トヨタ自動車が8年ぶり4度目の制覇!
    新旧の実力者で盤石布陣

 

「これでは世界で戦えない」
 MGC終了後、瀬古利彦がたまいきまじりにもらした一言である。
 レジェンド瀬古の真意はどこにあるのか?
 おそらくパリオリンピックに夢を抱かせる新鋭が出てこなかったせいだろうと思う。タイムも平凡で日本マラソンの現状を突き抜けるような、かっての瀬古利彦のような伸びしろのあるランナーを見つけることはできなかった。そういう不満というか、物足りなさが伏線いなって、思わず口をついて出たのだろうと思う。
 年改まってオリンピックイヤー、日本の長距離の将来を担う気鋭のランナーが現れるかどうか。さしあたって、そんなところが見どころになりそうな大会だった。
 3連覇をめざすHonda、そのHondaを東日本実業団駅伝で破った富士通、さらに戦力充実のトヨタ自動車、このあたりの争いとなるだろうというのが大方の観るところだった。ルーキーの田澤簾は3区に登場するが、実業団の猛者相手にどこまでやれるか。そんなところにも興味があった。
 さて……
 レースのほうは2区でトップに立ったトヨタ自動車がすっかり流れにのってしまった。東日本予選を制した富士通が1区で早くも脱落してしまったせいもあって、対抗馬はHondaのみになってしまったのもトヨタには幸いしただろう。そのHondaも前半こそは拮抗していたが、後半になって息切れがしてしまった。かくしてトヨタ自動車のひとり旅位になってしまったのである。

第1区(12.3km)
 レースは強い追い風のなかでのスタートとなった。
 大塚製薬の清水颯大がとびだして後続を引き離すという展開で幕あけた。1kmの通過が2:53、2kmが5:42……。後ろには住友電工の吉田圭太、Hondaの小袖英人らがつづいていた。
 3km=8:31、清水と2位集団との差は15秒、小袖、埼玉医科大グループの川田啓仁、浅井化成の注目の新人・長嶋幸宝らがつづいていた。清水は5kmも14:30で区間新ペースである。後ろとの差は18秒までにひろがった。
 その差が詰まり始めたのは8kmあたりから。そんななかで10kmの手前で長嶋幸宝が集団のなかで転倒するというアクシデント、すぐに立ち上がったが集団からは置いて行かれた。
 後続の追い上げは急となった10kmでは、やっと小袖を先頭とする2位集団が清水をとらえ、ここでYKKの森山真伍がトップに立った。小袖、コニカミノルタの砂岡拓磨らがつづいたが、富士通の坂東悠汰が勝負どころのここで、ずるずると後退していった。
 11kmでは森山を先頭に小袖、トヨタ自動車の大石、ヤクルトの太田直希、NTT西日本野服部弾馬ら10チームぐらいが競り合う展開になった、
 11.7kmで小袖が前に出るも、のこり400mで太田と弾馬がマッチアップ、最後は太田がラストスパートで振り切った。
 1区を終わって、トップはヤクルト、2位は2秒遅れでNTT西日本、3位はコニカミノルタで3秒差、4位はトヨタ自動車で4秒差、5位はHondaで4秒差、6位はトヨタ自動車九州で6秒差、7位はYKKで11秒差、8位はKaoで12秒差、9位は三菱重工で15秒差、10位はトヨタ紡織で21秒差となっていた。優勝候補の一角、富士通は37秒差の25位と出遅れた。区間賞はヤクルトの太田直希である。

第2区(21.9km)
 今回から区間距離の変更で最長距離区間となった第2区、各チームともにエースを投入してきた。かくして花の2区となった。
 すぐにトップに立ったのはトヨタ自動車の太田智樹、1区で区間賞をとった太田直希の兄である。日本選手権緒10000mで2位ながら日本新記録の快走、好調をみこまえての器用だろうと思われた。昨年は3区に登場、18人抜きの快走で区間賞を獲得している。
 先頭は太田智樹、そして1.6kmでKaoの池田耀平が追ってきた。Hondaの中山顕も差なくつづいていた。
 5kmでは太田と池田がほとんど並走、中山が少し離れてついていく。そのうしろには6チームぐらいがつづいていた、1区で38位と出遅れた九電工はパリ五輪マラソン代表の赤崎暁、一気に34位に順位を上げてくる。
 10kmではトップは太田、Kao・池田耀平がつづき、3位に中山、少し離れて4位は旭化成の大六野英敏、5位にはトーエネックの難波天、6位にはYKKの細森大輔、7位にはNTT西日本の一色恭志、8位にはトヨタ自動車九州の横田玖磨らがつづいていた。
 うしろでは安川電機の古賀淳紫が20人抜きで15位へ。ほかにも中国電力の菊地駿弥が24人抜きで7位まで順位をあげてくる。そのほかSGホールディングスの近藤幸太郎は17人抜き、富士通の浦野雄平は10人抜き、黒崎播磨の細谷恭平は17人抜きと、それぞれ出遅れを挽回しようとしていた。。
 トヨタの太田はその後も快走で先頭をキープ、19kmでは2位のKaoに20秒差、3位Hondaには32秒差とその差をひろげた。太田はそのまま中継所にとびこんで田澤簾にたすきをつないだ。太田智樹は区間賞、兄弟で1区2区の区間賞である。
 2区を終わってトップはトヨタ自動車、2位はKaoで34秒差、3位はHondaで42秒差、4位は旭化成で1分15秒差、5位はSGホールディングスで1分15秒差、6位はGMOで1分25秒差、7位は中国電力で1分27秒差、8位は三菱重工で1分37秒差、9位は黒崎播磨で1分39秒差、10位はトーエネックで1分42秒差であった。なお富士通は2分13秒差の15位であった。 ちなみにかって日本長距離のトップスターだった設楽悠太は現在、啓太とともに西鉄にいる。悠太は2区に登場、区間38位に終わったが、3区には啓太が配置され、兄弟のタスキりリレーが実現した。勝負とは超越したところで、笑顔で手すきを受け渡しするふたりの姿に心がなごんだ。

第3区(15.4km)
 ニューイヤー駅伝デビューのトヨタ自動車・田澤簾がゆうゆうトップをひた走る。1km=2:45、3km=8:06である。さらに5kmは13:38……。追い風にのってハイペースで快走する。うしろからは富士通の塩尻和也がやってくるはずだが、はるか後方でその姿さえみえない。
 旭化成の相澤晃が7kmでHondaの伊藤達彦に追いついて並走、箱根駅伝でのライバル対決が実現して、ワクワクさせてくれる。たがいに競い合いながら3位を並走、トップを追ってゆく。
 10km通過は27:35。田澤のトップは変わることなく、2位はKaoの長谷川柊、3位は伊藤と相澤。後方ではNTT西日本の小林歩が、田澤を上回る27:17というハイペースで前を追っている。
 13kmになって相澤、伊藤の3位グループが2位の長谷川に肉薄する。2位争いが熾烈になった行くなかで、14.3kmで伊藤が相澤を置いて行った。後ろの順位争いを尻目に、田澤はゆうゆう後続を引き離して逃げ切った。
 トップはトヨタ自動車、2位にはHondaがやってきて58秒差、3位はKaoで1分01秒差、4位は旭化成で1分06秒差、5位は黒崎播磨で1分32秒差、6位はSGホールディングスで1分34秒、7位はNTT西日本で1分52秒差、8位はGMOで1分54秒差、9位は三菱重工で1分55秒差、10位は中国電力で2分11秒差となっていた。区間賞はNTT西日本の小林歩であった。

第4区(7.8km)
 外国人特区のこの区間、41チーム中、なんと外国人ランナーが出場したのは35チームにおよんだ。
 世界的なスピードランナーが集うこの区間、なんだかまるで雰囲気の違うレースがくりひろげられる。
 トップに立つトヨタ自動車はコリルがゆうゆう前をゆく。後ろでは九電工のコエチ、SUBARUのキプランガットが超ハイペースで追い上げてくる。
 5kmも首位はコリル・フェリックスでゆるぎなく、2位にはHondaのイェゴン・ヴィンセントがやってくる。ヴィンセントは東京国際大学時代に箱根駅伝の3区間の区間記録を持ち『駅伝最強の留学生』といわれたランナーである。ヴィンセントははげしくコリルをおいあげてきて、その差は50秒となる。後ろでは三菱重工のキプラガットが快調、強風をものともせずに6位までやってくる。
 コリルはヴィンセントにその差を詰められるも、トップで中継所にとびこんだ。2位はHondaで40秒差、3位は黒崎播磨で53秒差、4位はKaoで1分01秒差、5位は旭化成で1分21秒差、6位は三菱重工で1分36秒差、7位はNTT西日本で1分36秒遅れ、8位はGMOで1分43秒遅れ、9位は中国電力で1分52秒遅れ、10位はSGホールディングスで1分59秒遅れとなった。区間賞はマツダのディエマ・アイザックであった。

第5区(15.8km)
 トップをゆくトヨタ自動車のこの区間はベテランの田中秀幸、たんたんとトップをひた走る。Hondaの青木涼真が追い、黒崎播磨の福谷颯太、Kaoの 杉山魁声、旭化成の葛西潤、さらに後方では三菱重工の山下一貴、NTT西日本の北崎拓矢、GMOインターネットグループの岸本大紀が激しく6位を競り合い、後ろからはSUBARUは「口町ロケット」、あの口町亮が上位進出をもくろんでいた。
 トップの田中は快調だった。7kmでは2位の青木との差をひろげてゆく。3位には旭化成の葛西が浮上してきた。GMOの岸本大紀も好調で9km地点では5位まで上げてきた。
 田中は好調そのもので強風にもめげずに力走、11kmではHondaとの差を1分08秒にまでひろげてしまう。田中秀幸はその後もペースダウンすることなく区間賞でリードを拡大、6区につないだ。
 5区を終わって、トップはトヨタ自動車で変わらず、2位はHondaで1分29秒差、3位は旭化成で1分52秒差、4位は黒崎播磨で2分38秒遅れ、5位はKaoで3分34秒遅れ、6位はNTT西日本で3分35秒遅れ、7位はGMOで3分38秒遅れ、8位は富士通で4分02秒遅れ、9位は中国電力で4分04秒遅れ、10位は三菱重工で4分06秒遅れとなっていた。

第6区(11.2km)
 トップをゆくのはトヨタ自動車の西山雄介、2022年世界陸上オレゴン大会の日本代表である。2位で追うHondaの小山直城は、昨年9月のMGCを優勝してパリ五輪マラソン代表に決まっている。さらに後ろから東京五輪マラソン6位のGMOインターネットの大迫傑が追いかけてくる。大迫の走りが見ものだった。
 7位でタスキをうけた大迫は3kmで一気に5位までやってきた。そしてさらい上位をうかがう気配である。
 2位発進の小山直城もパリ代表のプライドをかけて西山を追ってゆく。大迫は7.7kmで
黒崎播磨・田村友伸をとらえ4位グループまでやってきた。大迫の走りはさすがというべきか。区間2位ながら見せ場をつくった。
 後続のつばぜり合いを尻目に西山は、ここで30秒以上もリードをひろげて逃げ切ってしまった。
 2位はHondaで2分05秒遅れ、3位は旭化成で2分30秒遅れ、4位はGMOで3分40秒遅れ、5位は黒崎播磨で3分40秒遅れ、6位はNTT西日本で4分17秒遅れ、7位はKaoで4分18秒遅れ、8位はっ三菱重工で4分27秒遅れ、9位は中国電力で4分38秒遅れ、10位は富士通で4分48秒遅れ。
 区間賞はトヨタ自動車の西山雄介であった。
 パリ五輪内定の小山を30秒ほど上回り、東京五輪6位の大迫や、昨年のアジア大会4位の定方俊樹(三菱重工)をも上回り、「マラソン日本代表対決」にリベンジした形となった。

第7区(15.6km)
 トップに立つトヨタ自動車は服部勇馬である。東京五輪の代表だったが、屈辱の73位と期待を裏切った。パリ五輪に再起をかけた昨年のGMCには出場資格すらなかった。今回はチームの優勝はもとより、ランナーとして自身の再起をかけての登場である。。
 勇馬の3km通過は8:54とハイペースで、強い横風をものともせず、重戦車のような力強い走りで、ひとりわが道をゆく。
 9.5kmのチェックポイント、勇馬がトップ通過してから、2分16秒後に、やっとHondaの木村慎がやってきた。その差はひろがっている。3位の旭化成との差は2分32秒である。トヨタ自動車の8年ぶり優勝はほぼ決まったようなものである。
 後ろでは黒崎播磨の土井大輔とGMOの嶋津雄大が激しい4位争い、8.4kmで土井が嶋津をふりきった。
 上位の順位はほぼかたまりつつあったが、後方では激しい5位争い。12km手前では6位集団の三菱重工の的野遼大、Kaoの青木優、NTT西日本の小松巧弥らが5位のGMO・嶋津に追いついて吸収。4人によるの5位争いが熾烈になった。
 15kmの手前、トップをゆく服部勇馬はサングラスはずしてラストスパート、2分あまりのリードをまもり、8年ぶり4回目の優勝のゴールにとびこんでいった。2位は2分9秒差でホンダ、3位は旭化成、4位は黒崎播磨、5位は三菱重工とつずいた。区間賞は旭化成の市田孝であった。

 優勝したトヨタ自動車は8年ぶり4回目の制覇。8年も優勝していなのがなんとも不思議である。今回は盤石の布陣であぶなげなかった。2区の太田智樹、5区の田中秀幸、7区の西山雄が区間賞、他の日本人ランナー2人も5位以内で、まったくつけ入る隙もない出来だった。とくに第1区のベテラン大石港与の力走は秀逸、今回はラストランだが、区間4位ながらトップとはわずか4秒差である。この大石の快走が、2区太田に勢いをつけたといっていいだろう。
 2位のHondaはトヨタを追って終始2位をキープしていた。ミスがあったというわけでもなく、出来が悪かったというわけでもない。持てる力を十分に発揮している。3連覇を狙ったが、今回はトヨタの地力が勝ったということか。
 3位には旭化成がやってきた。1区でアクシデントがあったが、2区で上位に進出、その後も5位以内をキープしていた。最後は市田孝が快走、2位のHondaに肉薄し、もう少しで逆転2位もあった。古豪復活の兆しがみえてきた。
 期待外れは9位の富士通である。東日本の予選を圧勝しておきながら、終始低空飛行というのはどういうわけだろう。1区で坂東悠汰が区間25位、2区の浦野雄平が区間13位、3区の塩尻和也は先の日本選手権10000mで日本新記録をマークしたが区間23位。3人とも日本代表クラスのランナーである。1人ならともかく3人とも、こんなテイタラクではなんともはや……である。おそらくこのチームには、何か戦う以前の問題があるのだろう。 それにしても……。
 最近の駅伝は世知辛くなってきた。選手の力が均質化してきたせいか。チーム力が接近してごかましが効かなくなってきた。チーム力が平準化して、ちょとしたミスが順位におおきな変動をもたらす。
 全体のレベルは底上げされているのだろうが、個々の選手にそくしていうと、世界レベルで戦える選手はそだっていない。駅伝は日本独自の競技だが、いまや日本長距離はガラパゴス島になっているように思えてならない。


◇ 日時 2023年 1月 1日(月=祝) 9時15分 スタート 
◇ 気象 天気:晴 気温7.7 湿度49% 北北西5.8m
◇ コース:群馬県庁スタート~高崎市役所~伊勢崎市役所~太田市尾島総合支所~太田市役所~桐生市役所~JA赤堀町~群馬県庁をゴールとする7区間100km
◇トヨタ自動車(大石港与、太田智樹、田澤簾、コリル・フェリックス、田中秀幸、西山雄介、服部勇馬)
TBS公式サイト
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