防備録 攻殻機動隊に見る物語の構成について |   EMA THE FROG

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先日ケーブルテレビの番組表を見ていたら、攻殻機動隊(S.A.S)がやっていたので見てしまった。その話の内容を、3人の登場人物の視点から追ってみる。※防備録みたいなものなんで、面白くないかもです。

<荒巻課長の行動>

冒頭、荒巻公安9課長がある政治家を逮捕、バトーに今から戻ると伝える。

警察の駐車場に戻ってきた荒巻課長に、記者らしき男が近寄り、1枚の写真を見せる。そこに映っているのは、長年行方をくらましている荒巻課長の弟。記者は彼が麻薬取引の疑いで逮捕されたと言う。

荒巻は記者から写真を奪い、弟が収監されている留置場に向かうが、面会は不可能だと言われ、立ち去る。

弟が逮捕された現場であるスラムに向かう荒巻。車を止めて歩いていると、弟の知り合いだという二人組みのホームレスに呼び止められ、話を聞く事に。

弟は冤罪で逮捕されたと聞いて安心した荒巻の首筋に、男の一人が麻薬を注射。意識を失う荒巻。

バトーによって救出され、車に乗せられる。病院へ。

見舞いに来た少佐と談笑。弟の事件自体が狂言であった事を聞く。


<バトーの行動>

負傷して入院しているトグサの病室で、荒巻課長から政治家逮捕の報告を受ける。残りの話は戻ってから直接話す、と言われ、「笑い男」に関する資料をトグサに預け、病室を出る。

公安9課に戻り、荒巻の帰りを待つ。逮捕された政治家に関連する3人の犯罪者についてイシカワが調査を始めるが、3人の顔にはモザイクがかかっていて判別できない。

荒巻が戻ってこない事を不審に思い調べてみると、荒巻は一度駐車場まで戻ってきていた事が分かる。バトーは心配するが、荒巻が自閉モードにしているために居場所が分からない。

イシカワが車のGPSから荒巻の居場所を割り出す。すぐに部屋を飛び出していくバトー。イシカワの調査で、荒巻が2人のホームレスと話しているのが確認される。同じころ、3人の犯罪者の顔からモザイクが外れる。そのうち2人は、いま荒巻と話しているホームレスたちだった。残りの一人は、メガネをかけた髪の長い女。

バトーが現場に到着。荒巻の車を発見。救出に向かう。

救出、車で病院まで送る。

<少佐の行動>

擬態交換のために白衣姿で病院にいる少佐。友人の女性がつきそい。病室には現在の擬体と全く同じ容姿の新しい擬体が、医療器具に包まれるような形で立っている。

メガネをかけた髪の長い女医が現れ、処置が開始される。つきそいの女性は病室を出される。医療器具に拘束された少佐に対し、女医は嫌味や挑発を口にする。苛立つ少佐だが、体が拘束されているためにどうする事もできない。やがて脳内に長い針が刺され、少佐の視界から一つずつ色を色が失われていく。この女医が医者ではないと少佐は勘付くが、動けない。視界が暗闇になる直前、病室外の廊下を、青いジャケットを着た男が通り過ぎるのを見る。つきそいの女性は居眠りしていて状況に気付いていない。

男の声が頭の中で聞こえる。「とりあえず僕の目、使ってください」回復する視界。いつの間にか病室の中にいるその男は、笑い男だった。「助けてもらいたくて、ここに来ました」「立場が逆なんじゃない?」脳内で会話する2人。女医は笑い男には気付いていない。

会話の後、少佐の自由を奪っている針を引き抜いて病室を出ていく笑い男。自由を得た少佐は、(犯罪者の1人である)女医を装う女を蹴り倒し、自分で機械を操作して擬体交換を行う。

荒巻の事件を聞いて病室に見舞う。




実際にはこの3人の視点が頻繁に交代されながら、話は進む。視聴者は徐々に話の全貌を掴んでいく。2人のホームレスや、メガネの女医が、冒頭逮捕された政治家に関わる犯罪者であることは、物語の最後の方にならないと分からない。

なぜこんな作業をしたかと言うと、一言で言えば、セオリーを探すためである。僕は最近、物語をかなり数学的に考えるようになっている。そして、今回の攻殻機動隊だけでなく、すぐれた海外ドラマ(『NCIS』とか『ボストン・リーガル』とか)でも、似たような構成で話が作られている事が多い。

・複数の出来事(事件)が同時に進行している
・話が進むにつれて、それらの出来事の間に関連性が出てくる
・物語の最後で、それらの出来事が1点に収束する

大雑把に書けば、そういう感じだ。この骨格の上に、キャラクター設定だとか、世界観だとか、テンポだとかいう肉がくっついて、物語ができあがる。気をつけて見てみると、自分が面白いと感じる物語のほとんどは、こういう感じの構成を持っている。

かなり乱暴な分け方だが、そういう骨格ないまま、ただただ世界観やキャラクター設定だけで突っ走ろうというのが純文学作品で、逆に、骨格ばかりが重厚で肉の魅力に乏しいのが、推理小説というやつだ。骨格も肉もしっかりしている作品に与えられる称号、それが「エンターテイメント小説」で、これはジャンルというより、評価の言葉の一種だろう。

逆に言えば、純文学でも推理小説でも、すぐれたものはエンターテイメントであり得るという事だな。まあ今回で大事なのは、「出来事をいろんな場所で起こせ、それらを最後にまとめろ」という事です。