最初にMQ-80のドライブ回路をシミュレーション解析した時に最も周波特性と位相特性の良かった回路を用いて、出力段と出力トランスを組み合わせてシミュレーション解析して見ました。
初段管6267の負荷抵抗は75kΩ、スクリーングリッドは91Vのツエナーダイオードで安定化させています。6AQ8のグリッド回路のコンデンサは0.1μF、カソードフォロア段の12BH7Aの入力コンデンサは2.2μFです。低周波特性を悪化させる入力回路のコンデンサは除去して、負帰還抵抗と並列に入っていたコンデンサは220PFに減少させています。そのシミュレーション解析を行った回路図を以下に示します。
その結果を下記に示しますが、周波数特性が全然だめで、低周波0.7Hz近辺に11.8dBもの大きなピークが出来てしまいました。やはりドライブ段だけではパワーアンプの回路設計は出来ないという事を思い知らされました。
ドライブ回路の解析で良かった回路でのシミュレーション解析結果
特性改善策として最初に、初段管6267のカソード抵抗と並列に入っているコンデンサ容量を330μFから100μFに減少させてシミュレーション解析して見ます。そうすると、0.7Hz近辺のピークが半分以下の4.5dBまで減少しました。
次にリークムラード回路部、6AQ8のグリッド回路のコンデンサ容量を0.1μFから1μFに増加させてシミュレーション解析して見ます。その結果が以下で低周波のピークが0.2dBまで減少しました。位相特性も0.9Hz近辺の急激な変化が消えて、なだらかな変化になっています。
次に6AQ8のグリッド回路のコンデンサ容量を2.2μFまで増加させると以下に示すように低周波のピークは消えました。
前回のMQ-80オリジナルのシミュレーション解析結果で、負帰還を掛けない時の周波数特性が100Hzから20kHzまでフラットと高周波特性が意外に良かったので、初段管の負荷抵抗を下げてゲインを落として高周波特性を改善する必要は無いと判断しました。
そして、私のパワーアンプ設計時の考え方として、歪率は最大出力時に0.1%以下を目標にしています。これは私の保有するスピーカ(ISOPHON Orchester)の歪率が約0.5~1%であるので、パワーアンプはこのスピーカーの歪率の十分の一以下を目標にするという考えから決めた目標です。つまりパワーアンプで数パーセンントも歪があるようでは、元々の信号には無かったアンプの歪成分を聞いていることに成るので好ましくないという事です。今回のアンプKMQ-80も同じ目標で設計を進めてみます。そこで、今回は初段管の負荷抵抗を50%増加して150kΩにしてゲインを増やして、オリジナルの回路よりも負帰還量を増やして歪率を改善する方策を取る事にしました。以下のグラフがその時のシミュレーション解析結果ですが、0.24Hz近辺に1.3dBのピークが出来ています。
これは負帰還量が増えたことによるピークで、6AQ8のグリッド回路のコンデンサ容量を2.2μFから4.7μFに増加し、12BH7Aのグリッド回路のコンデンサ容量を2.2μFから3.3μFにすればピークは無くすことが出来ます。以下に変更後の周波数特性と位相特性のグラフを示します。
次の検討項目として、LUXのオリジナル回路では出力管の6336Aの動作点はプレート電圧が250V、バイアス電圧は約82Vでプレート電流が100mAに設計されているようです。6336Aはプレート損失30Wのユニットが1本の球に2組入っているので、1本で60Wのプレート損失、ヒーターが6.3V 5Aですのでヒーターの電力が31.5Wになり、合計で91.5Wもの発熱量になります。これではさすがに温度上昇が大きすぎて6336Aの寿命にも影響が出るので、6336Aの発熱を抑えてアンプの特性がほぼ同等になる動作点を探す事にしました。
但し、これだけ規模の大きいアンプなので、最大出力の40Wは維持して、歪率もオリジナルより低ひずみを目指すという、少し欲張った目標で色々な動作点をシミュレーション解析して最適な条件を見つけたいと検討しました。
まず出力段の電源電圧を20V下げて230Vにして、バイアス電圧も下げて無信号時のプレート電流を83mA、無信号時のプレート損失を1ユニット当たり約6W下げて19W程度の動作点で最大出力と歪率特性をシミュレーション解析して見ました。6336A1本分の発熱量は12W減少させる動作点です。下記に示したグラフが1kHz 40W出力時の波形をフーリエ解析した時の結果です。歪率はオリジナルよりやや良い0.13%でした。プッシュプルアンプで出力管のアイドリング電流を減らすと奇数次高調波が増加して低ひずみのアンプにするのが難しくなるのですが、今回は大丈夫そうです。
1kHz 40W出力時の波形をフーリエ解析した時の結果
6336Aのプレート電圧を20Vも下げて、プレート電流も減らしてこのような低歪に出来たのは、初段の6267の負荷抵抗を50%増加して負帰還量を増やした事、スクリーングリッドを定電圧化した事、各部の電圧を変えて歪が最小になる動作点を見つけた事、出力管のグリッドバイアス電圧が10V近く下がったことによるドライブ段の波形歪が低減した事等によります。
上記のグラフを見ると第二高調波が2.9mV、第三高調波が6.8mV、第四高調波が2.7mVになっていて、偶数次高調波が小さくなっていてプッシュプル動作はオリジナルより大きく改善されていることが判ります。奇数次高調波はプッシュプル動作では打ち消す事は出来なくて、6336Aのアイドリング電流を増やせば容易に低下出来るのですが、発熱量とのトレードオフの関係にあります。
更に電源電圧を30V下げて220Vにして、バイアス電圧も下げて無信号時のプレート電流を69mA、無信号時のプレート損失を1ユニット当たり約10W下げて15W程度の動作点で最大出力と歪率特性をシミュレーション解析して見ました。6336A1本分の発熱量は20W減少させる動作点です。
下記に示したグラフが1kHz 40W出力時の波形をフーリエ解析した時の結果です。歪率は先程の条件よりやや悪い0.14%でしたがLUXオリジナルよりも良い特性です。
1kHz 40W出力時の波形をフーリエ解析した時の結果
低周波20Hz 40W出力時の出力波形はMQ-80オリジナルでは位相歪が発生して、立ち上がり第一波が大きく歪んでおり、歪率は4.3%でした。MQ-80の回路変更案2では20Hz 40W出力時に位相歪は発生せずに、歪率は0.23%、DFは25.8でした。この条件ではアンプ全体で40Wも発熱量を減少出来て、歪率もオリジナルよりも良い特性が得られるのでかなりお勧めの条件です。
20Hz 40W出力時の波形(歪率0.23%)
MQ-80の回路変更案2の周波数特性と位相特性








