今日は台風の影響下での
休日の1日になりそうです。
皆様、氷雨でお風邪を召さぬようにお気を付け下さい。
では、今日も少しでも皆様の楽しみになればと祈りつつ、
「ジアルの日記」をお贈り致します。
「2385年2月27日。今朝は、起きてすぐに父への手紙を書いた。
『お父様、お母様との経緯を話して下さって、有難う御座いました。話しにくい事柄だった事と思いますが、私は事実を受け止められます。ところで、お願いが有ります。キラ司令官は、ご自分のお母様の事を完全に誤解しておられます。あのように立派な方が、最愛の娘に誤解されていてはいけないと考えますので、お父様の手紙の、キラ・メルーさんについて書かれた部分を抜粋してキラ司令官に見て頂いても宜しいでしょうか?お返事をお待ちしております。』
朝食を母と一緒に摂り、出掛けようとした時に、注文していた林檎が転送で届いた。連邦規格の中で一番大きな箱で、品種の名前は、「ゼンタルのエメラルド」と書いてある。かなりおまけしてくれたようだ。箱を開けてみると、大きくて立派な青林檎が沢山入っている。とても我が家だけで消費できる量ではない。少し考えてから、ユゴーさんにおすそ分けしようと思った。1日のランチの終った時間にでも、お邪魔してみよう。新しい食材には、興味を持ってくれるだろうと思うから。
会社に行き、今日は外回りの取材で一日を終えた。画像や録音の整理をしていると、エリムから通信があった。良かったらお茶でも飲まないかと言うので、そうする事にした。ビルの外に出ると、エリムが待っていてくれた。
『何処のお店に行きましょうか?』エリムに聞くと、
『その前に、フットマッサージの店に行こう。今日は1日中歩いたんだろう?』と言われた。
『どうして分かるの?』
『歩き方が微妙に違うからね。』事も無げに、エリムは言う。
近くのオデット式のマッサージの店に行き、エリムと2人で30分のマッサージを受けた。その後、
『仕事で疲れた時には、自分にご褒美をあげないとね。』と言ってエリムは、「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」のカフェに連れて来てくれた。ちょっと迷ったけれど、彼にそそのかされたので、プチフール7種セットを頼んでしまった。カロリーが恐い。
『貴方って、何でも分かってしまうのね。』オーダーを終えて、ギャルソンが立ち去った時に、エリムに話し掛けた。
『残念ながら、君が思っている以上に、色々と分かってしまうんだよ。例えば、君は2,3日中に何か嫌な事があっただろう?』これにはびっくりした。
『そうなの。「ピオニー」が発売された翌日に、オデットのベイジョー人から抗議文が来たのよ。私は裏切り者の一族の私生児なんですって。大叔父が密告者だったかららしいわ。』
『随分酷い事を言うね。しかし、少なくとも君の直系血族で、ベイジョーを裏切った人はいないよ。』
『どういう事?』
『君の母方のお祖父様とお祖母様は、2人とも「禁断の刺繍」の継承者だった。だから、カーデシア占領後も生活には困らなかった。しかし、あるカーデシア人が、寺院で使う物にしか使用を許されない模様の刺繍をしてくれと言ったのを断った為に、反政府分子に分類されてしまった。その為に、悪性の伝染病が流行した時に、ワクチンの支給を受けられなかった。2人は、不本意ながらカーデシア人に賄賂を使ってでもワクチンを手に入れようとした。しかし、そのカーデシア軍人が、君のお祖母様を要求したので、お祖父様は断固として断った。その為にワクチンを手に入れられず、全財産をはたいてベイジョー人の闇商人からワクチンを買ったんだが、それが偽物だったようで、2人とも伝染病で死んでしまった。12歳の娘だけが残され、叔父に引き取られた。しかし、その叔父という人は、お祖父様夫婦に遺恨が有った。君の大叔父さんは、兄が得た「禁断の刺繍」を継承する資格を認められなかった。そして君のお祖母様には、結婚を申し込んだ事もあったんだが、彼女は兄の方を選んだ。運の悪い事に、君の母上は、父親に似ていた。「禁断の刺繍」の継承者になっていた事もだ。叔父さんは、君の母上に自分の兄を重ねて、家事を全部させた上に、針仕事でこき使った。その上、カーデシア軍人に愛人として売りつける算段までしたんだ。君の父上に出会うまでは、母上は随分苦労したんだよ。しかし、君の母上はデュカットを愛しただけで、その援助も受けていないから、ベイジョーを裏切った事にはならない。従って君の直系で、ベイジョーを裏切った人はいないんだよ。』
『どうしてそんなに詳しいの?』
そう問い掛けた時に、注文のケーキが来た。
『君達の事は、デュカットの周辺情報として調べていた。君の存在も、君が誕生した日に知っていた。当時は、デュカットも馬鹿な事をしたと思っていたよ。しかし、今はその点では感謝している。こんなに大事な人になるとは思わなかった。全く予想していなかったよ。人生は奥が深いね。』エリムは、ティーカップを掲げた。
『私の大叔父さんは、どういう人なのかしらね?』
『会ってみたいの?君の母上を酷い目に遭わせた人だよ。』エリムは、怪訝な顔をする。
『ちょっと好奇心が有るの。私は、カーデシア側の親戚にも、ベイジョー側の親戚にも会った事が無いのよ。』
『少なくとも、150年は会えないよ。』そう言って、エリムはお茶を一口飲んだ。
『どうして?』
『君の大叔父さん夫婦は、カーデシアがベイジョーから撤退した直後に、密告者だった事が知られてしまってねえ。暴徒に襲われたんだ。検視も困難な遺体になってしまったよ。遺体の引取り手が無くて、ベイジョーの首都の共同無縁墓地に遺骨が納められている筈だ。』私は、暗澹たる気持ちになった。エリムは、話題を変えた。
世間話をしながらケーキを食べていると、ナッツの乗ったタルトが目に付いた。それを見た時に、同じ様なお菓子が出たパーティ会場の事を思い出した。
『ちょっと嫌な事を思い出してしまったわ。』
『話してみて、楽になるよ。』エリムは、お茶のお替わりを注いでくれた。
『昔ね、父とカーデシアでパーティに出た事があったの。これと同じ様なタルトがデザートに出たわ。その時に、あるカーデシア人が言ったの。「貴女は本当にデュカットの娘ですか?ベイジョー女が、他の男との間の子供を押し付けたんじゃないでしょうね。」って。』
『君はどうしたの?』
『「私はDNAスキャンでデュカットの娘と証明されています。根拠の無い事で母を侮辱したのは許せません。訂正して謝罪して下さい。」と言ったの。その人は、
「今の言葉で、貴女がデュカットの娘だとはっきり分かりました。非礼をお詫び致します。」と言ってはくれたけれど、お父様の立場を悪くしたんじゃないかと後で後悔したわ。』
『どうして?君は間違っていないよ。』そう言いながら、エリムはケーキを取った。
『私は、この言葉を古代ヴァラガシ語で言ったの。(カーデシア上流階級の人間は、儀式ばった会話の時に古代ヴァラガシ語を使うが、返答次第によっては訴訟や実力行使も辞さないという場合にも古代ヴァラガシ語を使う。)そして相手の人は、テインと同じ位の年齢の、地位の有りそうな人だったのよ。』
『どういう地位の人だったとしても、君の対応は間違っていないよ。・・・それは何時の事だった?』少し考えてから、エリムは私に尋ねる。私は、カーデシア暦の日付を答えた。
『どうやらその男性には、別の意図が有ったようだね。それから3日後には、君の父上が激怒していた。「グローモール」の艦長室で、手当たり次第に壁に物をぶつけてね。部下の目も憚らず、こう言ったそうだ。「あのくそ爺、雷に打たれて死んでしまえ!」』
『何が有ったの?』やはり、私は間違った事をしたのだろうか?
『レガート・ゴラルが、君を後添いに欲しいとデュカットに申し込んだんだ。ところが彼は、デュカットの父親より年上だった。それで父上は怒った訳だ。勿論、父上はこの話を断ったよ。』エリムは、ゴラルの人相を説明してくれた。確かに私が話した人だ。そして、
『カーデシア人は、気になる異性をわざと侮辱して反応を見る事がある。君も父上から聞いているだろう?』と言った。
『そうだったの!?』まさかそんな意味とは思っていなかったので、本当に驚いた。
『嫌そうだね、彼はレガートの中でも権力が有る男で、結婚相手としては悪くないよ。異常性癖も無いしね。』面白そうな顔で、エリムは私を見ている。
『絶対に嫌よ。どんなに条件が良くても、殆ど初対面に近い祖父ぐらいの年の人なんて、お断りだわ。』
『そう?私と付き合ってくれているから、年上が好きなのかと思っていたよ。』
『貴方だから好きなのよ。』自分で言った言葉なのに、すぐに恥ずかしくなってしまった。
『有難う、嬉しいよ。』エリムは、私の手にキスをした。
その後は、林檎が来たので、日曜日にはテインのお宅でパイを作るとか、ニャーニャは私の事を家で一番偉くない人間だと思っているらしいとか、他愛も無い事を話して、お開きになった。家の前まで、エリムが送ってくれた。遅めの夕食を食べて、父からの手紙を見る。
『確かに君の言う通りです。メルーは、娘に誤解されていては浮ばれないと思います。私からも送りたいファイルと言いたい事が有りますので、それがそちらに届くまで、送るのを待って下さい。』と書いてあった。
明日は、アップルパイを試作してみよう。」
皆様も、良い休日をお過ごし下さい。