『イングロリアス・バスターズ』 ネタバレ(?)あり |   EMA THE FROG

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クエンティン・タランティーノ監督・脚本『イングロリアス・バスターズ』(原題:Inglorious Bastards)を見た。特別タランティーノのファンでもないが(でも『パルプ・フィクション』は好き)、この作品が公開されてTVCMがバンバン流れ出した頃からずっと見たいと思っていた。

<ストーリー>
1944年、ナチス占領下のパリ。ナチスに家族を殺された映画館主のショシャナは、ナチス高官が出席するプレミア上映会の夜、復讐を果たそうと計画を練る。一方、ナチス軍人を標的とするアルド・レイン中尉率いる連合軍の極秘部隊「イングロリアス・バスターズ」も、ヒトラー暗殺を企て映画館に潜入するが……。クエンティン・タランティーノ監督が、1978年の「地獄のバスターズ」に着想を得て製作した戦争ドラマ。ブラッド・ピットが主演。ナチス将校、ハンス・ランダ役のクリストフ・ワルツが第62回カンヌ映画祭男優賞、第82回アカデミー助演男優賞を受賞。(※eiga.comから引用)

ブラピよりも敵役のランダさんの方が印象的なのは僕も同意。彼の、無邪気の裏側に隠れた(あるいは、全く隠れていない)明晰さ、疑り深さ、野心、慎重さみたいなものは、視聴者の興味をかきたてる。悪者になったような気分で「さあランダ、一体どんな手を用意してるんだい?」なんて、背徳的な快感を楽しむことができる。一方で、彼の事は終始不快でしょうがない。冒頭、ユダヤ人を匿っている疑いのある農家にやってきたランダさんは、家の中に通され、板張りのリビングで主人と話をする。紳士的な態度、ユーモア、主人に同情的な立ち位置。主人が「よかった。バレずにすみそうだ」と思った瞬間、ランスさんは表情を一変させ、「ユダヤ人を、匿っているな?」と聞く。主人は「……はい」と答える。「この床下に隠れているんだな?」「……はい」主人の頬を流れる涙。

そしてユダヤ人家族が息をひそめて隠れている位置を示されると、ランスさんは家の外に待たせていた部下を招き入れ、あっさりと、床に向けて発泡させる。弾幕。床下で血を吹き出し絶命するユダヤ人家族。かろうじて逃げ出した女の子を、敢えて逃がす。「まあいい。達者でな、ショシュナ!」これが不快な人物でなくてなんだろう。ランスさんは不快な人物だ。しかし一方で、興味深い、頭のいい、話を聞いていて面白い人物でもある。彼を演じたクリストフ・ヴァルツ(第62回カンヌ映画祭男優賞、第82回アカデミー助演男優賞を受賞)という俳優を僕はこれまで知らなかったが、きっとよい俳優さんなんだろうと思う。ランスさんという、素敵だが不快、不快だが素敵な人物を、いや人間を、作り上げた。

さて、しかし僕は今回、主役のブラッド・ピットにこそ拍手を送りたい。連合軍の極秘部隊「イングロリアス・バスターズ」を率いるアルド・レイン中尉を演じる彼は、非常に訛りの強い英語(英語に詳しくな僕が聞いてもすぐに分かるくらいにひどい訛り)を使い、この上なく残虐ながら非常にコミカルな殺人集団「イングロリアス・バスターズ」のボスとして、満足いく存在感を示している。七三の髪型、鼻下の細いヒゲ、そして件の強い訛り、僕には全部がカックいく見えた。彼の訛りを真似したくて仕様がないのだが、何をどう離せばああいう風になるのか分からない。ただもう、カックいいのだ。

さて、肝心の物語は、「タランティーノ=派手なドンパチ」という(聞く所によると非常に一般的な)その図式が僕にはなかったせいで、非常にゆったりとした、悪く言えばもたつく物語運びにもそれほど違和感を覚えなかった。「かつて家族を殺されたユダヤ人女性が憎きナチスに復讐する」という話と、「ヒトラーを殺したいアメリカが、たまたま映画館に集まったナチスの高官たちをまとめて殺しちゃおう」という、構造としてはこの上なく単純な2つの話が同時進行(時間的にも、空間的にも同時に)する話です。で、最後にはちゃんと、それまでのテンポの悪さに対するストレスを一気に解消する「そりゃねーよタラちゃん!」と呆れるくらいに派手なドンパチが用意されていて、結局のところ、見終わった後の感想としては「いやあ、タランティーノだねえ!」という感じみたい。嫁がそう言ってた。

面白いですよ。あと、アルド・レイン中尉カックいい。特に話し方がカックいい。あと、タラちゃんは黄色が好きなのかな、とも思いました。