容疑者E |   EMA THE FROG

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「エマちゃん、何したの?」

朝の9時過ぎ、遅番で11時出社のため布団の中でボンヤリしていた僕は、嫁のそんな声で目が覚めた。「ねえ、何かしたんでしょ?言ってご覧」犬なんだから言ってご覧と言われた所でそれは無理だ、そんな事を思いながら暖かい布団から這い出る。僕の体温は布団の中に置き去りにされる。冬の朝。

千葉で迎える3度目の冬。僕と嫁だけだった家族はいつの間にか倍になった。エマとハンナ。自慢の娘たち。「おはようパパ。エマが何か悪さしたみたい」嫁の言葉に視線を落とせば確かに、エマは何かしらの悪さをしたらしい。素直なエマは、自分の悪事を黙っている事ができない。何かやましい事のある時エマは、普段はコウモリのようにピンと立っている耳をこれ異常ないほどに倒し、人間だったら挙動不審で職質されるような不自然な上目遣いで当たりを見回し、空き巣に入った泥棒のようにコソコソと移動し、僕らの(特に嫁の)一言一言にビクっと震える。

そんな状態を見て、やましい事が全くないとは誰も思わない。バレバレだ。

「でもね、どこにもチッチしてないみたいだし、何したのか分からないのよ」僕は毎朝の日課であるお薬カクテルを飲みながら、「へえ」と言う。アクアクララのおいしい水で流された、鼻炎用の錠剤と、ビタミンCや亜鉛やカルシウムのサプリメント計8粒が、食道を通って胃に落ちて行く。「でも絶対何かしたんだぜ、見りゃ分かる」「そうだよね」僕はメガネを外して1日使い捨てのコンタクトを入れ、どんな寒い朝でも欠かさないシャワーを浴び、衣装部屋に入って今日のコーディネートを考える。タイで買ったロレックス(風)をつけ、ワックスで髪の毛を立て、伊達メガネをかけて、さあ出社。

…結局この日、エマが何をしたのかは分からず仕舞いだった。「夢の中できっと何かしたのよ」嫁は言った。「そうかもね」僕も同意したが、本当は違うと思っている。エマのあの怯え様は、きっと夢が原因なんかじゃない。

エマ、何をしたんだろう。



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