似合う色が、静かに変わっていく頃 | 日本文化、世界の歴史・健康・ミライにチャレンジ

似合う色が、静かに変わっていく頃

日本の色と時間の話




皆様こんにちは、いかがお過ごしでしょうか。日差しはやわらかく心地よいものの、風の強さによってはまだ冷たさを感じる日もありますね。

四季を通して、日本のさまざまな色を感じられることを、私はとても幸せなことだと感じています。春の淡さ、夏の強さ、秋の深み、冬の静けさ。日本の色は、季節とともに移ろいながら、私たちの暮らしや感覚にそっと寄り添ってきました。



先日、色彩を研究する前、正確には大学院に入学する前から「いつか手元に置きたい」と思っていた日本の色見本の本を、思いがけずいただきました。

長い間、心のどこかに残っていた憧れの一冊です。振り返ってみると、私は色を体系的に学ぶ以前から、自然と色に親しんできたように思います。


着物の色合わせや季節ごとの取り入れ方に心を惹かれ、またオーラソーマを通して、色が持つ象徴性や内面への作用にも触れてきました。理論よりも先に、感覚として色と向き合っていた時間だったのかもしれません。



幼い頃の記憶にも、色にまつわる小さな出来事があります。

七五三の着物を選ぶ際、私はどうしてもピンクがいいと母に主張しました。けれど実際に用意されたのは、オレンジ色の着物でした。当時の私はどこか不本意で、「どうしてこの色なのだろう」と思っていたことを覚えています。

それから長い年月が経ち、ふとアルバムを開いてその写真を見返したとき、思わず納得してしまいました。

そこには、無理のない表情で写る自分がいて、「なるほど、あの頃の私にはオレンジの方が似合っていたのだな」と、静かに腑に落ちたのです。

日本の伝統色の中で、いわゆるオレンジは、単に明るく元気な色というだけではありません。

橙(だいだい)、柑子色(こうじいろ)、黄丹(おうに)など、少しずつ表情を変えながら、祝いの場や人生の節目に用いられてきました。

赤の力強さと黄色のやわらかさを併せ持ち、外へと開きながらも、人を包み込む温度を感じさせる色です。

七五三という節目に選ばれたオレンジの着物は、可愛らしさよりも、健やかさや生命力、これから育っていく芯の強さを、そっと先取りしていた色だったのかもしれません。

色は、時に本人の意思よりも少し先を見て、選ばれることがあるのだと、今では思います。



その後、デザインや素材、光や空間と向き合う仕事を重ねる中で、色の捉え方も少しずつ変わっていきました。

色は「選ぶもの」から、「感じ取るもの」へ。

強さや分かりやすさよりも、にじみや揺らぎ、季節の移ろいの中で生まれる微妙な違いに、心が留まるようになりました。

更年期を迎えてからは、「似合う」と感じる色にも、はっきりとした変化を感じています。

以前は惹かれていた色が強く感じられたり、逆に、これまで選ばなかった色が、すっと身体に馴染むように感じられたりします。

それは流行や気分ではなく、身体の内側のリズムが変化していることと、深く関係しているように思います。



今、心地よいと感じるのは、はっきりとしたコントラストの色よりも、曖昧さを含んだ色合いです。

にごりを含んだ白、深みのある土の色、夕暮れに近い橙、影を含んだ緑。

それらは主張するのではなく、呼吸を整えるように、静かに寄り添ってくれます。

若い頃の「似合う」は、どれだけ映えるか、どれだけ目を引くか、だったのかもしれません。

けれど今は、「疲れない」「落ち着く」「長く付き合える」という感覚が、何より大切になりました。

色は外見を飾るものから、心と身体を調律する存在へと、役割を変えているように感じます。

今回手にした日本の色見本を開くと、そこに並ぶ色たちは、決して声高に語ることなく、静かにこちらに語りかけてきます。

それらは完成された色というよりも、時間を含んだ色。

若い頃には気づけなかった奥行きが、今は自然に目に入ってきます。

色は、目で見るものだけではなく、人生の段階ごとに受け取り方が変わるもの。

今だからこそ、この色たちと向き合える。

そう思えたこと自体が、この本が今の私のもとにやってきた理由なのかもしれません。

これからも色とともに、変化を拒まず、その時々の自分を受け入れながら、生きていきたいと思います。