酔っぱらって道端ですっころび
頭を打ったおばあさん
「あたしゃ、酔ってなんかないわよ!」
喚きながら、救急隊のストレッチャーから
起き上がろうとする
「あ、駄目、駄目
ちゃんと横になっていて」
とっても小さな人で
年齢相応にお肉もたるんでいるのに
なに、この馬鹿力
その日は物凄く忙しくて
その時トラウマ・ベイ(外傷用の部屋)には
小柄のナース、小柄の技師、私の3人だけ
ストレッチャーからずり落ちたおばあさんの足を
持ち上げようと横を向いた瞬間
ピンッと尖った付け爪つきの指で
白衣の襟と、首にかけた聴診器と
IDバッジをつないでいるネックレス状のチェーンを
いきなりガバッとひっつかまれた
うわっ、危ない
この爪で引っ掻かれたらたまらない
片手をおばあさんの額においてベッドに押し倒し
もう一つの手で、私の襟元をつかんでいる
おばあさんの手首をひねり返す
「危ないから動かないで
もう3回、同じことをお願いしましたよね?」
酔ってないと言い切る酔っ払い相手に
手足を拘束し鎮静剤を投与する理由を
必要以上に丁寧な言い方で説明しながら
こういうのと馬の耳に念仏っていうのと
どっちが効力があるんだろう?と思っているうち
研修医と別のナースが部屋に入って来て
拘束帯をベッドに装着し始めた
そして、約5時間後
(頭部・頚椎CT、異常なし)
あんなに暴れたことは微塵も覚えておらず
ケロリとした顔で、ジュースを欲しがるおばあちゃん
「ずいぶん長く、お利口にしていたのよ~」
アルコール中毒歴があり(←本人は「過去形」で話す)
すでに肝硬変の状態
「この間、かかりつけの医者の所に行ったらね
肝機能の検査の結果、良かったのよぉ
だからちょっと、お祝いしようと思って(テヘペロ)」
......。
そのテヘペロ
ぜんっぜん、可愛くない
検査結果が良好だったことはめでたい
でも、そのお祝いの仕方は
ものすごく間違ってる