積水化学が2年ぶり2度目の制覇
  明暗を分けたのはMGCか

 積水化学は予想以上に強かった。
 3区の佐藤早也伽でトップに立ってしまうと、もはや後続に追わせなかった。分厚い戦力がもたらした圧勝劇だった。
 1区でもし遅れることがあっても2区の山本有真で修正する。3区に佐藤早也伽をおいたのは、よほど調子が上がっているとみてのことだったのだろう。もし外国人特区の4区で資生堂に先に行かれることがあっても5区には新谷仁美がいる。2重、3重にそなえのある万全の態勢をしいていた。
 積水包囲網の各陣営はどうだったのか。資生堂、JP日本郵政、第一生命も手をこまねいていたわけではなく、それぞれ工夫のあるオーダーでのぞんできた。
 連覇をねらう資生堂は先手必勝、前半重視のオーダーでのぞんできた。1区から3区の五島、井出、一山で引き離し、積水にあきらめさせようという腹だったろう。
 第一生命も1区、3区にエースを配し、流れに乗ろうという腹つもりだったのだろう。
 JP日本郵政は中盤、後半勝負、オーソドックスな作戦でのぞんできた。いずれにしても3区の廣中でトップを奪い、積水をあわてさせようという腹だったのだろう。
 だが3チームともに、そのもくろみは脆くも潰えてしまった。
 なぜなのか?
 答えはMGCである。MGCで爆走してパリへの切符を獲得した鈴木優花、一山麻緒を3区のエース区間においた第一生命と資生堂、さらには5区に鈴木亜由子を配したJP日本郵政、いずれも計算通りにランナーが走らなかったのである。勝負どころで最高のパフォーマンスを発揮できなかったのが敗因のひとつといえそうである。
 ほかにも上位争いとは無縁だったが、1区に登場したワコールの安藤友香も、区間22位という信じられない成績であった。
 結果的に見てあのMGCの疲れがとれていなかった。彼女たちはあの勝負のかかったMGCで燃え尽きいてたのである。とすれば本当のところは、本大会で彼女たちを走らせてはならなかったのである。選手本位に考えれば……である。
 だが実業団のチームとしては、企業の顔でもあるから、企業の顔としてのPRパフォーマンスを発揮してもらわなくてはこまる。大会運営サイド、テレビ局としても、彼女たちがこぞって欠場ということになれば、視聴率に影響してしまう。スポンサーに顔向けが出来なくなるだろう。選手がどうのこうのではなく、スポンサーの顔がちらつくのである。
 少なくとも上記の3選手は、そんな板挟みのなかで走っていたのではないか。
 だが、しかし……である。
 現代の駅伝はごまかしができなくなっている。中途半端なコンディションでは、いくらトップ選手でも通用しない。名前などもはや通用しない。奇しくも、そんなことを考えさせられた大会だった。

第1区(7km)
 注目の第1区は、予想通りというべきか。ハイペースで幕あけた。
 スタート直後から、早くもトップに立ったのは資生堂の五島莉乃である。ハナから仕掛けて積水に喧嘩をふっかけてきた。
 1km=3:02……。早くも五島と日本郵政の菅田雅香が抜け出し、タテ長の展開になってしまった。2kmをすぎると五島は菅田をもぶっちぎって独り旅となる。2km通過は6:04で菅田のあとには三井住友海上の樺沢和佳奈、九電工の唐沢ゆり、パナソニックの信櫻空などがつづいていた。
 3km=9:14、4km=12:14と区間新ペース、後ろを30秒ほどもちぎってしまった。6kmになると2位には第一生命の小海遥があがってきて、後ろはむおみえない。はるか遠くで三井住友海上の樺沢、ダイハツの大森菜月、積水化学の田浦英理歌、のパナソニックの信櫻空などが集団でつづいていた。
 五島はそのままゆうゆうと後続を39秒ぶっちぎってタスキリレー、資生堂としては予定通りに展開となった。2位は第一生命、3位は41秒遅れで三井住友海上、4位はダイハツで41秒遅れ、5位は積水化学で43秒遅れ、6位はパばソニックで46秒遅れ、7位は天満屋で48秒遅れ、8位はエディオンで同じく48秒遅れとつづき、日本郵政は58秒遅れの12位とやや出遅れた。区間賞五島莉乃であった。

第2区(4.2km)
 今回から距離延長の第2区、予定通り先頭を奪った資生堂の2区はワコールから移籍してきた井出彩乃、順調な滑り出しでトップをひたはしる。
 後ろからは積水化学の山本有真がやってくる。第一生命の櫻川響晶とともに2位集団をなして井出を追ってゆく。後ろはダイハツの武田千捺、パナソニックの内藤早紀子……。 井出は後から追ってくる山本に詰められたがトップで中継所へ。3区には一山麻緒がいるのでトップ通過なら役割は果たしたというべきか。
 2位は積水化学で26秒差、3位は第一生命で38秒差、4位はパナソニックで40秒差、5位はダイハツで47秒差、6位は日本郵政で52秒差、7位は天満屋で1分差、8位も1分差でセンコーとつづいていた。区間賞は積水化学の山本有真が獲得した。

第3区(10.6km)
 トップでタスキを受けたのは資生堂の一山麻緒、資生堂にしてみれば、すべて筋書き通りの展開だったことだろう。一山に課せられたのは、ここで独走態勢にもちこむことであった。
 一山はゆうゆうとトップを行く。2kmの通過は6:28……。
 後ろは積水化学の佐藤早也伽が追い、パナソニックの渡邊菜々美、ダイハツの加世田梨花、第一生命の鈴木優花が3位集団を形成して追うが、鈴木の走りがなぜか重い。うしろからは日本郵政の廣中璃梨佳が追ってきて、一気に3位集団をとらえた。集団はくずれはじめ、なんとここで鈴木がこぼれていった。第一生命としては大誤算だったろう。
 4kmをすぎると佐藤がトップの一山を追い始め、とうとう4.4kmで一山を一気に抜き去った。積水化学はここでトップに立った。
 後続の3位集団は渡邊が引っ張るかたちで2位に落ちた一山を追いはじまる。3位集団から廣中と渡邊が抜け出してきて、4,7kmでは一山をとらえて抜き去った。廣中に勢いが出てきた。だが渡邊もけんめいに粘っている。ふたりで先頭を行く佐藤を追ってゆく。
 廣中はペースアップするが渡邊もついてくる。5.7kmになるとトップをゆく佐藤との差はみるみる詰まってくる。
 粘る渡邊をじりじりと引き離した廣中は、7.4kmでとうとう先頭の佐藤に追いついてしまう。だが、ここからの佐藤の粘りがすごかった。廣中はなんどもすぱーとをかけて引き離そうとするが、佐藤はついてくる。7.8kmで廣中がふりきるかと思いきや、佐藤は離れなかった。
 そして中継所手前で、こんどは佐藤が渾身のスパート、廣中をふりきって中継所へとびこんでいった。
 3区の廣中と佐藤のトップ争いは、本大会の最大のみどころであった。ここ佐藤が廣中にぬかせなかったことが、最終的に積水の制覇に結びついたといえるだろう。
 かくして3区を終わって、トップは積水化学、2位は日本郵政で3秒差、3位はパナソニックで24秒差、4位はダイハツで49秒差、5位は第一生命で1分20秒差、6位は岩谷産業で1分24秒差、7位は資生堂で1分29秒差、8位は天満屋で2分01秒差となり、区間賞は廣中璃梨伽であった。トップ発進の資生堂はここで7位まで順位を落とし、優勝戦線からほとんど脱落した。

第4区(3.6km)
 外国人特区のこの区間、11人の外国人の7お雇いランナーが走っている。
 トップをゆく積水化学は佐々木梨七、追ってくるのは日本郵政の小坂井智絵だが、それより40秒差で追ってくる4位発進のパナソニックのニーヴァが気になるところ、ほかはすでにかなりの差がついている。
 佐々木はたんたんと前を向いて走り、3秒差で追ってくる小坂井との差はどんどん離れてゆく。後ろからはやはりパナソニックのニーヴァがやってきて、1.5kmで小坂井をとらえて2位までやってきた。しかし、トップの佐々木はふんばって、そこからニーヴァには追わせなかった。
 積水化学がトップをまもり、2位は大健闘のパナソニックで16秒差、3位は日本郵政で39秒差、4位は資生堂で1分11秒差、5位はダイハツで1分18秒差、6位は岩谷産業で1分53秒差、7位は第一生命だ1分56秒差、8位はスターツで2分32秒差であった。区間賞は京セラのアグネス・ムカリだった。

第5区(10km)
 トップで新谷仁美にタスキを渡す。積水化学にとっては、まさに予定通りの展開になっていた。
 新谷は1km=3:06、2km=6:16というペースで突っ走り、後続をひきはなしにかかった。 新谷は快走、後ろははなれる一方となった。5km通過は15:48であった。
 後続では7位発進の資生堂の高島由香が順位をあげてきた。5kmでは3位発進の日本郵政の鈴木亜由子にとりつき、パナソニックの中村優希にとりつき、6kmでは3チームで2位集団を形成した。
 独り旅の新谷の後ろではげしい2位争い、集団がばらけたのはお7km、高島が抜け出して2位まで浮上した。日本郵政の鈴木は走りが重く、8.2kmでは中村にもおいて行かれて、とうとう4位まで後退した。これでは3区で廣中がつくった上昇機運にのれそうもない。
 新谷は後続を1分02秒も引き離してタスキ渡し、2位は資生堂、3位はパナソニックで1分23秒差、4位は日本郵政で1分34秒差、5位はダイハツで1分47秒差、6位は岩谷産業で2分44秒差、7位は第一生命え3分05秒差、8位は天満屋で3分10秒差となった。なお区間賞は資生堂を2位まで押し上げた高島由香であった。

第6区(6.795km)
 新谷で後続を1分もちぎった積水化学は森智香子が落ち着いた表情でひたすら駈けてゆく。もううしろは誰もやってこない。後ろで束ねた髪を左右に翻しながら、タスキをゴールまで運んで行った。
 後ろでは日本郵政とパナソニック、資生堂の2位争い、天満屋、第一生命、岩谷産業の6位争いが熾烈になってくる。上位シードはこのメンバーで収まりそうで、8位をめぐる攻防は今回はないようだった。
 2位争いでは日本郵政の和田有菜の勢いがよさそうだった。5.1kmで2位をゆく資生堂の前田海音にに日本郵政の和田とパナソニックの森田香織が迫って、ゴールまでもつれそうだった。
 そんな後続を尻目に、積水化学の森はゆううゆう、笑顔で、そのまま2連覇のゴールにとびこんでいった。(6区の区間賞は天満屋の大東優奈)

 優勝した積水化学はまったく危なげなかった。3区でトップに立って、そのままゴールへ。区間賞こそ1つだが、全員が一ケタの期間順位、まだまだ余力とうものを感じる強い勝ち方であった。MVPをあげるとすれば3区で奪首した佐藤早也伽ということになるだろう。区間2位だが、道中、廣中とびっしり競り合って、抜かせなかった。この気迫が後続のランナーにも引き継がれたとみる。
 2位の日本郵政、最後の最後に競り勝って2位までやってきたところ、やはり地力のあるチームといえる。中盤までは積水と四つに組んでいたが、もうひとつのエース区間、5区の攻防で敗れた。この日の新谷と鈴木のデキの差が、そのまま勝敗につながった。
 3位のパナソニックは大健闘である。資生堂を競りつぶし、3強の一角を崩したのである。全員が区間1ケタ順位で、安定した走りをみせ、つねに上位をキープした。とくに3区の渡邊菜々美の走りが印象的だった。
 資生堂は4位に終わった。前半から果敢に攻めたレースぶりは好感がもてた。もし3区の一山がパンとしていたら、積水とくわどい勝負になっていたことだろう。しかし駅伝にい「たら」の話はない。
 クイーンズ8、シード8チームは、今回、エディオンと豊田自動織機が落選、天満屋が復活を果たし、岩谷産業が初めてシード権を獲得した。

◇ 日時:2023年11月26日(日)午後12時15分スタート
◇ 場所:宮城県仙台市
◇ コース::松島町文化観光交流館前→弘進ゴムアスリートパーク仙台(宮城コース) 6区間計42.195㎞。
◇ 天気:晴れ 気温:10.0℃ 湿度:44% 風:西 3.90m
◇積水化学(田浦英理歌、山本有真、佐藤早也伽、佐々木梨七、新谷仁美、森智香子)
詳しい結果
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