『独眼竜政宗』第11回「八百人斬り」感想 | のぼこの庵

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大河ドラマの史上最高傑作『独眼竜政宗』(1987⇒2014再放送)と近年の最高峰『平清盛』(2012)の感想です。
ついでに『江~姫たちの戦国~』(2011)、『八重の桜』(2013)、『軍師官兵衛』(2014)、『花燃ゆ』(2015)の感想も。
あとは爺放談?

今回は山中の出城を攻める合戦シーンが魅せ場。

伊達軍は、籠城を図る小手森城の退路を断ち、前と後ろから攻め入りました。
若き成実も小十郎も勇ましく敵と斬り合います。

荒井半内「伊達の衆、よう聞け!我こそは小浜の武術指南荒井半内じゃ!腕に覚えの者あらば、わが太刀風受けてみよ」
おぉ、敵ながらかっこいい口上。
しかしあまり強そうに見えないのは、なぜ?

屋代勘解由「いざ見参。伊達家旗本、屋代勘解由ダ」
江夏さん、いかにも強そうだけど声が小さいよ。
指南役をあっさり斬り伏せた江夏勘解由は火の中で暴れ回ります。見るからに暑苦しい。

そんなこんなで、
漸く城を奪い取ったものの、敵将ムスカもとい大内定綱には逃げられてしまいました。

政宗「かくなる上は生き残った者をなで斬りにせよ!」
一同「!…」
政宗「男は申すに及ばず女子供から牛馬虫けらに至るまで凡そ命のあるものはことごとく討ち果たすべし!」
小十郎「殿!」

何か言いかけた小十郎でしたが、思い止まりました。

籠城していた大内勢は農民町人を含めて男女約八百人。
伊達家の治家記録によれば一人残らず惨殺されたとのこと。
一説には二百人とも言われますが、これが悪名高き小手森城大虐殺です。

こりゃ視聴者引くわー。
小十郎の「定綱殿はどこじゃ」から成実の「斬れ!」そして江夏“豪左腕”勘解由の斬首と続く恐怖のリレーも、子供が見たらトラウマになりそう。

こんな時、健全な視聴者の心中を代弁してくれるのはこの人です。

虎哉宗乙「たわけ者!この大それた人殺しめ!」
政宗「待て!人殺し呼ばわりは心外でござる!戦に死人は付き物じゃ!」
虎哉「黙らっしゃい!百姓町人女子供まで殺しておぬしは恥ずかしゅうないのか!木っ端武士ならいざ知らず、天を父とし大地を母として生きるほどの人間ならば何故にかくも無益な殺生を!」
政宗「無益ではない!小手森のなで斬りを聞いてそこらの館は皆降参した!戦わずして四本松(しおのまつ)の半分を手に入れたのだ!」
虎哉「あぁ哀れなるかな堕地獄の亡者め!おのれは毛程も悔いることなく徒に殺戮を重ねる気か!」
政宗「それがどうした!俺に刃向かう者は何人(なんぴと)たりとも斬って捨てる」
虎哉「敵も味方も御佛にとっては皆我が子じゃ!」


政宗の心中では鬼と仏が葛藤しています。

政宗「成実、小手森のなで斬りはあれでよかったのか。仏の道に背きはせぬか」
成実「…何のあれしき。戦場では仏も眼を瞑ってござろう。いやしくも天下を望む者は、清濁併せ呑む気概が肝要でござる。信長殿をごろうじろ。当たるを幸いなぎ倒し無慮数万人の命を奪ったではござらぬか。我等とて生と死の狭間をいつもさ迷うておりまする。戦に勝てばそれでよし。敗ければ命を獲られます。勝ち抜く為には鬼とならねばなりませぬ」
政宗「…」

 

その成実も

成実「殿は案外に引っ込み思案な所がある。小手森のなで斬りを気に病んでおるらしい。これでは先が思いやられるわ」
小十郎「いや、それでこそ棟梁の器と申せましょう。人の上に立つ者は慈悲の心を持たねばなりません」
成実「八百人斬りは過ちだと申すのか」
小十郎「さに非ず。新しい伊達の御大将の、鬼をもひしぐ強さ恐ろしさを奥羽諸国に知らしめました。先ずは目出度き限りでござる」
成実「ならばくよくよすることはなかろう」
小十郎「外に向かっては鬼。省みては慈悲。これぞ武将たる者の心得でござる」
成実「俺は鬼でよい。省みて弱腰になるのは御免蒙る」


このあと、成実と小十郎が同時に盃に手を延ばして笑い合うシーンがありました。
これは、互いが互いの胸の内に気がついた。また気づかれた。
つまりは、なんだお前も俺も、殿(政宗)と同じくなで斬りを気に病んでいるのではないかという一体感、安心感から来る笑いなのでしょう。
強気に見える成実も、冷静に見える小十郎も、心中穏やかではなかったようです。

そのころ小浜城では

大内定綱「わしの腹は決まった。生まれ育った父祖伝来の地を捨て会津に身を寄せるは断腸の思いなれど、これまで大内家に尽くしてくれた家臣や領民をなで斬りにされるは忍びがたい」

いやいや、葦名家が知行地を与え四天王に加えると聞いたことが大きいですよね。
しかしそれを感じさせない物言い。
これは本音と建前の使い分けではなく、周囲のみならず己の心をも「家臣や領民のため」と思い込ませているのですよ。
そして、恨みや後悔を残さないため、最後の夜に月見の宴を張る。城は焼かない。
権謀術数の策謀家はこうでなくてはいけません。

 

一方、姫たちは

愛姫「殿方の面目とはいったい何であろう。人の命のやり取りまでして」
喜多「お家のためでございます。由緒正しきご家名を守り多くの家臣を養い民を治めるために武器を取って敵と戦うのでございます」
愛姫「敗けた方はどうなる。四本松郡では多くの領民が家を焼かれ田畑を荒らされ何の罪もなく命を獲られていよう」
喜多「ご懸念には及びませぬ。四本松はこれより伊達領と相成ります。殿のご器量をもって治めれば全ての領民が潤い喜んでお仕えするに相違ござりませぬ」
愛姫「…」


そんな甘いもんじゃないと重々分かっていながら上手いこと言って庇いますね。
いや、もしかしたら喜多は本気でそう思い込んでいるのかもしれません。
ただし、こちらは大内定綱とは違って、親心なのでしょう。


「母親は勿体無いが騙しよい」(誹風柳多留より)