The Use of Force | That's where we are

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the Church of Broken Pieces
(アメリカ救急医の独り言と二人言)

小児科精神病棟の空きを待つ患者がいた

 

必要なベッド数に対し

患者の数が圧倒的に多いため

何日もERでベッドの空きを待つ子がいるのは

今働いているERでは珍しくはない

 

この子もそんな患者の一人だった

 

ちょっと前までニコニコして部屋から廊下を除き

私が白衣に貼り付けてあるスコッティッシュテリアの

ワッペンを指さして「子犬だ!」と笑っていたのが

 

何が気に障ったのか、急に暴れだした

 

叫びながらドアに頭を打ち付け

自分の手を噛み

スタッフにも嚙みつこうとしたり

殴ったり、蹴ったり

 

小学生なので、私より背も体重も少ない

ベそれでも、ッドに引きずり戻して押さえつけるのに

この子は大人四人でやっとの強さ

 

ナースはこんな状況に慣れているのか

落ち着いて、辛抱強くなだめようとするが

 

"I'm going to kill you."

"Stop! You are hurting me!"

"Let go! Let go of my hands!" 

 

鎮静のための薬を持ってきてもらう間

手足を押さえつけているナース二人、

セキュリティーガード、私を交互ににらみつけ

隙あらば頭をおこして噛みつこうとする

 

中学の頃だったか、高校の頃だったか

こんな短編小説を読まなかっただろうか?

 

病気の子供を家に診察に行った医者

ジフテリアかもしれず、喉の奥を診ようとするが

子供は嫌がって暴れ、いうことを聞かない

格闘の末押さえつけ、ジフテリア特有の

灰色の膜が張った喉の所見を見つけることができた

 

診察に必要であったから、大人の力を行使し

拒否する少女の口をこじ開けのだが

善とされることのためなら、「力」の行使は許されるのか?

 

複雑な感情で少女の家を去る医者

 

鎮静剤を筋肉注射で投与したが

私なら、何がどうでも良くなって

眠りこけてしまうような薬の量でも

少しボーッとするくらいで普通に会話ができている

 

取りあえず、大人数人で押さえつけないでも

自傷、他害行為は防げる状態にはなった

「目標」は達成した

 

シフトの残り2時間

吐き気がするほど気分が悪かった

 

あの子と私たちの間に起ったのは

どちらが優位に立っているか

どちらが「力」を持っているかを競う

感情が入った小競り合いだった

 

"I'm going to kill you."

"Stop! You are hurting me!"

"Let go! Let go of my hands!" 

 

どうしても、名前が思い出せずググると

あの話は、ウィリアム・カルロス・ウィリアムスの

『The Use of  Force』 だった

学校の教科書に載っていた話なので

日本語の題名が付いていたはずだが見つからない

 

 

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