ルーシーと青髭 | That's where we are

That's where we are

the Church of Broken Pieces
(アメリカ救急医の独り言と二人言)

「ちょっと、ドクターO」

ナースが呼びに来た

イライラが顔に出ている70代の男性と
困った顔をした奥様

「どうなさったのですか?」

「いったいどうなってるんだ!」

よくよく話を聞いてみると
イライラするのも困惑するのも納得

タクシーに乗車中、奇妙なことが起こったらしい

道路がいきなりぐにゃりと折り曲がり
道路の真ん中には穴がボコボコ開きだした

一体何なんだ、これは!と思って
横に座っているワイフの顔を見ると
彼女の鼻の下からは真っ青なひげが生えてくる

建物についている時計はドロドロと溶けだし
目の前に色とりどりの花が咲き乱れ宙を舞っている

話し方、職歴をきいてみると
クリエイティブというより現実的なこの紳士
職業はプロの画家だとか小説家だとか
そう言われても驚かない位
目の前に繰り広げられるクレイジーな画像の
詳細を語って聞かせる

「じゃあ、私はどうでしょう?」

私の顎からも青いひげが生えていて
ナースの髪は青くて、彼女はショッキングピンクの服を着ていて
歯が一本もないらしい

彼が語る不思議な風景は
関係のない所から関係のないものが出てくるその突飛さも
原色の派手派手な色彩も

まさにザ・ビートルズ『イエロー・サブマリンの世界!

この映画に収録されている歌の一つ
「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」は
「万華鏡の瞳を持った少女」だとか
「新聞紙で作ったタクシー」だとか
「ガラスのネクタイを着けた粘土の荷物持ち」など
奇妙な描写と「ルーシー(Lucy)」の「L」から
幻覚剤LSDによって見た幻覚を歌にしたのではという噂が

ジョン・レノンは息子のジュリアンが
学校から持って帰って来た絵を見て思いついたと言っていますが

この男性の見た「幻覚」はドラッグの影響ではなく
「チャールズ・ボネット症候群」です
(もしくはシャルル・ボネと表示されているかもしれません)

ボネットは18世紀のスイスの哲学者ですが
目の不自由な彼のおじいさんが、色々な物が
「見える」様になったことを記載しました

視覚に障害がある老人に起こる現象で
精神科疾患でみられる幻覚と異なり
本人は「見えている」画像が現実でないと認識しています

視覚障害のある人の10%ほどが
この様な幻覚を見ると言われますが
口に出すのをためらう人もいるため
この数字は実際には40%ではないかというデータも

映画『レナードの朝』の原作者、神経内科医オリバー・サックスの
チャールズ・ボネット症候群についてのトーク右矢印コチラ



人気ブログランキングへ


にほんブログ村