『カンゾー先生』
1998年 日本
《スタッフ&キャスト》
監督・脚本 今村昌平
原作 坂口安吾
脚本 天願大介
撮影 小松原茂
音楽 山下洋輔/栗山和樹
出演 柄本明/麻生久美子/ジャック・ガンブラン/世良公則/唐十郎/松坂慶子/田口トモロヲ/金山一彦/山本晋也/北村有起哉/神山繁/裕木奈江/渡辺えり/伊武雅刀/小沢昭一/清水美沙
《解説》
人間は美しく、たくましきバクテリアなり、われは一介の町医者、走りに走りて生涯を終わらん
「うなぎ」の今村昌平監督が、瀬戸内の田舎町を舞台に、カンゾー先生と呼ばれた一人の医者と彼を取り巻く様々な人々との人生模様をアイロニカルに描いたドラマ
カンゾー先生こと赤城風雨役に柄本明、ヒロインのソノ子役に麻生久美子が体当たりしている他、フランスの名優ジャック・ガンブラン、個性派・演技派が集結
《物語》
1945年・昭和20年、第二次世界大戦の最中、岡山の海岸で淫売をしている万波ソノ子は走っている医者を見て、客の男に開業医の赤城風雨で往診するたびに肝臓炎と診断して周囲の住民にはカンゾー先生と呼ばれていると説明
彼は父の代からの家訓である「開業医は足だ、片足折れなば片足にて走らん、両足折れなば手にて走らん、疲れても走れ寝ても走れ走り走りて生涯を終らん」を胸に今日も病人たちの家を往診して回っている
病人たちはほとんど無償で診てくれるカンゾー先生に感謝している、そんなある日、ソノ子の父親が担ぎ込まれたが死亡、親類から幼い弟妹を養うために淫売をしていたソノ子
父親の死でカンゾー先生に看護婦として雇って欲しい、淫売をしないように監視役を押し付けられ、ソノ子は赤城医院で看護婦として働く事になった
岡山県医師会に呼び出されたカンゾー先生はブドウ糖注射を使い過ぎだと軍医からも勧告されるが彼は肝臓炎にはブドウ糖が欠かせないと怯む事はなかった
淫売を止めたソノ子だったが弟妹は腹を空かせて淫売を頼むと言い、幼なじみの母親からも戦地に行く息子を男にしてやってくれと頼み込まれて断り切れずに引き受ける
カンゾー先生は知り合いから譲り受けた顕微鏡を使って肝臓炎の病原体の研究を開始、更に満州で戦死した息子から肝臓炎に関する調査報告書が送られて来た事で彼の意欲は燃える
しかしソノ子が脱走兵のオランダ人のピートを匿ってしまい、おかしな研究はスパイ活動とみなされて当局へ連行されてしまう
《感想》
今村昌平が30年の間温めていた企画で、主人公のカンゾー先生には開業医だった今村昌平の父親が投影されていてその想いを込めて描いたそうです
当初は別の俳優にカンゾー先生も役を打診していたのですが叶わず、その次の役者も降板した為に、別の役で出演していた柄本明で撮り直しとなりました
今村昌平は当初の完成版は3時間越えだったのですが興行上の問題から東映の要望で今村昌平は1時間ほどカットしたそうです、今村昌平は3時間版の方が面白いと語っています
それにしてもカンゾー先生は相当走っています、これはなかなかしんどい撮影だったと思います、柄本明はそれなりの年齢だったけどさすがに役者魂ですね
それに勝るとも劣らない役者魂なのがソノ子役の麻生久美子でヌードも体当たりで演じています、戦時中は淫売なんて商売が普通にあったようですね、ソノ子の母親も女郎屋で働いていたので淫売の娘は淫売と陰口を叩かれるんです
麻生久美子が淫売をするシーンもありますがそこで走っているカンゾー先生を見掛けるんです、その後に父親を亡くして淫売を止める為に赤城医院で看護婦として働くんです
ソノ子は母親からタダはダメよ、タダは1人だけと言い聞かされてそれを忠実に守っているんです、なので淫売は彼女の中では愛もないし商売なんです
でも幼なじみの母親に戦地に行く息子を男にしてやってくれと頼まれて仕方なく引き受けて、母親から一人前の男になったと言われればソノ子は五人前はしたわと愚痴るんです、その後に御守りとしてアソコの毛を抜かれるんです
カンゾー先生は医師会での肝臓炎の重大さを発表すると拍手喝采を浴びてなお肝臓炎の研究に没頭するんです、ジャック・ガンブラン演じる脱走した捕虜のオランダ人を匿い、彼はカメラ屋で顕微鏡のレンズを調整してもらいます
強力な光を当てて顕微鏡を見るのですがその光が外に漏れてスパイ活動だと言われて当局に逮捕されてしまいます、協力していた世良公則演じる医師の鳥海も脱走兵のビートも、ビートはその後に獄中で拷問死してしまいます
鳥海はモルヒネ中毒で最後には正気を失って当局の薬品倉庫に押し入って銃撃戦となって射殺されてしまいます、そんな事もあって町医者が肝臓炎の研究なんて大それた事だと顕微鏡を捨ててしまいます
ソノ子の父親は漁師でクジラを仕留めた事があるらしくソノ子もクジラに挑んでカンゾー先生にクジラを食わせると挑むのですが逃げられます、その時にソノ子はタダでさせるのはカンゾー先生だと心に決めるのです
戦争中の医療や女性の立場や軍関係や捕虜などの描き方はまさにこんなだったのかと思わせる内容です、軍人と言えども好きな女には弱かったりね
開業医は足だ、片足折れなば片足にて走らん、両足折れなば手にて走らん それが『カンゾー先生』です。
如何なる理由があっても戦争は阻止しなければなりませんね、ガッツリ戦争映画ではありませんがね