KAZEHIKI |   EMA THE FROG

  EMA THE FROG

    roukodama blog

先週の金曜夜から何となく体の調子が優れず、ふとすれば数十秒間ボンヤリしてしまうようなダルさと、腹痛を伴わない不思議な下痢と、何事に対しても興味の湧かない妙な厭世観と、まあ、兎も角、変だった。娘の寝静まった夜10時以降は、僕にとっても嫁にとっても自分の時間、ヤフオク見たり、youtube見たり、2chしたり、読書したりゲームしたり、それはささやかな楽しみの時間、それすら面倒臭いと思ってしまうような体調不良で、娘と一緒に布団に入り眠ってしまった。どことなく緊張感のない、「う~ん、疲れてるのかな俺」程度の、気怠い、そんな、感じ。

で、土日でやっと、「あ、俺、体調悪いわ」となった。起きてられないほどではないが、かといってシャキシャキ動けるわけでもない。気がつくとソファにもたれ、ボンヤリテレビを眺めている。首もとにはまるでマフラーのように娘が絡まって「パパ、パパ、立って!立って!」と笑っており、足元ではエマが「パパ、どうして投げないでしゅか」と涎のたっぷり染み込んだぬいぐるみをグイグイと押し付けてくる。彼女らの姿も声も、まるで水槽を覗き込むようにどこか遠く、おぼろげだ。僕は力なく微笑む。やがて眠気が襲ってきて、僕はズルズルと崩れ落ち、絨毯に頬を押し付けて眼を閉じる。

土日はそんな状態が続いた。たぶん風邪かなんかなんだろう。エマハンナの散歩や、買出しのスーパーの他、まるでどこにも行かなかった。普段は割と、洗濯やゴミ出しなどの家事にも参加するのだけど、それもしなかった。夜はハンナと共に早く眠った。嫁は僕を心配して、薬を出してくれたりする。僕は何もせず、ただ寝て、起きて、飯を食って、寝て、時間が過ぎていくのをボンヤリ見ていた。体はしんどかったが、心持ちは楽だった。

さて。現在に至っても体調にあまり変化はなく、ボンヤリ、ボンヤリ、風景はビニール越しに見るようにうっすらボケていて、人の声がちょっと遠い。ただ、心持ちは変に楽なのである。幸せな感じ、と言ってもいいかもしれない。時間がどんどん過ぎていく。白昼夢の中にいるような気分だ。腕を動かせば、予測よりも一瞬遅れてそれは動く。首をグルリと回せば、風景は一瞬遅れてついてくる。酒に酔った感じに似ているが、もっと角が丸いというか、ちょっと違っている。

今日はこれから東京駅近くの、ひどく近代的なビルの24Fまで出向き、会議だ。途中いくつものセキュリティポイントを通過しなければならないが、大丈夫だろうか。僕は今おそらく、セキュリティポイントを何事もなく通過できるような理性状態にない。ボンヤリして、ニコニコして、フラフラしている。プロの警備員達(しかもおそらく、あのビルで働けるのはトップレベルの警備員だろう)が、そんな僕を見逃してくれるとは思えない。

「ちょっとあなた」

ゴツイ指先が僕の二の腕を掴む。僕は一瞬遅れてその状態に気づき、そして警備員さんをゆっくり振り返る。「失礼ですが……あなた……」ニッコリする僕に警備員さんは動揺を隠せない。僕は少し考えて、ガラス張りのモダーンなエレベーターホールを見上げ、差し込む太陽に手をかざして目を細め、それから警備員さんに向き直り、言うだろう。


「おっと。今の私は“現在”を失っておりました。失礼失礼」


……
つーことで、頭のボンヤリ具合がひどいです。
明日は会社、休むかな。