自殺願望が強くなりERへやって来た
研修医「声と歌が聞こえるそうです」
私「誰の声?なんて言っているの?」
研修医「さあ...」
私「歌って、なんの歌?」
研修医「さあ...」
なんで気にならないのだろう?
なんで尋ねないのだろう?
聞こえるはずの物が聞こえるなんて
自分が体験できないことを体験している人が目の前にいるのに
何故通り過ぎることができるのか?
幻聴はERに来る統合失調症の患者の多くが訴える症状で
たいていは知らない人の声だったり、亡くなった家族の声だったり
はっきりと言っていることが分かる場合もあれば
ゴニョゴニョ言っているだけの場合もあり
言葉がはっきり聞こえる幻聴は
ホラー映画に出てくる様な
おどろどろしいことを言っている場合が多くて
どうにかしてくれとERへやって来る気持ちもわかる
私「誰の声が聞こえるのですか?」
患者「知らない人だよ」
私「男?女?」
患者「どっちも」
私「歌も聞こえるらしいですね?何の歌ですか?」
患者「知らない歌だよ」
聞かせてもらえない?とお願いしたら
患者「タッタラッタ
タタッタタ
タッター
タッタッター...
」ああ、歌詞がついてなくてリズムだけなんですね
研修医「楽しそうな曲じゃないですか」
でも、TPOをお構いなしに
トイレの中でも布団の中でも人と会話中でも
四六時中このリズムが流れていたら鬱陶しいに違いない

一度だけだが、ある分裂症の患者がやって来て
「声が『薬はちゃんと飲め』って言うんです」
この患者、耳が聞こえないのに幻聴はある
この人、もしかして預言者なのか...
旧約聖書に出てくる預言者の中には
他の人が聞こえない声を聞いたり見えないものを見たりして
未来を予測した人たちがいる
世が世なら、この人は預言者とか聖者とか呼ばれていたかも