LUXのMQ36は負荷抵抗を16Ω、あるいは32Ωに設定して設計されたアンプであり、8Ω負荷は想定していないアンプです。ところがオーディオの世界では半導体が主流になってしまったので、市販のスピーカーのインピーダンスで16Ωの物は全く無くなってしまいました。そこで、殆どのMQ36のユーザーは8Ωあるいはそれ以下のインピーダンスのスピーカーを使用しているものと推定されます。
LUXのMQ36を8Ωのスピーカー負荷で使用するには、アンプのどこをどのように変更したら良いのかについてSimetrixでシミュレーション解析して見ました。具体的方法としては、8Ωの負荷抵抗で20Hzのサイン波を18W位まで無歪(0.5%以下)で増幅出来る条件を探して見ました。
MQ36オリジナルの回路では8Ω負荷で20Hzのサイン波の無歪出力は8W位までしか出せません。それ以上の出力になると位相歪が増加して第一波目から歪が出始めて、出力を増加して行くと全体が三角波の様な波形になって行きます。但し、通常のオシロスコープで波形を観測すると、第一波の波形歪を見る事は出来ないので、全体が三角波になる13W位まで気が付かないと思われます。
20Hzの第一波が歪始めた波形(8Ω負荷 9W出力)
20Hzの全体が歪始めた波形(8Ω負荷 15W出力)
MQ36の低周波の位相歪の原因は6336Aのグリッド回路の微分型位相補正回路にある事が判っているので、まずこの回路の1MΩの4つの抵抗を1Ωにして8Ω負荷、20Hz、17.8W出力でシミュレーション解析して見ます。この時の波形が以下に示す波形です。
上記の波形を見ると、第一波が歪んでいますが、第ニ波以降は歪がほぼ無い状態です。第一波と第二波を拡大したものが以下の波形です。
また、この時の周波数特性を見ると、上記のように3Hz近辺に0.5dB程のピークが出来ている事が判ります。次に出力段の電解コンデンサ400μFの容量を増加させて見ます。2倍の800μFにしてみると、以下に示すように第一波の歪がほぼ無くなる事が判ります。この時の出力は17.8Wで歪率は0.37%でした。
周波数特性もピークが消えて、1.5Hz近辺までフラットな特性になっています。このままで良いかというと、スピーカー負荷はインピーダンスが変化するので、インピーダンスが4倍程度まで変化した時の安定性を確認しておく必要が有ります。そこでまず16Ω負荷時の周波数特性をシミュレーション解析して見ました。そうすると以下に示すように0.7Hz近辺に1.2dB程のピークが出来ています。
今度は16Ω負荷の条件で、このピークを無くすために更に検討を進めて行きます。今度は出力段の電解コンデンサ容量を2倍近い1500μFにして見ます。そうすると、以下に示すように周波数特性が低周波側に伸びて、ピークが半分くらいの0.63dBに減少しました。
更に各部のコンデンサ容量を変化させて、ピークが無いような定数を見つけ出して行きます。6CL6のグリッド回路のコンデンサ容量を4μFから倍の8.2 μFに増加させて見ます。
そうするとピークは更に低下し、0.37dBになりました。ここで負荷抵抗を4倍の32Ωにしてシミュレーション解析して見ます。そうすると、以下に示すように0.33Hz近辺に2dBものピークが出来ている事が判りました。スピーカのインピーダンスは4倍位に変化する事はあるので、このピークは0.5dB以下に減らす必要が有るのです。
次に出力段の電解コンデンサの容量を2200μFまで増加させてシミュレーション解析して見ると、ピークが1.37dBまで減少しました。更に6336Aのグリッド回路のコンデンサ0.047μFを除去するとピークは0.98dBまで減少しました。更に6336Aのグリッド回路のコンデンサ0.22μFを0.15μFまで減少するとピークは0.33dBまで減少しました。以上の最後の条件でのシミュレーション解析結果を同一のグラフで表すと以下のようになります。紫色のグラフが32Ω負荷、ベージュ色が16Ω負荷、緑が8Ω負荷時の周波数特性です。
これで8Ω負荷対応はほぼOKなのですが、音質を考慮すると、もう少し変更を加えた方が良いのです。というのも、今回の設計変更でオリジナルのMQ36よりも低周波特性が大きく伸びたので、このままだと低音と高音のバランスが崩れる可能性が有るのです。そこで、最終的には耳で聞きながら決めた方が良いのですが、負帰還回路の位相補正用コンデンサを200PFから100PF位に減少させて、高域特性を伸ばした方が良いと考えています。以下にその時のシミュレーション解析結果を示します。
8Ω負荷時の周波数特性と位相特性
以上の検討結果をまとめると、LUX MQ36を8Ω負荷対応に設計変更するには、以下の変更が必要になります。(1CH分の変更)
1.出力段の電解コンデンサを400μFX2を2200μFX2に変更する
2.6336Aのグリッド回路の0.047μFX4、0.22μFX4、1MΩX4を除去して
0.15μFX4に変更する
3.6CL6のグリッド回路のコンデンサを4μFから8.2μFに変更する
4.負帰還回路のコンデンサを200PFから100PFに変更する
以上の条件で、Simetrixのシミュレーション解析による周波数特性は8Ω負荷時で1.8Hz~350kHz±1dB、20Hz 18W出力時の歪率は0.46%でした。












