青山学院大が往路復路とも制して
 大会新記録で 2年ぶり7回目の総合優勝


 駅伝は走ってみなければわからない。
 駒澤大一強といわれ、事実、出雲、全日本を圧倒的な力でねじふせてきた実績、10000mの平均タイムでもダントツの駒澤……。誰が負けると予想しえたか。さらに出雲5位、全日本2位の青山学院大の大会新というおまけつきの制覇を、いったい誰が予想しえただろうか。
 さらに3位の城西大、4位の東洋大を誰が予想しえたか。
 まだある
 候補の一角といわれながら13位であえなくシード権さえ失った中央大の惨敗を誰が予想しえただろうか。
 だが、青山学院大の箱根制覇は陣営としては、それほど荒唐無稽な出来事だとは思っていなかったのではあるまいか。今シーズンは駒澤大一強という雰囲気のなかで、当初から箱根に目標をしぼって策を練ってきたのではないかと、そう思えるフシがある。
 そういえば青山学院大は出雲から駒澤大に果敢に攻めかけていた。出雲では野村昭夢が全日本では若林宏樹が1区で、自分の力以上の飛び出しで駒澤大を煽り、本大会でも1区の荒巻朋熙が果敢に飛び出して駒澤大に喧嘩を売っている。
 玉砕覚悟の飛び出しだが、それは今シーズンの青山学院大もメンバー全員の闘う姿勢の顕著な現れだったのだろう。そういう同じ方向を凝視しているメンバーの思いがひとつになって、結果に結びついた。そのように思うのだかいかがなものだろう。
 箱根駅伝は数ある駅伝レースのなかでも、まったく別物ではないか。箱根駅伝、それは数ある駅伝レースのなかのひとつではなくて、箱根駅伝というジャンルが別にあるのだ。今回のレースをみていて、いろんな意味で、そのことを再確認した。

◇往路
 駒澤大は往路で後続に圧倒的な差をつけて、他校にあきらめさせてしまうもくろみだったのだろう。1区に当日変更で篠原倖太朗を4区には山川拓馬を配してきた。篠原、鈴木芽吹、佐藤圭汰、山川……。エース級を4枚もならべてきたのである。
 事実、篠原で予定通りにトップに立ち、2区の鈴木をへて3区の佐藤にタスキが渡ったとき、2位の青山学院との差は22秒だったが、誰しも勝負はすでに決したと思っただろう。佐藤圭汰……。日本の学生長距離界の名実ともにスーパースターである。その佐藤が1000mの持ちタイムで1分近くも差のあるランナーに、まるでこどものようにあしらわれたのである。あの佐藤が……。そのとき青山陣営に駆け抜けた衝撃による心理的な影響が、きっと以降のランナーの体を固くしてしまったのだろう。
 故意か偶然か判別不能の青山陣営の戦略に、まんまとはまった駒澤大は、かくしてあえなく往路で後塵を拝したのである。だがその差はまだ2分30秒ほど、まだまだ息の根をとめられたわけでもなかったのである。

第1区(21.3km)
 スタートして500mあたりで駿河台大のレマイヤンが前に出てきてひっぱるかっこうになった。1kmの通過は2:47である。後ろには中央大の溜池一太、順天堂大の三浦龍司らがつけている。
 2km手前になってレイマンが集団からややとびだすと、溜池が背後についた、後ろには駒澤大の篠原倖太朗、青山学院大の荒巻朋熙がつけた。2,7kmになるとレイマンが集団から抜け出した。3kmの通過は8:25である。2位集団を引っ張るのは溜池、篠原……。
 3.4kmになると、トップはレイマン、2位集団から篠原、荒巻、國學院大の伊地知が抜け出してきて、レイマンを追い始める。4チームが後続を引き離すかっこうになった。ここで溜池は遅れていった。
 5km通過は14:00、区間記録より15秒ほど速い。駿河台大、駒大、青学大、国学院大の4校がトップ集団を形成、後ろとの差は10~11秒で、溜池、三浦が集団をひっぱっている。
 7kmになると先頭集団はトップから駿河台大、駒澤大、国学院大、青山学院大の4校。2位大集団との差は約130mほどにひらいた。
 先頭集団の駆け引きがはじまったのは7,3kmあたりだった。レイマンが蛇行して後ろについていた3人をなんとか前に出そうするが、誰も前には出ていかない。レーマンの蛇行やペースの上げ下げなどでペースを乱されたのか、8.6付近で伊地知と荒巻が遅れはじめ、ここでトップはレイマンと篠原になった。
 10kmをすぎて、中央大の溜池、立教大の林虎大朗、日体大の平島龍斗がはやくも2位集団からもこぼれていった。トップはレイマンと篠原が並走している。
 14kmすぎになると3位グループで並走していた青学・荒巻が國學院の伊地知をひきはなして単独3位、トップ並走のレイマンと篠原は15kmを42:40で通過した。
 15kmすぎの蒲田では、3位の青学・荒巻は先頭から15秒遅れ。中央大の溜池は20位争いとおおきく遅れてしまった。。
 後ろでは16.8kmで伊地知が4位集団に吸収されてしまう。
 トップ集団に変動があったのは17.7kmあたり、六郷橋で篠原が前に出てレイマンを引き離しにかかる。3位の荒巻は18.1kmあたりで4位集団に吸収されてしまうが、ここで踏みとどまった。10チームぐらいになった集団のなかで、大東文化大の西川千青が転倒するアクシデントが発生。
 19kmでは篠原がトップを快走、2位のレマイヤンとの差は50mほどになった。篠原は軽快なペースでもはや独走状態となった。後続の動きもめまぐるしくなり、20km手前になって、3位集団は日大の西村、東海大の兵藤ジュダ、創価大の桑田大輔、城西大の野村颯斗で、20.5kmではレイマンをとらえて抜き去った。
 篠原はそのまま中継所にとびこみ、1時間1分02秒で区間賞。2位は創価大で23秒差、3位は城西大で25秒差、4位は日本大で26秒差、5位は東海大で33秒差、6位は駿河台大で33秒差、7位は帝京大で35秒差、8位は明治大で36秒差、9位は青山学院大で36秒差、10位は順天堂大で36秒差とつづいた。候補の一角・中央大は1分19秒遅れの19位、國學院大も1分33秒遅れの17位と大きくすまづいてしまった。

第2区(23.1km)
 1区では順調にすべりだした駒澤大とは対照的に中央大と國學院大はおおきく遅れをとってしまった。2区の出来次第では圏内にふみとどまるかどうかの崖っぷちといえた。青山学院大は9位とはいえ38秒遅れで、わずかに圏内にふみとどまっており、2区の攻防が優勝う争いの行方を左右しそうだった。
 トップの駒澤大・鈴木芽吹は独走でわが道をゆく。
 後ろから追い上げ急なのは青山学院大の黒田朝日であった。出雲駅伝2区で区間賞、全日本2区で区間2位と勢いに乗っている期待のランナーである。
 5kmはトップ独走の駒大・鈴木が14:07秒で通過した。黒田は5.5kmで5位集団に追いついた。早稲田の 山口智規、法政大の松永伶も5位集団に追いつき10チームほどが団子状態になる。
 8.3kmの横浜ではトップの駒澤と2位の創価大の差は30秒、3位の城西との差は53秒、大集団はその後ろにいた。鈴木は10kmを28分09秒で通過、給水では笑みがこぼれ、余裕のある表情である。
 10.6kmになると黒田のひっぱる5位集団が、4位の城西大の斎藤将也をのみこんで7人になった。黒田はひたすら前をみつめて軽快なピッチで追い上げてゆく。
 中央大の吉居大和ははるか後ろ、12kmでは明治大をぬいてやっと17位というありさま。 13kmあたりになって、2位を並走していた創価大のムチーニと日本大のキップケメイ、ここでムチーニがキップケメイを置いていった。
 そのキップケメイを14kmすぎで黒田がとらえて、これで青山学院大は3位までやってきた。城西大の斎藤もつづいている、15km過ぎになると、さらに東京農大の並木寧音と早稲田大の山口智規がキップケメイととらえてしまう。
 15.3kmの権田坂ではトップ駒大と2位の創価大の差は43秒、3位の青学大は1分05秒差だが、ここから黒田はペースアップして追撃を開始した。後ろは城西、そのうしろは早稲田大、東京農大、日本大が競っていた。さらに後ろは帝京大、東海大、法政大、大東文化大、國學院大とつづいていた。
 後続では國學院大の平林清澄が快走、順位をあげてくる。17.8kmでは法政大をぬいて6人抜き、18kmでは大東文化大をとらえて7人抜きで10位まで浮上してくる。
 青山学院大の黒田はその後も好調、一時は開きかげんだった駒澤大・鈴木との差をどんどんつめてくる。20.5kmでは創価大のムチーニをとらえて2位まで浮上してきた。 鈴木との差もさらに詰まった。
 駒澤大の鈴木は追われながらも1時間6分20秒という好記録で首位を守った。だが青学・黒田は1時間6分07秒とそれを上回って区間賞、その差を22秒まで詰めた。
 かくして2区を終わって3位は創価大で46秒差、4位は早稲田で1分02秒差、5位は城西大で1分19秒差、6位は東京農大で1分26秒差、7位は東洋大で1分31秒差、8位は日大で1分36秒差、9位は國學院大で1分39秒差、10位は東海大で1分48秒差。中央大は吉居大和をもってしても浮上できず3分11秒差の17位と完全に圏外に去った。

第3区(21.4km)
 2区を終わって22秒差と2位にやってきた青山学院大との差は詰まったというもの、駒澤大の佐藤圭太にタスキが渡ったとき、もう勝負は決着した。駒澤陣営はもとより周囲のだれもがそのように思っただろう。観戦者としてわれらもそのように判断した。
 ところが、駅伝はやはり走ってみなければわからない。
 佐藤圭太の1kmは2:44、3kmは8:19……。
 だが追ってくる青山学院大の太田蒼生も1km=2:44の入りで追ってきた。5kmは佐藤が14:00.追う太田は13:51でその差は10秒あまりに詰まってきたのである。太田はみるみる佐藤に肉薄し7km手前ではその差が5秒ほどになり、テレビ画面でもうしろからやってくる太田の姿がくっきりとみえたきた。
 太田は力強い足どりで前を追い、とうとう7.6kmで佐藤の後ろにピタと張り付いてしまった。かくして駒澤大と青山学院大との息詰まるようなせめぎあいがはじまったのである。
 後ろでは9km手前になって國學院大の青木瑠郁が創価大の 山森龍暁、城西大のキムタイとらえて3位まで押し上げてきた。
 トップ争いは膠着状態がつづいた。佐藤に追いついた太田は、すぐには前に出ないで、ここで一休みしながら、チャンスをうががっていたのか。ふたりの面相をみていると、追ってきた太田は余裕がありそうだが、佐藤はおどろき顔でどこか緊張感がただよっていた。佐藤と太田がそろって浜須賀をトップ通過、海岸通りに出た。
 先に動いたのは太田のほうだった。13.9kmになってそれまで背後につけていた太田が前に出た。その差は5メートルほどになった。だが、佐藤も意地をみせて離されまいとくらいついて、14.7kmでは太田に追いつき、ひとたびは前に出る勢いを見せた。
 茅ヶ崎では後ろと大差がついている。城西大とは2:25、その後ろの東洋大、早稲田大、國學院大とは2:46、そのうしろは3分以上遅れて創価大がつづいていた。
 太田と佐藤にたたき合いはまさに意地の張り合い、だが16kmあたりから、太田がチラチラと佐藤のようすをうかがいはじめ、16.6kmになって太田がふたたび前に出る。その差は5mとひらいた。佐藤もけんめいに追ってゆくが、その差は詰まらなくなった。そして18km、太田はサングラスをはずしてロングスパート、佐藤を引き離して、そのまま中継所に駆け込んでいった。区間賞の太田は59分47秒、日本選手として初めて1時間を切った。
 かくしてトップは青山学院大、2位は駒澤大で4秒差、3位は國學院大で2分39秒差、4位は日本大学で3分24秒差、5位は東洋大学で3分25秒差、6位は国士館大で3分26秒差、7位は早稲田大で3分32秒差、8位は創価大で4分56秒差、9位は帝京大で5分11秒差、10i位は東海大で5分38秒差となった。

第4区(20.9km)
 3区の途中からパラつき始めた雨は4区にはいって本降りなり始めた。気温も急激にさがりはじめた雨のなか、トップに立った青山学院大の佐藤一世がひた走る。追う駒澤大は前回5区で区間4位、先の全日本8区では区間賞の山川拓馬だが、佐藤の軽快な走りとは裏腹にピッチがあがらない。佐藤は1km=2:41で入り、わずか4秒でしかなかった駒澤との差をみるみるひろげていった。
 9.1kmの二宮では2位の駒澤大との差は41秒、3位の城西大徒は3分31秒、4位集団の東洋大・國學院大とは3分31秒、6位の早稲田とは4分20秒……、後ろは日大、創価大、……。
 15,2kmの酒匂橋では青学と駒澤との差はさらにひらいて1分02秒、開く一方になった。
 佐藤はその後も快走、最後は表情がきびしくなったが、冷たい雨をものともせずトップで小田原中継所にとびこんだ。1時間01分10秒。堂々の区間賞である。
 走り終えた佐藤が、仲間にかけられながら「ああ、よかった」と、なんとも感極まったようにつぶやいているのが、レース中にかれを支配していた心中をものがたっていた。
 4区をおわってトップは青山学院大、2位は駒澤大で1分27秒差、3位は城西大で3分35秒差、4位は東洋大で3分52秒差、5位は國學院大で4分15秒差、6位は早稲田大で5分12秒差。7位は帝京大で6分38秒差、8位は創価大で6分49秒差、9位は東海大で7分32秒差、10位は法政大で7分50秒差……。

第5区(20.8km)
 5区の山登り、標高差840mを駆け上がる。強い雨が降りしいるなか、気温の上下差も激しい。トップを行く青山学院大の若林宏樹も黒い長袖のアームウオーマーをつけ、黒い帽子をかぶっている。
 3.5kmの函嶺洞門、若林と追う駒澤大の金子伊吹との差は1分22秒、5秒ほどつまっている。金子は追っているが上りはこれからが本番……。7.1kmの大平台では1分33秒と,その差が開きかげんになってきた。山の妖精と異名をとる城西大の山本唯翔が3分23秒差と近澤との差をつめてきている。
 しかし7.1kmの大平台では山本と金子の差はふたたびひらきかげんになり1分33秒、前回区間新記録をたたきだした城西大の山本唯は3分23秒差の3位につけていた。
 9.3kmの宮ノ下では若林と金子の差はさらに開いて1分46秒。3位の城西大・山本唯は3分16秒差まで縮めてきていた。
 さらに11.9kmの小涌園になると若林と金子の差はさらにひらてしまい1分53秒になってしまう。城西の山本唯はちょうと3:00差までつめてきた。うしろは4位東洋大、5位早大、6位国学院大、7位は創価大とつづいていた。
 16kmの芦之湯にやってくると雨があがった。トップの若林は快調、金子のとの差をさらにひろげて2分09秒とし、往路優勝がみえてきた。3位の山本唯も好調、駒澤との差を50秒につめ、2位を射程圏内におさめた。
 若林はそのまま押し切って芦ノ湖のゴールにとびこんでいった。若林宏樹の1時間09分32秒は区間新記録。3位でゴールの城西大の山本唯翔も自身の区間記録を50秒も更新する1時間09分14秒の区間新をマークした。
 4位以下は、東洋大、早稲田大、国学院大、創価大とつづき5区で14位から大きく順位を上げてきた大東文化大が8位にとびこんだ。1区で出遅れた中央大は13位におわった。 なおトップとのタイム差10分以内につけたのは7位の創価大までで、復路のスタートは8位以下の16チームが一斉スタートとなった。

◇復路
第6区(20.8km)
 往路は山下りの6区の攻防がひとつのポイントだった。
 この区間で追う駒澤大と逃げる青山学院大とのタイム差がどうなるか。一気に詰まるようなら駒澤大に逆転の目がある。離れるようなら青学が一気にそのまま逃げ切る可能性が大きくなる。駒澤にとってはまさに正念場、ここで離されるわけにはいかないのである。
 午前8時、往路1位の相山学院大の野村昭夢がスタート。2分38秒遅れて駒大の帰山侑大。以下城西大、東洋大、早大、国学院大、創価大の順で時差スタート。往路でトップから10分以上遅れた8位大東大以下の16校は8時10分に一斉スタートした。
 野村は軽快な走りで上ってゆく。1kmは2;46、2kmが5:55、4kmは13分33秒、5kmは16分30秒である。
 5.1kmの芦之湯で、野村と帰山の差は2分52秒とひらいている。3位の城西大は3分34秒遅れで以下は7分以上遅れて東洋大、早稲田大とつづいていた。
 青山の野村は快調、9.0kmの小涌園前を軽快に駆け抜けてゆく。駒澤・帰山との差をさらにひろげて3分18秒にしてしまった。駒澤を追う城西大の久保出雄太は37秒差の3位で通過。後ろでは國學院大の後村光星が早稲田大の栁本匡哉をぬいて5位あがってきた。
 野村はその後も順調で13.7kmの大平台のヘアピンカーブを軽快に駆け抜けてゆく。帰山との差はさらい開いて3分38秒、復路も流れは青山学院大にかたみきつつあった。その差はどどんとひろがる一方で16.9kmの函嶺洞門では3分45秒になってしまう。
 18.1kmの声かけタイム、運営管理車の原監督から、「兄貴に負けるな!」と、その声は明るく弾んでいた。(兄はかつて東洋大のキャプテンで、この区間で区間賞をとっている。)
 野村は駒澤との差を大きくひろげて小田原中継所へ。2位駒大との差は4分17秒差にひろがった。駒大から41秒遅れて3位には城西大がやってきた。4位は東洋大で7分50秒遅れ、5位は創価大で9分56秒差、6位は國學院大で10分17秒差、7位は法政大で10分38秒差、8位は早稲田大で10分40秒差、9位は大東文化大で10分51秒差、10位は中央大学で12分45秒差。区間賞は7位まで順位をあげた法政大の武田和馬、法政大としては77年ぶりの6区区間賞となった。

第7区(21.3km)
 4分17秒ものアドバンテージをもらってスタートした青山学院大の山内健登はゆつくりした入りでトップをゆく。とても箱根駅伝を初めて走るランナーとは思えない落ち着きぶりである。追う駒澤大は安原太陽、奇しくも4年生対決となった。はるか後方にいて、ようやくシード圏内に顔を出してきた中央大、吉居駿恭がどのような走りをるかが注目だった。
 11.8kmの二ノ宮ではトップの青学・山内と駒澤・安原との差は4:11、わずかに6秒だが安原が詰めてきた。3位は城西大で5分06秒差、4位は東洋大で8分51秒差、以下は5位創価大、6位国学院大、7位に大東大が浮上してきた。8位法大、9位早大、10位に吉居の中大。19秒差で11位に帝京大がつけていた。このあたりはシード権をめぐって微妙なところであった。
 15.2kmの給水ポイント、力走する吉居駿恭にペットボトルをもって走り寄るのは前日、2区を走った兄の吉居大和、笑顔で何事か語りかける兄にうなずく弟……。
 駒澤大の追撃が始まるかと思いきや、18.4kmの大磯では4分33秒、ふたたびその差がひっがった。いよいよ青山学院大の流れになってゆく。
 山内は途中、苦し気な表情もみせたが、原監督の声かけにも笑顔でうけとめる余裕、初出場だが4年生らしい堅実な走りでトップをまもった。
 7区を終わって首位は青山学院大、2位は駒澤大で4分33秒差、3位は城西大で5分36秒遅れ、4位は東洋大で10分07秒遅れ、5位は創価大で10分52秒遅れ、6位は國學院大で11分00秒遅れ、7位は大東文化大で11分32秒遅れ、8位は法政大で11分36秒遅れ、9位は早稲田大で12分24秒遅れ、10位は中央大で12分26秒遅れ。区間賞は中央大の吉居駿恭であった。

第8区(21.4km)
 トップをゆく青山学院大のランナーは2年生の塩出翔太、2区で区間賞の同期生・黒田朝日に負けまいとハイピッチで突っ込んでゆく。6.9kmの茅ヶ崎では、追ってくる駒澤大の赤星雄斗との差を8秒ひろげ4分52秒とした。区間記録よりも10秒速いペースである。
 塩出のペースはその後もゆるがず、13kmでは区間記録を23秒も上回っていた。
 15.9km、塩出はなおも快走、区間新のペースで遊行寺の坂を駆け上がっていった。駒澤との差は5分21秒までひろがった。
 快走する塩出を中継所で待つのは同じ世羅出身の先輩・倉本玄太である。笑顔で「塩出すげえ」と叫んでいる。塩出は区間新記録こそ逃したが1時間04分(区間賞)の好タイムでタスキリレー。2位駒大との差を5分33秒までひろげた。3位は城西大、4位は東洋大、5位は國學院大、6位は法政大、7位は創価大、8位は早稲田大、9位には帝京大があがってきて、10位は東海大……10位の東海大と11位の大東文化大とはわずか09秒、シード権争いが熾烈になってきた。いづれも往路を同時出発しているので、その差が眼にはみえない。みえない相手とシード権争いをしていた。なおシード圏内にいた中央大は12位に落ちてしまった。

第9区(23.1km)
 トップをゆく青山学院大は倉本玄太、4年生が距離の長いこの区間をまかされた。駒澤大との差はひろがる一方という流れのなかで、倉本は落ち着いて走り出した。後輩の快走もかれの背中を押したことだろう。
 7.8kmの権太坂では後ろとの差は5分56秒にひらいた。駒澤大のこの区間は花尾恭輔だが追い切れていない。
 14.7km、横浜駅前の給水ポイント、首位をゆく倉本はキャプテンの志貴からペットボトルを受けとり、4年生同士、何やらことばを交わして穏やかな表情で一息入れる。後ろとはさらに差が開いて6:33秒である。3位は城西大、4位に東洋大、5位は國學院大、6位は法大、7位は創価大、8位は早大、9位は帝京大、10位は東海大、11位につけるのは大東文化大。10位の東海大との差はわずか8秒で、シード権をめぐってさらに戦いはたげしくなる。
 青山学院大の倉本が2年ぶり総合優勝を確かなものにしてアンカーの宇田川へトップでタスキリレー。2位駒澤大との差は6分22秒。3位城西大。4位は東洋大、5位は國學院大、6位は法政大、7位は早稲田大、8位は創価大、9位は帝京大、10位は東海大だが4秒差で11位に大東大がつけており、シード権争いは10区にもちこされた。区間賞は青山学院大の倉本玄太。なおこの区で中央学院大、駿河台大、順大、山梨学院大はタスキがつながらず、繰り上げスタートとなった。、

第10区(23.0km)
 青山学院大のアンカーは宇田川瞬矢、その差6分30秒ものアドバンテージ、距離にして2km以上も引き離している。もう、後ろからは誰もやってこない。あとはたんたんとタスキをゴールまで運んでゆくだけけである。
 宇田川は落ち着いたペースで後ろとの差をさらにひろげてゆく、5.9kmの蒲田では6分54秒……。駒澤大の庭瀬俊輝も懸命に追っているが、その差はさらにひろがってゆく。
 13.5kmの新八ツ山橋では7分07秒となってしまった。宇田川は青学が2年前にマークした大会記録を更新するペースでゆく。うしろのシード権争いは、ほぼ決着がつき、大東文化大大が東海大を逆転して10位浮上。26秒の差をつけた。
 かくして青山学院大の宇田川は後続をぶっちぎってゴール、そのままタオルをひろげて迎えに出ている仲間のところに体をなげこんでいった。
 青山学院大は往路も制覇、10時間41分25秒の大会新記録で2年ぶり7度目の総合優勝を果たした。なお10区の区間賞は東洋大の 岸本遼太郎で1時間08分51秒だった。
 2位には6分35秒遅れで駒澤大。城西大は大学史上最高の3位。4位は東洋大、5位は国学院大と続いた。激しく競り合っていたシード権争いは、大東文化大がそのまま逃げ切った。

 優勝した青山学院大は往路も復路も制して2年ぶり7度目の総合優勝。10時間41分25秒は大会新記録(往路の5時間18分13秒も往路新記録)である。駒澤一強といわれ、出雲3位、全日本5位から、みごと箱根を制した。
 3区でトップに立って3区連続で区間賞、復路も2つの区間賞を獲得して、終わってみれば圧勝だった。出雲、全日本では成功しなかったが、1区から果敢に攻めてゆくという姿勢、駒澤大に真正面から勝負をしかけてゆくというチームの姿勢が、最後の箱根で実を結んだといえるだろう。何よりもチームがひとつになっていたのが勝因だろう。とくに往路の闘い、2区の黒田、3区の太田、4区の佐藤の闘志あふれる走りは圧巻だった。
 2位の駒澤大も出来が悪かったというわけではない。とくにブレーキがあったわけでもなく、各ランナーはそれぞれの力を発揮している。往路は青学とともに新記録をマークしているのである。しかし今回に関していえば、青山学院大の出来が上回っていた。勝負のながれ、勝ちパターンに乗れなかったということだろう。
 3位の城西大は史上最高順位である。5区の山本唯翔の爆走はあったものの、往路のランナーたちはみんな大健闘である。さすがに復路はへばったが、よく粘って3位を死守したのはみごとである。
 4位の東洋大も全日本10位からの飛躍である。往路4位、復路3位と安定した力を発揮した。このチームはもともと長い距離になると力を発揮する。そういう東洋の伝統復活を印象づけるレースだった。
 以下5位・國學院大、6位・法政大学、7位・早稲田大学、8位・創価大学、9位・帝京大学。10位・大東文化大学、ここまでがシード権を獲得した。
 前回シード組では中央大と順天堂大が陥落、帝京大と大東文化大が復帰した。
 なかでも中央大は候補の一角といわれていただけに意外だった。のちに知るところではメンバーの大半が12月なかばにインフルエンザに感染したという。まともに走れる状態ではなかったということになる。つまりレース以前の段階で負けていたのである。

 箱根駅伝というのはごまかしがきかない。個々の選手の実力だけの戦いでははない。日常のトレーニングはもとより、レースに至るまでのフィジカル、メンタル面の調整力が問われる。チームとしてのモーティベーションをいかに高めるか。それらをふくめ駅伝力を形成するサムシングもポイントになるだろう。
 とくに近年、個々のランナーの力が均質化するなかで、選手個人のマネージメント能力、そしてチーム全体としてのマネージメント能力が問われるようになったように思える。

◇ 日時 2024年1月2(火)~3日(水) :午前8時00分 スタート
◇ コース: 東京・読売新聞東京本社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(108.0Km)、復路5区間(109.9Km)の合計10区間(217.9km)
◇天気:往路 くもり 気温:05.0℃ 湿度: 風:
      :復路 晴れ 気温:04.0℃ 湿度:  風:
◇◇青山学院大(荒巻朋熙、黒田朝日、太田蒼生、佐藤一世、若林宏樹、野村昭夢、山内健登、塩出翔太、倉本玄太、宇田川瞬矢)
公式サイト:
総合成績