
主訴「高血圧」
何かやらかして留置場へ行くのだが
血圧が高いと駄目らしい
駄目と言っても、どのくらい高いと駄目なのか
どの位の数字ならOKなのか、明確な数字はなく
とにかく一時的に「安定なら」良いらしい
ERは理由があって来る場所だから
血圧が高かったり、逆に低かったりしても不思議はない
どんな数字であろうと、血圧による症状はあったりなかったり
お縄頂戴となり警察署へいって取り調べ
その間、昼の分と夜の分の薬を飲み忘れたらしい
高血圧以外にも心疾患、肺疾患、慢性感染症etcと色々既往歴あり
「いつもXX病院へ行くらしいのですが
最近、外来で心臓内科医が薬を変えたらしくて。
XX病院へ電話をしたのですが
どうも前に飲んでいた薬のリストしかないみたいです」
まあ、夜中に開いているのはERだけだからね
患者が普段行くという薬局ももう閉まっている
困り顔の研修医
「何種類の薬を飲んでるの?」
「11種類かなぁ、覚えてないなぁ」
「アスピリン飲んでる?」
「そうそう、アスピリン」
「じゃあ、メトプロロールとかロプレッサーとか呼ばれる薬は?」
「覚えてない、そんなもん」
携帯電話とお財布を逮捕された際に持っていたらしく
警察署でビニール袋に入れて保管されているらしい
「警察署に連絡して、お財布から薬のリストを
抜き出してもらうのは可能なんでしょうか?」
見張りで一緒に来た警察官に尋ねる
すると、患者、
「それはプライベートの侵害だ」
侵害って、あなたが許可すればいいことでしょ?
薬のリストを引き出すだけじゃない
「勝手に触られるのは心配だ」
俺にも権利があるんだだの
兄弟に連絡させろだの
段々、わかってきた...
「ドクター、ちょっといいですか?」
別の警官が診察室のカーテンを開けて手招きした
少女漫画で生徒会会長長兼サッカー部キャプテンとして出てきそうな
長身のさわやか系警官
「あいつね、自分の奥さんをぶん殴ったんですよ」
「DV(domestic violence)ですか?」
「ええ、奥さんも今ここのERにいるんです」
留置場にいったん到着すれば
自分もしくは誰か保釈保証金を払うまで出てこられない
私自身は今までお世話になったことはないが
留置場、おそらくあまり居心地の良い場所ではなかろう
行きたくないから話をはぐらかし
時間稼ぎをしているのだ
「殴られた奥さんって、話ができます?」
「あなたと直接にってわけにはいきませんけど」
「彼女、もしかしてこの人(夫)の薬が何だか知りませんかね?」
「さぁ、どうでしょうねぇ...」
少し血圧を下げるくらいなら「いつもの薬」でなくても良いが
なんやら理由をつけて留置場から抜け出そうとする輩
できれば取るべき薬をすべて投薬しておきたい
しばらくして生徒会会長系警官が戻って来た
自慢げにニコニコしながら(生徒会会長度倍増)
「ハイ、これどうぞ」
ERの別のエリアにいる殴られた奥さんは
初め「夫の薬のことなんか知らない」と言ったが
思い出したかのように「車の中にリストが置いてあるかも」
警官は駐車場にある妻の車をチェック
ありました、ありました、新品のお薬リスト

「この人(患者)、奥さんに感謝するべきよね
殴られたのに、まだ夫の健康のことを気にかけてるのよ」
研修医はププッと吹き出し
「さっさと留置場にぶち込みたいんじゃないんですか?」
あ...そうね
そんな考え方もございますわね
大男、留置場へとしょっぴかれ
更け行く師走のERかな