河合優実さん。不適切にもほどがある!でとても素晴らしい演技をされていた方だけど、今日ひょんなことからこの映画を知った。「あんのこと」という作品。
※この先ネタバレあります
私は元来映画が苦手でして、2時間これを見続けるのか…と思うと身体がムズムズしてくる体質なので、よっぽどでないと映画は観ません。話題作は先にあらすじを読みます。とにかくネタバレを踏みまくります。そしてそこで観たい!と思ったらようやく観るというわりと珍しいタイプの人間(かもしれない)です。見るからにシリアスな物語ですが、これがまた予想を裏切ることなくスペシャルシリアス。なんとこれ、実話。見終わったら気落ちするかもという覚悟で見ましたが、意外と大丈夫だったのは事前に色々読み漁ったもんで心の準備が出来てたからだろうと思う。
杏役の河合優実さん、そして多々羅役の佐藤二朗さんがマジで上手い。本当にうまい。今更言うことじゃないけど、こんなにうまいのかというくらい上手い(何回言う)。ストーリーも、実話をもとにしたからこそよりリアルに、またフィクションの部分は作りこみすぎないようにそのバランス感覚を大事にしてありました。2020年のあの空気感と全ての登場人物のリアルさが、私たちが知らないだけでこういう人達がきっと近くに居たんだろうと思わせられる。それがこの映画を見たあとのなんとも言えない気持ちにつながってくるんだろうなと思う。
この映画の「彼女は、きっと、あなたのそばにいた」というコピーの意味。
こういった少女は世の中に沢山いる。ということが大枠の意味だと思うんだけど、私はその他の登場人物にもそれを感じた。
①多々羅(佐藤二朗)
逮捕されちゃうのかよ!と誰もが思ったはずだが(まぁ私はネタバレふんでたけどね)これかなり重要な部分だと思う。元ネタで実際の刑事が逮捕されてるんだからまさに事実は小説よりも奇なりといったところですが(使い方あってんのか?)要は、多々羅は結局いい人なの悪い人なのどっちが本性なのってのは結構深いテーマだと思うんですよ。たしかに女性に暴行していたのは罪だけど、杏には最初から最後まで誠心誠意で向き合っていたように思う(というか、そう描かれていた)。どちらが本当の多々羅なのかって、どちらも本当の多々羅だと思うのだ。罪を犯したとて、その人の全てを否定するものでもないと思うのだ。勿論杏の母親みたいに100パーセントのクズもいるから、これは論外だけど(まじでアイツだけは悪魔だと思った)。
②桐野(稲垣吾郎)
そういえば、これ観てもいいなってなったひとつの要素。こんなクッソ重たい映画、普通は絶対観れない私だけど、吾郎ちゃんが緩衝材といいましょうか、この人が出てるシーンはきっと安心して見られるような気がした。で、実際そうだった。杏と多々羅と桐野の和やかなシーンが重なるごとに杏の心が少しずつ前向きに、また人間らしくなっていった。桐野は正義をもって多々羅のことを記事にする。でも記事にしなければ杏は死ななくて良かったのではないかと思う。何をもって正義とするのか。何が正しいのか。記者をしていなくても、生きていたらみんなそんな場面に出くわす、こともある、かも知れない。
③紗良(早見あかり)
リアリティ重視のこの作品のなかで、唯一「?」だったこの人。なぜ紗良があんな血相変えて杏にこどもを預けたのか。最後まで描かれなかったのはあえてなのかわからないけど、とにかく紗良だけリアリティが無かったのです。これは、もしかしてわざとじゃないか、この作品の主題は実はこの人物にこそあるのではないかという私の暴論であります。
この物語の副題として、「母親」があると私は勝手に思いました。娘をママと頼るDV母(奇妙だった、ほんとうに)。娘が孫に暴力をふるう場面を眺めている祖母(いくら身体が動かないとはいえ)。そして、我が身が危ないからと見知らぬ少女に幼い子を預けて消える若い母親(紗良)。紗良はちゃんと戻ってきてこどもを迎えには行っていますが、普通に考えてコイツもアタマおかしい。何があったかは知らんがコロナ禍に突然隣人の戸を叩きまくって半ば押し付けるように子を預けるか?児相から取り戻すのも大変でした~とあっけらかんと話せるか?1週間だとしても母親がわりをしてくれた少女が死んだのに半笑いでお墓参り行きたいとか言うか?物語のラストは「まだ?」というくらいに長いこの親子の歩く後ろ姿で終わります。子に連れそう母は、果たして子を連れているのでしょうか。本当は子に連れられているのではないでしょうか。自立できない親が日本にどのくらいいるだろう?今手を繋いでいるその子の未来は明るいのでしょうか???なんていう問題提起なのではと、ついつい深読みをしたくなるのは私だけですか。
そんな中で希望だったのは、杏の1週間だけの母親生活。ベビーカーは盗んじゃうけど、それはこの子が教育されてないだけであって(というか万引きするように育てられてるのである意味素直)精一杯愛を注いでいる。彼女の人生のクライマックスだったのではないかという描かれ方でした。こんなに幼くても母としての強さを持っている。死に際までも。他に出てくる母親との対比に感じました。
何が悪くて何がいいのか。全てが混在してる世の中はきっと今にはじまったことじゃないけど、コロナ禍をあけると善悪まっぷたつにする世の中の流れが出来ました。人との分断も人との繋がりもすぐ隣同士にある。善悪もきっとそうで、わたしたちの近くの人も、いい人で、悪い人で、見えないものがきっとあるんだろうと私はこの映画を観て思いました。
