小生、26年ほど職人として生計を立てている。

これだけ長く職人を続け、毎年のように新入りさんをみていると、初めの一週間でその人の伸びしろが分かるようになるものだ。

自身の娘もふくめた全ての新社会人に、その理由を明かしたい。

伸びる人間は、初めの一週間ほどで仕事に必要な道具に気づき、文房具だのエプロンだのあれこれ買い集めてくる。

反対に、伸びしろのない人間は、何年経っても会社から支給された道具だけを使い続け、消耗したものに関しては理屈をこねて会社に請求してくる。

仕事が終わったあとに少し寄り道して、もしくは休みの日に、仕事に必要なものを買い揃える。

とても大切なことだ。

一日に8時間だけ仕事のことを考える人間と、アフターファイブや休日にもう1時間だけ会社のために時間を割く人間。

この差は、年月を重ねるほど大きくなって行く。

よく引き合いに出される話でお恥ずかしいが、一つの職種を習得するのに必要な時間は、約10000時間と言われている。

そして自分のお金を使って買った仕事道具には必ず愛着がわき、少し仕事が楽しくなる。
またいつかサイフに余裕ができた時に、もっといい道具を買ってみたくなり、買えたあかつきには、また少し仕事が楽しくなる。

会社から支給された道具だけで仕事をこなすことももちろん十分に可能だ。
そういう人の中にも優秀な人はたくさんいる。
だがそれは所詮与えられた仕事に過ぎないように思う。

会社から与えられた仕事を、与えられた道具でこなすより、自分自身の道具でこなした時のほうが楽しさや充足感を生み出すのは当然だろう。

会社から支給された包丁で調理するコックに一流はいない。

花屋のナイフ、美容師のハサミ、大工のカンナ、建築士のスケール。野球選手のバット。

一流はみな自前だ。

職場を通じて社会からお金をいただいているのなら、いただいたお金の一部を自身の仕事に投資し、社会に還元するのは理にかなった話だと思う。

時間もまたしかりだ。

どんな職業であろうと、新入りが一人前に育つまでの長い時間を待っていてくれたお客さんがいる。
自分の時間を仕事のために割いて、お客さんに返して行くのは、もはや義務に等しい。

つたない敬語を使っていたコンビニバイトの高校生が、いつも買うタバコを覚えていてくれるまでに成長した姿を見た時に感じることはみな同じはずだ。

新社会人諸君。

自分の仕事には自分自身のお金と時間を使ったほうがいい。

それが、スーツやバッグや革靴でもいい。

100円のボールペンでもいい。

日々、会社から与えられた仕事を、会社から与えられた道具でこなしているだけの毎日よりは、ほんの少し楽しく、ほんの少しやりがいを感じて働けるはずだから。