「成熟世代の香りの選び方:年齢とともに変わる体臭とフレグランスの調和」
皆様こんにちはいかがお過ごしでしょうか。季節の変わり目は洋服を新しくするように、日常でまとう香りも変えたくなります。女性として思春期を超えて成熟世代に入ってから若い女性特有の甘やかな香りは卒業しました。
その代わりに、私自身の人生の軌跡や深みを映すような香りをまとうことに、より魅力を感じるようになったのです。
実は、生まれてから死を迎えるまで、私たちの体から発せられる香り——いわゆる「体臭」もまた、年齢やホルモン、生活習慣、そして心理的状態によって変化し続けることが知られています。
生物学的に見れば、体臭はホルモンのバランスと密接に結びついています。
たとえば思春期には、性ホルモンの分泌が増加することで皮脂腺の活動が活発になり、皮膚常在菌との反応によって、いわゆる“若さ”を象徴する甘く官能的な香りが生まれます。これは、無意識のうちに「繁殖」に適した時期を知らせるシグナルでもありました。
ところが、30代後半から40代、そして50代へと進むにつれ、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン量は徐々に減少し、それに伴って体臭も穏やかで落ち着いたものへと変化していきます。これは老化のサインではなく、「熟成」ともいえる美しさの一形態。木が年輪を重ねてより芳醇な香りを放つように、私たちの香りもまた、人生の物語を帯びたものへと進化していくのです。
科学的には、「ノネナール」という成分が40代以降に増えることが発見されています。
これは加齢臭と呼ばれることもありますが、実際には脂肪酸の酸化によって生まれるこの分子は、洗練された香水と重ねることで、落ち着きや安心感を与える特有の深みとして活かすこともできるのです。香りは「消す」のではなく、「重ねる」「響かせる」ことで、その人の個性として昇華させる。成熟した世代ならではの香水の楽しみ方が、ここにあるといえるでしょう。
また、歴史的に見ても香りと女性の人生の変遷は深く結びついてきました。
古代エジプトでは、権威ある女性たちがミルラやフランキンセンスなどの樹脂香を身にまとい、精神性や神聖さを香りで表現していました。ヨーロッパの貴婦人たちは、白檀やアンバーの香りを身にまとうことで、知性と余裕を感じさせる余香を演出したといわれています。
香りは、私たちの「今」の心と身体を映す鏡であり、同時に「どんな女性でありたいか」という未来のビジョンを導く羅針盤でもあります。
ですからこそ、季節が巡るこの時期には、香りの衣替えを——。
年齢を重ねるごとに香水が似合わなくなった、と思うのではなく、その年代にしかまとうことのできない香りがあるということに、気づいていただけたら幸いです。