仕事帰り、ふと寄ったコンビニの駐車場で、
エンジンを切ってからもしばらく、スマホを眺めていた。
妻には「今から帰る」とだけ送って、
そのまま別のアプリを開く。
──同級生の由香。
高校時代、特別仲が良かったわけでもない。
でも、最近になってSNSでつながった。
写真の中の彼女は、どこか大人びていて、
あの頃のあどけなさの面影が、
ほんの少し残っていた。
「元気?」
軽い気持ちで送ったつもりだった。
“既読”の文字がついても、返信はなかった。
10分、15分。
家に帰るタイミングを逃して、
車の中で缶コーヒーを飲み干した。
空になった缶を握りしめながら、
何をしているんだろう、と自分に呆れる。
その夜、ベッドに入ってからスマホが震えた。
「懐かしいね。元気だよ。」
たったそれだけの文章なのに、
心臓が少しだけ跳ねた。
どうして、たった一言に、こんなに反応してしまうんだろう。
妻の背中はいつものように静かで、
画面の光だけが、自分を現実から切り離していく。
それから、何度かやりとりを重ねた。
「仕事、大変そうだね」
「最近どうしてる?」
他愛もない会話。
でも、その“他愛もない”が、今の自分には救いだった。
ある夜、由香からこんなメッセージが来た。
「なんか、疲れた顔してそうだね。ちゃんと寝てる?」
見透かされたようで、言葉が出なかった。
妻にはもう、こんな優しい言葉をもらったことがない。
そんなはずないのに、
今の僕には、それが現実のように感じられた。
返信を打つ手が、わずかに震える。
“ありがとう。大丈夫だよ。”
と打っては消し、
“今度、ゆっくり話したいね。”
と打ってはまた消した。
やっと送れたのは、
「久しぶりに、話したくなった。」
その一文だった。
既読がついたのは、2分後。
──そして、返信。
「私も。ずっと誰かと話したかった。」
その瞬間、
車の中の静寂よりも重たい何かが、
心の奥で“音を立てて崩れた”気がした。
もう、後戻りはできない。