be believed to be seen
いつかみんなが見れると信じられなきゃならない場所へ
もちろん、曲の背景をしらなくても、各々の心に響く曲になっているのはまさにボノらしいところ。最後のラインは音楽と政治、ロックスターを同時にしていたときの、ボノの理想の世界像です。
ナイジェル・ゴッドリッジのプロデュース作が語られるとき、レディオヘッド、トラヴィスまではいいとして、次にポール・マッカートニーとかのどうでもいいゴミ作品がでたりしないように、せめてiTunesストアにこの曲を入れて欲しいものです。