岩谷産業が圧勝で本戦初出場を決める
  センコーが初出場、ニトリ、キャノン、京セラは2年ぶり

 

 新旧の交代期をむかえているせいもあるだろう。
 本大会に出てくるチームには、現状の力関係で日の丸を背負えるようなランナーは見当たらず、上位は各チームとも駅伝レースののぞんだときの実力に、それほどの有意差はない。要するにレース当日の選手のコンディションの良し悪しが勝負の分かれ目となるとみていた。
 駅伝はエースの流れが大きなポイントになる。多少、力関係では劣勢でも、うまく流れに乗ったときはおてつもなく突きぬけることもある。逆に優勝候補といわれるほど力上位(数値的なもの)にあっても、流れに掉させないと、ちぐはぐな戦いに終始して、思わぬ結果をまねくことになることが多い。
 そういう意味で、本大会では、初優勝した岩谷産業と九電工は好対照をなしている。1区、2区で好発進してすっかりリズムにのった岩谷産業にくらべて、九電工は流れにのれずに後手を踏んでつまずいた。
 もうひとつの候補の一角・三井住友海上は九電工とは逆に1区、2区でうまくすべりだしたが、勝負どころの中盤で大きく失速して、流れにのりそこなった。
 弾みのつかない主力の2チームを尻目に、岩谷産業があれよあれよと逃げ切ってしまった。まさに、してやったり……という展開になった。

第1区(7km)
 1km=3:15と、まずまずの入りで幕あけた1区、岩谷産業の川村楓が積極的に前に出てきて、九電工の唐沢ゆり、ユニバーサルの鷲見梓沙も出てきて、集団をひっぱった。
 2kmになると下り坂を利用して三井住友海上の樺沢和佳奈が先頭に出てきて、川村、唐沢、しまむらの高橋優菜らをしたがえ、集団は一気に縦長になってゆく。
 3km通過は9:40、4kmでは後続が樺沢においついてふたたび、13チーム集団となった。そんななかで4kmすぎになって、肥後銀行の塚本真夕に異変、後方で足を引きずりというアクシデント。(最終的に肥後銀行は2区のランナーにタスキが渡らず、レースの勝負からは埒外となる)
 5kmの通過は16:13、樺沢に川村がせりかけて、後ろは唐沢、愛知電機の藤田愛子がつづいていた。果敢に攻める川村の勢いに眼を惹かれるものがあった。トップ争いは6kmすぎになって動きがあり、樺沢がここでスパート、唐沢と川村が追い、藤田もついてくる。トップ争いは熾烈になり、6.6kmで唐橋と川村が樺沢をとらえるも、樺沢が2段スパートをかけ、川村ともつれるゆおにして中継所にとびこんでいった。
 1区を終わってトップは三井住友海上、2位は岩谷産業でその差はなし、3位は愛知電機がやっえてきて2秒差、4位は九電工で五秒差、5位はセンコーで9秒差、6位はルートインホテルで9秒差、7位は埼玉医科大学で10秒差、8位はユニバーサルで11秒差、以下圏内の16までは、ユニクロ、大塚製薬、しまむら、ダイソー、ベアーズ、シスメックス、愛媛銀行、ニトリ……で、ここまで42秒差。
 天満屋は56秒遅れの19位、ヤマダホールディングスは66秒遅れの22位、ワコールはなんと26位と大きく出遅れた。

第2区(3.6km)
 タスキ渡しのあと、三井住友の片貝洋美、岩谷産業の前田梨乃、愛知電機の今井花笑が並走でトップ争い、1.3kmでそこから片貝、前田がぬけだしてトップ争い。うしろからはルートインホテルズの坂本ちが追ってきて3位に浮上、センコーの 杉山明沙もやってくる。さらにユニクロの後藤夢が9位から追ってきて3位グループとなる。
 2kmでは片貝と前田がトップ争い、うしろは杉山、坂本、後藤、さらに後ろには埼玉医科大学の保坂野恋花、今井、九電工の羽江亜津がつづくという展開であった。
 トップ争いは片貝が主導権を握り、2.4kmあたらいから。じりじりと前田を引き離しはじめ、3kmではぬけだした。
 テレビに映らない後ろでは22位発進のワコール・安藤友香がMGCを走った後なのだが快走、10人抜きで一気に16位まで押し上げてきた。
 かくして2区をおわって、1位は三井住友海上、5秒遅れで2位は岩谷産業、3位はユニクロで11秒遅れ、4位はルートインホテルズで11秒遅れ、5位はデンコーで15秒遅れ、6位は大塚製薬で25秒遅れ、7位は愛知電機で30秒遅れ、8位はユニバーサルで34秒遅れ、以下は埼玉医科大学、キャノン、シスメックス、ベアーズ、九電工、しまむら、ダイソー、ワコールとなっていた。天満屋は19位、ヤマダホールディングスは21位といまだ低空飛行がつづいていた。
 誤算は九電工だったことだろう。1区につづいて2区でも勢いがつかず、トップから58秒もおいてゆかれてしまった。

第3区(10.7km)
 トップをゆく三井住友海上のこの区間は西山未奈美、3000m障害で全日本実業団陸上優勝と勢いのある期待のスピードランナーである。ここで一気に流れの乗ってしまうという理想の展開であった。ところが。この西山がもたついてしまう。後ろから岩谷産業の若井莉央がやってくる。後ろからはユニクロンの平井見季、デンコーの竹山楓菜、ルートインホテルの堀尾和帆が第2集団をなしてやってくる。さらに後ろは大塚製薬の西谷沙綾、さらに後ろからは九電工の林田美咲が追う上げを開始して迫ってくる。
 トップ集団でも動きがあり、西山と若井に平井と竹山が追いついて、4チームがトップ集団となってしまう。後ろは西谷、そして追い上げ開始の九電工の林田は7位までやってくる。
 5km通過も4チームがトップ集団をなし、堀尾、西谷とつづき林田が7位でつづき、トップとの差は24秒となった。
 集団をなしていたトップの4チーム、5.7kmになって仕掛けたのは西山ではなくて、平井と若井だった。ふたりがとびだして、西山と堀尾を引き離しにかかる。
 7.5kmでは平井と若井が完全に抜け出してマッチアープの形成となったが、ここで存在感を示したのが若井だった。8.3kmでスパートするとその差は一気にひろがった。勝負どころの3区で先手をとったのは、九電工でも三井住友でもなく、なんと伏兵の岩谷産業だった。
 なお、この区間でヤマダホールディングスの筒井咲帆は12人ぬきで、一気に11位と圏内まで押し上げてくる。
 区間賞争いも混沌としたものとなり、九電工の林田がとると思いきや、1区のアクシデントでオープン参加となった肥後銀行の酒井美玖がテレビに映らないところで制した。
 3区を終わってトップは岩谷産業、2位はユニクロで26秒差、3位は大塚製薬で35秒差、4位は三井住友海上で41秒差、5位はセンコーで44秒差、6位は九電工で45秒差、7位はキャノンで45秒差、8位はルートインホテルで46秒差、以下、日立、天満屋、ヤマダホールディングス、ワコール、ユニバーサル、ダイソー、愛媛銀行、しまむら……。

第4区(3.8km)
 外国人特区のこの区間、外国人ランナーを配しているチームは11チーム、これらの上位進出でかなりの順位変動がみこまれた。九電工、ルートインホテルズなどの突き抜けがあるかどうか。岩谷産業、ユニクロ、大塚製薬、三井住友海上などが順位をまもれるかが注目のポイントだった。
 トップをゆく岩谷産業のこの区は久木柚奈、1分近くの出血を覚悟しなければならないが、後続の九電工、ルートインホテルとの差は45~46秒しかない。トップをまもれるかどうかが興味のマトであった。もしこの区で九電工がトップを奪えば、6区に逸木和香菜がひかえているだけに流れを一気によびよせるだろう。短い区間だが勝負のポイントとなりそうだった。
 だが久木は落ち着いた走りだった。後ろからは外国人ランナーが集団をなして、ぐんぐん追ってくる。とくに追い上げ急だったのはルートインホテルのカムルと九電工のジョアンである。いずれも前半突っ込んでいるだけに、後半は顎があがっていたが、とくにカムルのほうが久木に肉薄してきた。
 残り300mほどで、何とか逃げ切れそうにみえたが、それでも中継所ではわずか2秒にまで迫っていた。岩谷産業・久木は2秒とはいえ抜かせなかった。このとき抜かせなかったことが、初優勝にむすびついたといえる。
 第4区を終わって、トップは岩谷産業、2位はルートインホテルで2秒差、3位は九電工で23秒差、4位はキャノンで41秒差、5位はヤマダホールディングスで48秒差、6位はユニクロで48秒差、7位は大塚制約で53秒差、8位はニトリで58秒差、9位以下はセンコー、天満屋、京セラ、三井住友海上、日立、スターツ、愛媛銀行、ユニバーサル……。

第5区(10.4km)
 4区を終わって、優勝争いは岩谷産業と3位までやってきた九電工の争い、その差は24秒であった。岩や産業のランナーは中野円花、追う九電工は前回区間賞の逸木和香菜であった。逸木の力から見て、とらえられない差ではなかった。
 だが、中野はいかにもベテランらしい走りをみせた。
 タスキ渡しがすんで、ルートインホテルの藤田正由加がすぐに2秒差をつめて並走にもちこんだ。後ろから逸木がやってくるが、中野はあわてなかった。相手は藤田ではなく逸木だと思っていたのだろう。
 3kmすぎまで中野は藤田と並走、この時点で逸木との差は17秒につまっていた。だが、慌てることなく、そこからじりじりとスパート、藤田との差を少しづつひろげていった。逸木も追ってくるが、5kmすぎに藤田をとらえるのが瀬一杯で、トップとの差はむしろひろがっていった。九電工との差は48秒となり、べエラン中野の快走で、岩谷産業の初優勝はほぼ確実になった。
 5区を終わってトップは岩谷産業でゆるがず、2位は九電工で48秒差、3位以降は1分以上の差となり、ルートインホテルズ、大塚製薬、ニトリ、ユニクロ、ヤマダホールディングス、三井住友海上、日立、天満屋、キャノン、センコー、京セラ、スターツ、ユニバーサル、しまっむら……

第6区(6.695km)
 岩谷産業のアンカーは青木奈波、200m以上のアドバンテージをもって、ゆうゆうとトップをゆく。もはや追ってくるものは誰もいない。そのまま創部7年目、ゆうゆうトライアル初優勝のタスキをゴールまで運んで行った。
 出場権のボーダー争いはしまむらとダイソーがはげしく争ったが、しまむらがわずか4秒差で制した。
 
 かくして岩谷産業がトライアル初優勝、本戦出場チームは、岩谷産業、ルートインホテルズ、大塚製薬、九電工、天満屋、日立、ヤマダホールディングス、、三井住友海上、ユニクロ、ニトリ、キャノン、スターツ、センコー、ユニバーサルエンターテイメント、京セラ、しまむら の16チーム。さらにMGC特別処置で25位のワコール。
 センコーは初出場、ニトリ、キャノン、京セラは2年ぶりに本戦に復帰することのなる。
 優勝した岩谷産業は、下馬評では優勝候補にはあがっておらず伏兵的存在、いわばサプライズといってもいい。しかし1区で2位につけて好発進、3区でトップに立って、そのまま逃げ切ってしまった。区間賞は5区:中野円花のひとつだけだが、べエラン、新鋭の力が融合して、ミスがひとつもなかった。
 前半でうまく流れに乗ったのが勝因だろう。
 2位のルートインホテルズも終始上位をキープしていた。区間賞がひとつもないのに終わってみれば2位に来ている。3位の大塚製薬とともに大健闘といえるだろう。
 九電工では今回もまた優勝できなかった。持てる力を発揮できなかったのはなざなのか。予選会にまわってくるようなチームではないのだが……。本戦での巻き返しを期待したいと思う。
 5位の天満屋やヤマダホールディングスなどはベストメンバーで望んでいない。それゆえ本戦では変わり身があるかもしれない。
 初出場のベアーズは20位に終わった。前半は12位につけていたが、後半になって順位を落としたのは駅伝の経験の差が出たのだろう。だが20位は大健闘、一年間その名を銘記してきたい。


◇ 日時 2023年 10月22日(日)12時10分スタート
◇ コース:宗像市→福津市→宗像市(42.195㎞ 6区間)
◇ 天候:晴れ 気温:21℃ 湿度:49% 風:南西3.1m
◇ 岩谷産業(川村楓、前田梨乃、若井莉央、久木柚奈、中野円花、青木奈波)
公式サイト(TBS)
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