先にLUX KMQ-80のドライブ回路のシミュレーション解析を行って回路上の改善ポイントを検討しました。その時はMQ-80の出力トランスを含めたシミュレーションが出来なかったので、ドライブ回路のみをシミュレーション解析したのですが、今回出力トランスOY15-600Pのモデル設定がSIMetrix出来ましたので、MQ-80の全ての回路構成でシミュレーション解析を行ってみました。

 

但し、今回のトランスのモデルは以前に測定したOY15-600Pの一次巻き線のインダクタンスと抵抗値のみをベースにした簡易的なモデルなので、精度はあまり高くないと思っています。下記の図がシミュレーション解析をした回路図です。

 

出力トランスOY15-600Pのモデルはインダクタンスを測定出来るL/C/Rメーター:DE-5000 で測定した1次巻き線の 6336Aのプレート間で1.638H、カソード間でも1.638Hという結果と、その巻き線抵抗値の10Ωを基に設定したもので、漏洩インダクタンスや巻き線間の容量等は判らないので適当な値を設定してあります。その為高周波のシミュレーション解析結果は精度が低いのですが、1KHz近辺や低周波の特性は大丈夫と考えています。

 

シミュレーション解析に当たって、回路各部の電圧や6336Aのバイアス電圧等はLUXから公表されている資料やインターネットの色々な人の記事を参考に設定しています。

 

下記の図がMQ-80のオリジナル回路の周波数特性と位相特性のシミュレーション解析結果です。ゲインは26.3dBで周波数特性は10Hzから100kHzまでほぼフラットな特性になっています。より正確には9Hz~97kHz±1dBで、オープンゲインが47.9dBなので負帰還量は21.6dBになります。

 

            MQ-80の周波数特性と位相特性

 

負帰還を掛ける前の周波数特性を以下に示します。オープンゲインは47.9dBで、周波数特性は100Hzから20kHz位までフラットです。正確には124Hz~17.6kHz±1dBです。負帰還を掛ける前の低周波特性が100Hz近辺から低下してしまうのは低音の音質や歪率に大きく影響するものと考えられます。これはラックスの真空管アンプに共通の特性で、いわゆるラックストーンの原因の一つになっていると考えられます。OTLアンプのMQ36も同じ問題を抱えていました。

 

          負帰還を掛ける前のMQ-80の周波数特性と位相特性

 

位相特性も良く無くて、400Hz位から低周波に向かって大きく変化しています。アンプのゲインが0dBになる1.4Hzでは位相が‐140度になっており、1kHzの位相と比べて220度も位相が変化しており、負帰還時の位相余裕が取れていないことが判ります。

 

 

       MQ-80 1KHz 40W出力時の歪率のフーリエ解析結果

 

1KHz 40W出力時の波形の歪率は第2高調波から第5高調波までを積算すると、約0.18% になります。このフーリエ解析結果のグラフを見ると第二高調波と第三高調波の値がほぼ同じ位である事が判ります。この事から判るのはMQ-80のオリジナル回路はプッシュプル動作がやや不完全で、偶数高調波の打ち消しが不十分であるという事です。

 

先のドライブ回路のシミュレーション解析でMQ-80のオリジナル回路は負帰還を掛ける前の周波数特性と位相特性が良くない事を解析しました。それが今回の解析でどのような結果になるのかをシミュレーション解析した結果が20Hzでの波形歪です。

 

下記の図が8Ω負荷、20Hz 38W出力時のシミュレーション解析結果で、第一波の立ち上がり部分の波形が大きく歪んでいる事が判ります。通常のオシロスコープでは第一波の波形を見る事は出来ず、ストレージオシロを使用しないと見れません。第二波以降は歪んでいないので、通常は歪んでいる事に気が付かないと思われます。このような特性だと、低周波の信号がドンと入った時の最初の音が歪んでしまう事になるのです。これはMQ-80の低周波の時定数配列が良くない為に発生した欠点です。

 

 

          MQ-80 20Hz 40W出力時の波形

 

更に出力が増加して、20Hz 40W出力時の波形を良く見ると、第一波の波形が歪んでいるだけでなく、それ以降の波形も三角波のように歪んでいる事が判ります。これが低周波での時定数が小さい事によって発生した位相歪です。第三波までを拡大した図を下記に示します。

 

            MQ-80 20Hz 40W出力時の波形

 

MQ-80の40W出力時の歪率はシミュレーション解析結果では、20Hz で4.35%、50Hzで0.41%、1kHzで0.18%、10kHzで0.27%、20kHzで0.43%でした。

 

次回以降で、このMQ-80の回路をどのように変更すればより良い特性になるのかをシミュレーション解析して行きたいと思います。