小学生から、中学生になる頃には道を歩いていても幽霊さんも、悪魔も、不思議なものも殆ど見なくなっていた。大人になってゆく過程のホルモンの変化のせいで、大した事もない事で、傷つきそうな危うい自分の心と何時も戦っていた。誰もが経験する虹色の時間。学校の体育の授業中、ハードルを飛び越えられなくて、転倒した。左足首にひびが入り、当時の鉄道病院に担ぎ込まれた。ギブスの足は乙女の気持ちに重かった。ある日、不思議な夢を見た。私はアポロンと言います。お願いがあります。声だけしか聞こえないけれど、はっきりと普通に日本語で話している。病院の地下の自然に開く扉の部屋に入って、見て来てほしいものがあります。ナンバーが合わなくて困っています。その部屋に入って見てくれればわかるので、あなたにそれをお願いしたい。そう言われる夢を見たのです。次の日、病院へ行くと何とお医者様が、一年間学校を休んで入院したらどうか?完全に治さないとこの先運動が出来なくなる。一年、遅れて学校に又通えば良い。これは、ショックな話しだった。考えたいと答えて、その日の夜、又、アポロンと名乗る誰かが夢に出て来た。ここにゼウスも共に来ている。私の願いを聞いてくれないか?と、夢で言うのです。後日入院の意思の確認で医者と話した。地下に自然に扉が開く部屋はありますか?そう聞いて、アポロンのお願いの夢の話を医者に伝えた。お医者様は、アポロンと聞いて目を丸くしていた。私は、ギリシャ神話をまだ読んだ事が無くて、アポロンの神の事も、ゼウスの神の事も知らなかった。アポロンて悪魔???お医者様はそれは神の名前だよ。地下に自然に開く扉の部屋は有りますか?有ります。それは、死体置き場の部屋です。私にその部屋に行って、見てきてほしいとアポロンは言うんです。医者は、地下のその部屋を見ても良い。と、私に言った。入院して、いつでも見に行って良いと私に言った。鉄道病院は当時は国鉄の病院で、鉄道事故の死体が沢山あると、子供達の噂はすごかった。手が取れた人、足が無い人の幽霊が沢山いると、子供達は噂していた。私にはアポロンと名乗っている夢の中の人が悪魔に思えてしまった。アポロンは、私のお願いを聞いてくれたら、あなたを医者にしてあげましょう、と言った。私は特に医者になりたい訳ではなかった。夢見る、乙女の私には、本当に怖いお願いだった。迷い続けているうちに、入院はしなくても良くなった。あの時、すぐにお願いを引き受けていたら、どうなっていたんだろう?多分、勇気の無い私にアポロンの神は愛想をつかしたのかも知れない。見れば、天使も悪魔もやってくる目を持っていたなら、直ぐに引き受けて、凄いものを見れば良かった。