こないだドコモショップに行った帰り、おねえさん!と声をかけられた。そこには雨の中、リヤカーを押している若い男の子がいた。リヤカーにはお土産ケーキみたいなのが積まれており、あ、これアレやわとすぐに察した。
1年前、あなたの街にケーキ屋がやってくる!的な謳い文句のチラシがポストに入っていたことがある。そのチラシによるとどこぞの有名シェフが監修したケーキが私の街に来るらしいのだ。チーズケーキやガトーショコラなどがお徳用として詰め合わせられているらしい。載っているイメージ写真はどれも立派だった。夫の了承を得て(というか夫が買ってきてと言ったので)、チラシの時間通りに行ってみる。自宅近くの路上で、白いワゴンがのぼりをたてていた。人が数名並んでいたので、すぐにわかった。
列に並ぶ。私の前のおばちゃんは、孫に買うのかあれもこれもと1万円近く支払いをして両手にビニール袋を下げて帰って行った。私の番になり、言われた通りガトーショコラとチーズケーキを買って帰った。透明のプラスチックの容器に入っているケーキはいわゆる冷凍ケーキというやつであり、1箱1500円~2000円近くする割にサイズ感は小さかった。
この辺でもう分かると思うが、このケーキ、全く大したこと無かったんである。不味いとまではいわないが、べつに美味しくもなかった。コンビニスイーツ>スーパーの惣菜の横で売ってるスイーツ>>>>>コレといったかんじで、詐欺とまでは言わないがもう未来永劫買うことは無いというライン。おそらくあの腕組みしていたシェフも架空の人物だろう。そういう意味では詐欺かもしれんが、私のことはいいのだ。1万円近く支払っていたおばちゃんのことを思うと胸が切なくなった。
北海道のケーキなんですけど買っていかれませんか!?という男の子は、若いというかまだ少年。バイト?ときくと新入社員です!と元気よく答えた。私は買ったばかりの携帯で、彼の目の前で検索をした。ちなみにこれです。
ほっこりすいぽ男爵。はいでた、「怪しい」の文字。いやこちとら怪しいのはわかってるのよ。美味しいかどうかなのよ。検索しながら無言で待たせるのもアレなので、正直に「今検索してるから待ってね。ちなみに既に怪しいって出てきてる」というと、こんな率直にものを言う客も珍しいのか、2秒くらいの沈黙のあと少年はやや大きめの声でそんなことないですよ~!と言って笑った。
短い時間に色々検索するとどうやら雨の中出会ったというのも少なくなく、同情を引くという意味でも雨の中積極的に売り込みをしているようだった。またこの会社はカマンベールチーズ王子という商品も出しており、どちらかというとそれが主力らしい。味はそこそこ悪くない、むしろ意外と美味しかったというどこぞの記事が立て続けに出たので、それを決め手に私は検索をやめ、このすいぽ男爵とやらをひとつ購入することにした。私はチーズより芋が好きだからである。たしか1300円くらいした。
これはあれだ、商品というか、募金である。彼がバイトだか新入社員だかなぜこの職についたかは知らないが、彼が今買ってくださいと言っているのだから、買うのだ。これはもう彼に寄付した1300円なんである。コンビニで募金するのとなにが違うか。恵まれない子供たちに使われるのと、仕事頑張ろうとしている少年に渡すのと、同じではないか。私に売れたという1件で「良かった」と言ってくれるならいいのだ。クラファンみたいなもんだ。1300円で600円くらいのお土産ケーキが返礼品として戻ってくるならクラファンとしては十分といったもんだ。他の商品はどうですか?!と商魂出してきた少年だったが、1個でいいとキッパリ答えた。頑張ってねと言って、別れた。
家に帰って夫に報告すると、また?!という顔をされた。早速切り分けて2人で食べた。不味くはなかったし、コンビニスイーツくらいは美味しかったように思う。でも1300円の味ではない。断じて言える。彼はこれからどうするのだろうか。明日もこれを売るのだろうか。悪い会社ではありませんように。次は晴れた日に仕事できますように。彼がくれた立派な領収書を見ながらそう思う。
