有り余る短編集の未完読を消化しようと手に掛けた。

 創元推理文庫の初期の世界推理短編傑作集の1巻目。編者は江戸川乱歩。昔はタイトルに推理が付いて居ない1960年版だ。他の各著者の短編集に収録されてる短編は入って居ない。本巻はポオ「盗まれた手紙」とドイル「赤毛組合」は入って居ない。その後の版で二作品は収録されてる様だが・・・。

 1話目は「月長石」のウィルキー・コリンズの短編「人を呪わば」だ。主任警部-部長刑事間の書簡と自惚れ屋で間抜けなシャーピン氏の捜査報告の形式で綴った盗難事件だ。的外れな捜査に間違った犯人追及がコメディで、最後は部長刑が尻拭いと意外な犯人摘発で終わるのだがシャーピン氏の不屈?の迷走ぶりが最後まで綴られ、その後のパロディやコメディの迷探偵たちのパイオニアになってる気がする。

 2話目はアントン・チェホフの「安全マッチ」。なんとあの「桜の園」「ワーニャ伯父さん」のチェホフが初期の頃に推理小説を書いて居たらしい。長編もあるそうだ。本作は領主の殺害事件を捜査するバタバタが綴られて居て面白い。

 3話目はアーサー・モリスンの「レントン館盗難事件」。密室風の盗難事件が綴られているが古典と云える手口のパイオニアだ。盗まれた宝石の傍に使われたマッチ棒が落ちてるのが肝だ。

 4話目はアンナ・カサリン・グリーン(最初の女流推理作家らしい)の「医師とその妻と時計」だが、高名で尊敬されてたハスブルック氏の射殺事件だが、捜査の間に隣家の盲目の名医が自分が犯人だと名乗り出てからの顛末の悲話が語られている。ズーンと来る悲話が物悲し過ぎる。

 5話目がパロネス・オルッイの隅の老人シリーズの一作「ダブリン事件」。貴族の遺産相続(遺言状偽造事件)事件を隅の老人が解き明かす。聞き手のポリイ・パァトンとのコンビも健在。

 6話目はジャック・フットレルの思考機械シリーズの一遍で古典的密室物の「十三号独房の問題」。「有栖川有栖の密室大図鑑」でも選ばれている。思考機械ことヴァン・ドゥーゼン博士が友人との掛けで難攻不落の刑務所から脱走出来ると豪語し、見事脱出するという話だ。

 7話目はロバート・バーの「放心家組合」。ユウゼーヌ・ヴァルモンが主役のシリーズの一作らしいが銀貨贋造団事件から詐欺グループの摘発に発展するのだが、犯人側が一枚上手と云う洒落たオチになっている。本篇は最新版で2巻目に移動となってるらしい。

 さて、本作、当時「十三号独房の問題」が読みたくて購入。当時創元でシャーロック・ホームズのライヴァルたちと称して様々な名探偵の短編集が刊行し出して居て「思考機械の事件簿」も購入して読んだのだが、この最高傑作が本作に所収されてる為、割愛されて居たのだ。確か隅の老人もシリーズに後に出た様に思うが、そちらは早川版で買った。そちらにも「ダブリン事件」は入って居ない。どちらも全作が収録されてるのでは無い傑作選ぽい。その後どっかの出版社で完全版が出てた様に思うが・・・。

 しかし、40年振りで完読したのには感慨深いものがある。惰性で2巻目に突入してるが、新装版だ。