「あのう、写真部はここでしょうか」
ある日、1人の男子生徒が部室にやってきた。
「はい、そうですが」
女子部員の1人である只草舞衣が答えた。
部長の笹津やん菜は普段通り奥にある椅子で眠っていて、他の部員達はテーブルで雑談していた。
只草舞衣は男子生徒に近寄り、たずねた。
「何のご用でしょうか」
「実は、人を探してもらいたいのですけど」
「まあ、ここでは何ですから、こちらへ」
男子生徒はテーブルの所に案内され、椅子に座った。その反対側に、陣界斗、只草舞衣、八十亀最中が並んで座った。
男子生徒が話し出す。
「あのう、ここが探偵事務所だと聞いて参りまして」
「違いますわ、ここは写真部ですわよ」
「まあ、探偵みたいな事もやってます、この二次創作的には」
「メタ発言、メタ発言」
そこへ、顧問の初内ララ先生がやってきて、みんなのためのお茶を置いていった。
「ありがとう、ハドソンさん」
「陣先輩ったら、つられるんじゃありませんわ」
「それで、ご用は」
「確か、人を探してらっしゃるとか」
「はい、そうです」
「どういうお方で」
「それは、その・・・紅姫です」
「え・・・何・・・くれないひめ、と聞こえたような」
「ああ、あのもしかして・・・」
「はい、紅姫さんです」
「それで、その人とどういう御関係でしょうか」
「いや、その深い関係とかでなく、ぼく、今2年生で、昨年は1年生でしたけど、その頃は大勢の生徒達の憧れでして、ぼくにも一言話しかけて下さって、その時はものすごくうれしくて恥ずかしくてしばらく他の事が考えられない状態でした。それで、ときおり廊下で見かけた時も陰に隠れてそのお姿を眺めたりしていました。ああ、あのようなお淑やかな女子生徒は他にはいません。それがいつの頃からか姿を見かけなくなったといいますか、それでこの際、学校中を探し回ってみたのですけど、全然見つからないのです。他の人達にも相談してません。何というか、取られたくなかったというか、この際もう一度会って話しをして、それで会話が弾んでいったら、思い切って告白してみようかなと思ってます」
この説明を聞いて、3人は呆然とした。またロッカーに隠れた初内ララ先生もいくらか話に引き込まれた。
しばらくの沈黙のあと、只草舞衣が切り出した。
「それでここに来たら何とかなるかなと思ってやって来られたというわけで?」
「はい、そうです。この事はぜひ他の人達には内密に」
「はいわかりました。それではこちらとしても何とか全力をお尽くしいたしますわ」
「それじゃあ、今日はこれで」
そう言って、男子生徒は部室から去っていった。
そのあと、陣界斗は寝ている笹津やん菜を起こそうとした。
「笹津、寝てる場合じゃないぞ。ていうか、くれないひめっ」
「ええ何や、気持ちよう寝てたのに、あか先輩っ」
「紅姫と呼ばれて昔の自分に戻って寝ぼけてますわ」
「ネボケ、ネボケ」
笹津やん菜はどうにか起きて、そのあと来客からの依頼について説明を聞いた。
「な、何やて?うちに会いたいって?」
「まあそういう事になりますわ」
「ああ、うち、昨年の1年の頃は、髪をのばしていて、お淑やかな女子生徒を演じていて、いつの頃からか紅姫って呼ばれるようになってたんやったな」
「『八十亀ちゃんかんさつにっき』単行本第8巻参照」
「そういう事をいちいち言わんでもええっちゅうに」
「メタ発言、メタ発言」
「そのあと、あか先輩と出会って、おてんばな女に変貌していきましたとさ」
「やかましいわ。自分を偽るのをやめただけや」
笹津やん菜は陣界斗にラリアットを食らわせた。
「ほうら、ぼくが言った通り」
「ええ加減にせえや」
「陣先輩って本当にデリカシーがないですね」
「ナカヨシ、ナカヨシ」
「だけど、この前あか先輩が来た時に見せた紅姫の姿、本当に美人でしたよ。今と違って」
「一言多いっちゅうんや」
「でも今の笹津も何というか、一緒に話してて楽しいというか」
「え、あらそう?」
笹津やん菜はそう言われて恥ずかしそうに照れた。
「ムッ・・・」
「ほら、八十亀ちゃんがやいてますわよ」
「そんなんじゃにゃあわ」
「それで、どうします?さっき来てた男子生徒に対して」
「うーん・・・」
4人は考え込んだ。
「ちょっと待って」
そこへ、生徒会副会長の青那寺恵が入ってきた。
「話は外で聞かせてもらったわよ。あまりでかい声で話すと外へもれてしまうわ」
「あ、いやその・・・」
陣界斗は戸惑う。
「正体ぐらい私も知ってますわよ、紅姫さん。一緒のクラスだったし」
「ああ、それなら」
陣界斗達は安心した。
「あとは、ロッカーにいる初内ララ先生だけね。これは私らだけの守秘義務という事で」
全員がロッカーに近づく。
「わかったわ」
先生の声が聞こえた。
「それで、どうするの」
またみんなで部室のテーブルの所に戻ったあと、副会長が聞いた。
「この際、笹津にまた紅姫の姿になって話をしてあげた方がいいかな」
「で、そのあとは?」
「うーん」
「どうしましょう」
「また会いに来るなんて言ってきたらそれこそうちにとってもやっかいやし」
「だ」
「まあ、うまく別れるように話を持っていったらいいかな」
「そうですわね」
「最低限、紅姫の優しさをうまく演じるように。今の笹津みたいに暴れ出してイメージをそこなって夢を壊さないように」
「やかましいわ。いやでもそういう風に演じていきますわ」
笹津やん菜は途中で態度を変えながら話した。
今回からまた新たな二次創作小説を始めました。
タイトルは、もちろん、最近見かけた別の作品からですけど、その作品についてはあまり確認していません。