離婚(4) | いまのしゅんかん

離婚(4)

離婚届である。

「実は、こっちに引っ越してしばらくしてから、すでに入手していた。」

一層、夫がわからない。
それなら、なぜ、すぐに離婚に応じなかったのだろうか。

わたしと同様、夫も、すでに関係が破綻していることを認識していたのだろう。
でも、関係継続に執着するあまりに、誤魔化しつづけてきた。

記載欄を埋め、サインしたあと、

「実は、阪神大震災がきっかけで、きもちを開くことができなくなった。」

神戸に住む友達のことが心配で、大阪からかけつけたものの、その途中で、無残な惨状を目の当たりにし、しかも友達は亡くなっていて、とてもショックを受けたらしい。
それからというもの、その惨状を思い出すのが怖くて、トイレに入るときも、お風呂に入るときも、バスに乗っている間も、常に雑誌などを読むなどして、思考することを避けていたと。

「道の真ん中に、胴体がまっぷたつになった遺体とか、顔だけが転がっているとか、足だけが落ちているとか、そんな惨状見たことあるか?TVでは、せいぜい建物が倒壊しているのが映っただけだけど、実際にはあんなものじゃない。どんなにすざましかったか、想像もつかないだろう?」

確かに、想像はつかないよ。
どんなにTVで、津波のことや、テロのこととか、戦争のこととか、毎日毎日いろんなニュースが入ってくるけれど、どんなに悲惨なことなのか、実際のところ、体感などできるわけない。

「じゃあ、なんで、そのことを言ってくれなかったの?今更そんなこと言われたって、今まではそんなことちっとも知らなかったよ。」
「自分が壊れるのが怖かったから。」

やっぱり、ぜんぜん考え方が違う。
確かに、阪神大震災は特殊な出来事だったといえよう。
だけど、誰もが、大なり小なり過去の傷をもっていて、それで苦しんだり悲しんだりしている。
だからこそ、人は一人では生きていけない。
苦しいこともシェアしあって、支えあいながら、人って生きていくものなのではないだろうか。

それを、夫は、あえて傷をふたすることによって、ごまかし、だからこそ、わたしの苦しさを受け止めることもできなかった。
本質ではなく、表面だけでも、「幸せ」を演出し続けようとしたのかもしれない。

夫は、わたしとの関係不全のエクスキューズとして打ち明けてくれたのかもしれないが、わたしにとっては、逆に不信感だけが残った。

言ってくれたらよかったのに!

つづく。