『独眼竜政宗』第25回「人質、めご」感想 | のぼこの庵

のぼこの庵

大河ドラマの史上最高傑作『独眼竜政宗』(1987⇒2014再放送)と近年の最高峰『平清盛』(2012)の感想です。
ついでに『江~姫たちの戦国~』(2011)、『八重の桜』(2013)、『軍師官兵衛』(2014)、『花燃ゆ』(2015)の感想も。
あとは爺放談?

秀吉一行を居城の会津黒川城に招き入れた政宗ら。
秀吉の眼前に二つの箱を差し出します。

政宗「恐れながら、殿下お仕置きの材料として相整えました」
浅野長政「仕置きの材料?」
政宗「は」
片倉小十郎「重信」
鈴木重信「はは。左の箱は旧葦名領の絵図面、目録、各村々の耕地反別ならびに収穫高、年貢割の書類帳面一切、さらに領民の人別まで手落ちなく取り揃えてござりまする」
秀吉「ほぅ」
重信「御上覧賜りますれば五穀のみならず漆および蝋の採れ高まで詳(つまび)らかに相成るものと心得まする」
石田三成「して右の箱は」
重信「されば、同じく米沢より伊達家伝来の書類一切を持参仕りました」
政宗「臣下の礼として殿下のご存分になされますようお引き渡し仕ります」
秀吉「その方の計らい、満足じゃ」
政宗「恐れ入りまする」
秀吉「氏郷」
蒲生氏郷「は」
秀吉「葦名の書類を検(あらた)めよ」
氏郷「承知致しました」
秀吉「申し状に相違なくばそちに遣わす」
氏郷「はは」
秀吉「(ボリボリ)富士の氷じゃ。片方は検分するに及ばず。政宗、持ち帰れ」
政宗「有り難き幸せに存じまする」
秀吉「わしはの、そちの潔さが気に入っておる。が、他の者はそちを悪し様に申す者もおるぞ」
政宗「…」
秀吉「小田原で、そちを生かして奥州に帰さば、虎を野へ放つが如きとか。のう三成、申しておったのう」
三成「佐竹義信にござりまする」
秀吉「わははは、そう、佐竹が申しておった。ははは」
小十郎「恐れながら、我が殿は独眼竜の異名をもって知られておりまする」
長政「独眼竜?」
氏郷「書類の儀、伊達殿の申すとおり些かの落ち度もございません」
秀吉「政宗が竜なら、氏郷は麒麟じゃ」
政宗「…」
秀吉「ははは、此度の奥筋成敗はおもろいのう。麒麟と竜の知恵比べじゃ」
氏郷「はぁ、お言葉ではござりまするが、奥州の諸事万端は伊達殿の熟知せるところ。某は新参者として案内を請わねばなりません」
三成「蒲生殿、それは心得違いじゃ。検地は元より刀狩りも城の没収も全ては殿下の御差配によるもの。伊達殿は、ただの道案内にすぎぬ」
秀吉「三成、何も申すな」
三成「…」
秀吉「氏郷は何もかも承知して申しておる。のう、ははは」
政宗「…」


神龍も霊獣も思いのままに操る秀吉は、もはや神。
死後大明神と崇め奉られて当然の存在なのです。

長政「さて伊達殿、検地は入念に行わねばならん。また、三百六十歩を一反とする制度を改め、今後は三百歩を一反と数える」
政宗「!」
小十郎「恐れながら、三百歩では百姓の暮らしが成り立ちませぬ。年貢は滞り必ずや治世に不満が生じまする」
秀吉「…検地に叛く百姓在らば、根こそぎ切り取れ!」
政宗「…」
秀吉「それがわしの生き方よ」


民百姓には無慈悲な大明神でした。

愛姫「とんと解せませぬ。農民の出の関白様がどうして農民を苦しめるのか」
政宗「頭から下々の者に疑念を抱いておるのだ。山は奥の奥まで、海は艪・櫂の続く限り入念に調べ上げて検地を実行し厳しく搾り上げれば年貢の誤魔化しが無くなると言うておる」
愛姫「理不尽な」
政宗「明日からの旅が思いやられる。至る所で騒ぎが起きよう」
愛姫「くれぐれもお気をつけ下さりませ」
政宗「…それだけではないのだ」
愛姫「?」


再び秀吉一行との場面。

小十郎・重信「!」
政宗「恐れながら政宗は心底より殿下に帰服致しておりまする。この期に及んで人質を召し上げられるとは心外至極に存じまする」
三成「控えろ!伊達殿」
長政「人質と申しても形の上の事。お主が奥方を差し出せば奥羽の諸大名悉く(ことごとく)見習うであろう。御政道御無事のため進んで模範となってもらいたい」


どっかの似非軍師なら「天下泰平のため」とか「戦の無い世を作るため」とか言って唾を飛ばしそうですね。

秀吉「何処が良いかの。黒川領か、田村領か、そちの好きな方を遣わすぞ」

秀吉は政宗の弱みを突いて、領地との引き換えをちらつかせます。
今回も、言葉を発する事が出来ない政宗に代わって小十郎が何とか窮地を脱しようとします。

小十郎「恐れながら暫しのご猶予を賜りとう存じまする。お急ぎとあらばご親族を代理としてお預けの段、是非ともお許し下さいまするよう」
三成「殿下は妻子と仰せられた」
秀吉「政宗には子がおらんでの」
小十郎「ご正室様は病弱に在らせられ、かかる大任には」
秀吉「嫁御は体が弱いのか」
小十郎「ははっ」
秀吉「そりゃいかん。ならばなおのこと雪国より京の方がしのぎやすい」
小十郎「…」
秀吉「その方も仕置きが済んだあと京に参れ。再会を楽しめ。ははは、良い計らいであろうが」
政宗「…」


残念。今回は前回とは逆に秀吉に一本取られてしまいました。

愛姫「愛は京に遣わされるのでございますか」
政宗「安心せい。俺はきっぱりと断った」
愛姫「お側を離れとうございませぬ」
政宗「離してなるものか。愛は俺の宝だ」
愛姫「でも、関白様の御命令に背けばご不興を蒙りましょう」
政宗「その場限りの嫌がらせだ。断固として撥ね付ければそのうち立ち消えになるに相違ない」
愛姫「…」


全て、愛姫を心配させないための方便です。
あの場、あの雰囲気ではきっぱり断れるわけもありませんね。
ここは、政宗が根拠もなく意地を張っているだけです。
その証拠に、大崎・葛西地方の征伐が済んでも事態は変わりませんでした。

長政「しかし、武将の運命とは判らぬものよの。小田原に参陣を渋って滅亡する者あり、危うく間に合うて所領を安堵される者あり。正に紙一重じゃ」
木村吉清「ははは、仰るとおり。伊達殿は運が良い」
氏郷「運が良いのは吉清であろう。明智光秀を見限り殿下にご奉公申し上げたのがそもそもの幸運」
吉清「願わくば先見の明があったと仰せられませ」
氏郷「ほぅ、はははは。いやいやそればかりではないぞ。此度は僅か五千石の旗本が、一足跳びに三十万石の大名に出世じゃ。侍冥利に尽きるというものではないか」
木村清久「有難き幸せに存じまする」
吉清「これ全て皆々様のお口添えあっての事。今後とも宜しくお引き回しの程を」
政宗「…」
長政「所領を治めるのはそう容易くない。大崎、葛西の残党に寝首を掻かれぬよう心して取り組むがよい」
吉清・清久「はは」
長政「時に伊達殿」
政宗「はぁ」
長政「奥方の上洛は早いほど良い。殿下は殊の外短気ゆえ長引けば長引くほどお主の立場が悪くなる」
政宗「その儀はお断り致したはず」
長政「そうは参らぬ。捨て置けば伊達殿の運命を左右するほどの重大事になるは必定」
政宗「殿下のご機嫌は上々でござった。黒川領は政宗の存分にせよと仰せられた」
氏郷「ははは、その上機嫌が危ないのだ。政宗殿は殿下のご気性を知らぬと見える」
政宗「ご介入は片腹致し」
氏郷「…何?」
政宗「政宗には政宗の流儀がござる!」
氏郷「…」
吉清「まま、一献…」
政宗「…」


政宗はイライラが募り氏郷に当たる始末でした。
これでは余計に自らを窮地に追い込むことになります。

愛姫「喜多はどう思う」
喜多「は?」
愛姫「愛の進退じゃ。上洛すべきか、米沢に留まるべきか」
喜多「何事も殿のお心のままに」
愛姫「南部信直殿の御正室も既に京へ上られたそうじゃ」
喜多「南部は南部、伊達は伊達。お気遣いはご無用かと存じまする」
愛姫「殿のご苦衷を思えば日に日に胸が重うなる」
喜多「愛姫様」
愛姫「いっそ私が上洛すれば関白様の覚えめでたく伊達家は安泰」
喜多「たとえ安泰でもご家名に傷がつきましょう。さればこそ、殿は一歩もお譲りにならぬのでございます」
愛姫「お取り潰しになってもよいのか」
喜多「まさかそのような」
愛姫「愛はじっとしておれぬ。伊達家に嫁いで十一年。何の役にも立たぬどころか、ここにこうしておる事がお家の災いの元になろうとは」
喜多「お止めなされませ!災いの元とは余りに情けないお言葉。愛姫様は殿のお心の拠り所でございます」
愛姫「喜多」
喜多「お察し下さりませ。既にご母堂様とは縁を切り、弟君はこの世になく、あまつさえ上方の軍勢に押し込まれて所領を失い、恐れながら殿のご胸中はいかばかりかと。今こそ殿のお側に添うて、お気持ちを慰め、お励ましになられるのが奥方様のお務めではござりませぬか」
愛姫「それは解っておる。愛とて京へは上りとうない。いつもお側に仕えて殿のお声が聞きたい。普通の夫婦のように笑うて門出を見送り、ご無事を祈りながらお帰りをお待ちしたい」
喜多「…」


伊達家の正室たる愛姫は、普通の夫婦の幸せが許されぬ身です。
ましてや、子を産めぬまま実家の田村家が領地を召し上げられてしまっては、ますます居場所がありません。
せめて人質となって伊達家の役に立つことが、愛姫にとって唯一残された道だったのかもしれません。

成実「殿」
政宗「!」
成実「石田三成より書状が届きました」
政宗「成実宛てではないか。如何なる用向きじゃ」
成実「奥方の上洛を急げと」
政宗「またしてもか!」
成実「さもなくば二本松、四本松も召し上げ、蒲生氏郷に遣わさるべしと」
政宗「!氏郷に?」
成実「二本松は渡しませんぞ!成実の目の黒いうちは弓矢にかけても渡さん」


秀吉は二本松、四本松さらに田村の仕置きを宙に浮かせたまま執拗に愛姫の上京を迫りました。
これに対し政宗は、秀吉やその側近に名馬や鷹を献上し懸命に機嫌を取り結ぼうとしたものの、心理的圧迫は日に日に高まるばかりでした。

愛姫「殿、愛は幸せでございます」
政宗「ん?」
愛姫「関白様の御召しを退けてまで愛をお守り下さるお気持ち、ひしひしと身に染みまする。女としてこれに優る喜びがござりましょうか」
政宗「ははは、嫌に神妙だな」
愛姫「さりながら、事態は殊の外逼迫致しております。愛一人のために伊達家が滅びてはご先祖様に申し訳が立ちませぬ」
政宗「どうしたのだ」
愛姫「どうか、殿のご本心を」
政宗「本心?」
愛姫「京へ上れと仰せられれば愛は直ちに参ります」
政宗「埒もない事を申すな」
愛姫「お怒り下さいますな。たとえこの身は遠く離れても、心は殿のお側に。もはや猶予はなりませぬ。最上義光殿の奥方もご次男と共に出立なされたと聞きます」
政宗「慌てるな。俺もいろいろと手立ては巡らしておる。…はははは、盛重や重信如きは替え玉を差し出せと申しておる」
愛姫「替え玉?」
政宗「猫が志願しておるそうだ」
愛姫「なりませぬ。偽者を送って露見致せばそれこそ末代までの恥辱でございます」
政宗「いざとなればの話だ」
愛姫「どうか、どうか愛をお遣わし下さりませ。及ばずながらお役の儀、都人の嘲りを受けぬよう心して相務めまする」
政宗「綺麗事では通用せん。秀吉は名うての色好みじゃ。言葉巧みに言い寄られたら、おいそれとは逃れられんぞ」
愛姫「断じて辱めは受けません。一端事ある時は自害してでも操を守り抜く覚悟にござります」
政宗「愛」
愛姫「どうかご決断を」
政宗「よう解った。上洛の義、しかと頼む」
愛姫「畏まりました」


政宗の意地っ張りもこれまで。
正妻を関白に差し出すのはこの上ない屈辱だったでしょう。

しかし、この頃の政宗は若かった。若過ぎました。
やられたらやり返すを、実行してしまったのです。

重信「申し上げます。重信にござります」
政宗「苦しゅうない」
重信「葛西領にただならぬ事態発生の模様にござります」
政宗「ん?」
重信「されば、胆沢郡、磐井郡、気仙郡にて領民が蜂起致し木村殿の家臣を討ち殺しました」
政宗「…」
重信「?」


さらに大崎領では岩出沢の城主が暴徒に惨殺される事件が起きました。
これに呼応して大崎・葛西の豪族、地侍、農民達が決起し、暴動の波は燎原(りょうげん)の火の如く広まりました。
政宗は軍勢を率いて一揆討伐に向かいます。

国分盛重「芳しからざる一件が出来(しゅったい)致しました」
留守政景「遠慮は要らぬ。申してみよ」
盛重「古川籠城の上方勢が一揆の者に城を明け渡し落ち延びんとした所を騙し討ちに会い、悉く殺されました」
政宗「致し方あるまい」
成実「身から出た錆だ」
盛重「しかしそれが…」
政宗「なんじゃ」
盛重「殺された場所は生憎伊達領内でござった」
政景「何?伊達領内?」
成実「どこであろうと我等の預かり知らぬ事」
盛重「そうはいかん!伊達の仕業に相違ないと有らぬ疑いをかけられるは厄介千万ではないか」
政宗「盛重」
盛重「あ?」
政宗「そちが襲ったのではあるまいな」
盛重「!無体な。あたっ、あちち」
政景「はて、如何致したものか。上方に曲解されては迷惑至極」
鬼庭綱元「恐れながら、大崎領は指呼の間にござります。明日にでも討って出て岩手沢城の木村殿を救えば潔白の証しとなりましょう」
盛重「おぉ、それに限る」
政宗「慌てるな」
盛重「しかし」
政宗「待つのだ。蒲生が着到するまでは高見の見物でよい」
盛重「殿のお考えがわからん」
政景「しかしそれではますます疑いを持たれよう」
政宗「心配は無用じゃ。この一件は伊達の知る所に非ず。申し開きの書状をしたためる」
盛重「書状を何処へ」
政宗「綱元」
綱元「は」
政宗「明朝早く二本松へ発て。浅野殿が逗留致しておるはずだ」


二本松城。

氏郷「これは怪しい」
長政「何?」
氏郷「某、取り急ぎ現地へ参り事の次第をそれとなく詮議致しまする」
長政「政宗は、伊達にお任せあれ、蒲生殿急ぐに及ばぬと申しておるが」
氏郷「いやさればこそ急がばなりませぬ。或いは我等を出し抜き一揆の鎮圧どころか裏へ回り煽り立てる魂胆あるやも知れず」
長政「それほど愚かではあるまい。殿下の恐ろしさは身に染みていよう」
氏郷「いや、若年者ゆえ己れを過信致し大それた陰謀を抱かぬとも限りませぬ」
長政「しかし」
氏郷「政宗は油断のならぬ男でござる。野放しにしてはおけませぬ」
長政「元よりこなたを引き止めるつもりはない。心して出馬されよ」
氏郷「心得ました」


自縄自縛、政宗の運命やいかに。