腹痛と嘔吐でERへやって来た女性
収穫感謝祭の間、他州から家族を訪れていた
「具合が悪いのはあなただけ?
周りで吐いている人とかお腹を壊している人はいない?」
「それはないわ![]()
うちのおばあちゃん、とっても料理は上手なのよ」
「あら、失礼しました
おばあちゃんには言わないでね
」
ケラケラと笑う明るい彼女
統合失調症の既往があるが
薬は全く飲んでいない
「少しずつ減らして止めたの」
きちんと精神科医と相談の上
投薬を止めて4カ月ほど経つ
妊娠検査陽性
超音波検査で妊娠6週目
"You know things happen for a reason."
統合失調症の治療に使われる抗精神薬は
最近まで使われていた胎児危険度分類(pregnancy category)で
動物実験で胎児に有害であるとされるが
人間の胎児による影響は不明な「カテゴリーC」に属し
この分類に属する薬剤の使用は
利益がリスクを上回る場合にのみ使用が勧められる
(この分類方法は2014年にアメリカ食品医薬局(FDA)が
変えることを決定し、今は使われません)
投薬なしで状態が良い中での妊娠
彼女のそれはそれは嬉しそうな顔
「あなたが私の産科の先生にはなってくれないのかしら?」
「ごめんなさい、それは無理ね
私は単にERの医者だから」
I'm just an ER doc.
ER医になりたい医学生や現役ER医には
患者の病態なり人生なりに何かしら変化をもたらしたい
それがERで働く理由だと言う人が少なからずいる
私は人の人生を変えるなんて
大それたことをしようなんて思わない
自分が何故かこの仕事が好きだから
楽しいからやっているだけ
自己満足の自分勝手な理由
なぜ好きなのか?と訊かれると
今でもよく分からない
手を振りながら帰宅する嬉しそうな彼女の顔は
今日一日いっぱいあった嫌なこと
面倒くさいこと、鬱陶しいことを
一掃するのに十二分だった
