長野が大会新で連覇、最多9度目の制覇
     上野裕一郎、監督みずからラストランで締める

 

 3年ぶりの開催である。
 やっと沿道に観衆がもどってきて、今シーズンをしめくくる駅伝らしいにぎわいになった。
 平和記念公園発着の本大会、広島のシンボルである原爆ドームがみえる。平和であればこそ駅伝レースが開催できて、われら駅伝ファンもテレビ観戦することができる。
 年初から防衛費予算の拡大による増税問題が吹きあがり、事実、唯一の被爆国でありながら、核装備まで突っ走りかけない危うい時世のなかで、テレビを通じて年頭に原爆ドームをみて、果たしてどんな思いを抱いたのだろう。レースのゆくえはともかく、そちらのほうも気になった。

 シーズン最後の駅伝、実業団のランナーたちも、箱根で死力を尽くした大学生ランナーたち、最後にあと一押しだが、それほど期待はできないだろう。長野などは第一線から退いている上野裕一郎なんぞがアンカーに出てきているように、実業団のバリバリははほとんど顔を見せていない。7区のうち5区を占める中学生・高校生のデキいかんがポイントとなるレースである。
 そんなことも勘案すれば、長野、兵庫、埼玉、千葉、京都あたりがはげしくツバ競り合いするとみていたが、予想通りレースは暮れの高校駅伝の再現リプレイのような様相から幕あけた。

 

 

 レース前半を支配したのは兵庫
       高校生・中学生が快走


第1区(7km)
 暮れの高校駅伝とはちがい兵庫の長嶋幸宝はハナから飛び出すことはなかった。大阪の七枝直、長崎の川原琉人が集団をひっぱり長野の永原颯磨、山梨の 内堀勇がつづくという展開でたんたんとつづいた。1km=2:44とまずまずのペース。まだ長嶋は集団のなかにいる。
 2kmの通過は5:38……、このあたりから長嶋が前に出てきた。川原、内堀と3人で集団抜け出し、うしろには永原、七枝、京都の岡田開成が第2集団をなしてつづいていた。
 中間点の通過は9:50,
  レースが動いたのは4.6km、先頭集団に永原、岡田と岡山の桑田駿介が追いついてきて、6チームがトップ集団をなし、激しいせめぎあいがはじまった。最初にこぼれたのは大阪の七枝で5.4kmでは5チームが先陣争い。
 兵庫の長嶋は満を持していたのか、残り1kmでスパートした。後続もくらいついてきたが、長嶋はのこり350mで2段スパート、これでようやく後続をふりきって区間新でタスキをわたした。
 2位は長野で2秒差、3位は長崎で8秒差、4位は岡山で9秒差、5位は京都で11秒差、6位は神奈川で18秒差、7位は埼玉で20秒差、8位は22秒差で東京がつづいていた。

第2区(3km)
 中学生の走るこの2区、トップをゆく兵庫は新妻遼己、先の中学駅伝第1区で区間賞をとったランナーである。1km=2:38というハイペースで入り、どんどんと後続をひきはなしてゆく。
 後ろで動いたのは京都の奥野恭史である。トップの兵庫とには引き離されたが5位からじりじりと2位まで押し上げてきた。
 兵庫の新妻は快走、そのままトップでタスキリレー、兵庫としては予定通り、ここで独走態勢をきずいた。区間賞はこの新妻遼己で、兵庫は1区、2区、連続で区間賞を獲得した。2位は京都で25秒差、3位は長野で34秒差、4位は神奈川で38秒差、5位は岡山で40秒差、6位は千葉で42秒差、7位は埼玉で42秒差、8位は東京で45秒差……。


 宮島口ロータリー
  京都がトップを奪う


第3区(8.5km)
 学生・一般区間のこの3区、果たしてレースの流れに波乱があるかどうか。トップをゆく兵庫は青山学院大の目片将大、1km=2:40の入り、京都の佐藤圭太(駒澤大)が追ってゆく。箱根では走れなかった佐藤には意地とプライドがあったろう。たんたんと前を追ってゆく。
 兵庫と京都、2kmでは23秒差、後方では長野の伊藤大志、神奈川の内田隼太、岡山の石原翔太郎、千葉の篠原倖太朗がグループをなして追っていた。  5kmは14:01で目片が通過、兵庫のトップはゆるがないが、京都の佐藤がじわりと追い上げていて、その差は15秒になった。
 6kmになると後続に変化があり、篠原と伊藤が集団を割って3位争い、6.5kmでは兵庫と京都の差は7秒に詰まってきた。佐藤はなおも目片を追い、8.5kmではとうとうその差3秒になった。そして宮島口をすぎたあたりで、とうとう目片をつかまえトップに立ったのである。
 京都の3区でトップというのは予定通りの展開だろう。2位は兵庫で2秒差、3位は千葉で17秒差、4位は長野で20秒差、5位は岡山で32秒差、6位は神奈川で38秒差、7位は東京で38秒差、8位は地元広島で39秒差で13位の群馬までが1分以内にはいっていた。ちなみに区間賞は群馬の塩尻和也である。塩尻は25位から13位に順位をひきあげた。なお鳥取から出場の38歳岡本直己は今回10人抜きを達成、通算134人抜きとした。


 長野の佐久長聖の二人
   ともに区間新でつないぎトップを独走


第4区(5km)
 高校生区間のこの区間は勝負のポイントになる重要な区間である。
 3区でトップに立った京都のランナーは大西裕翔、すぐ後ろから兵庫の小島悠生が追ってくる。その後方では長野の山口竣平、千葉の鈴木琉胤が追ってくる。さらに後ろからは岡山、東京、神奈川、埼玉、宮城、広島がダンゴ状態でつづいていた。  3kmになると3位集団の山口と鈴木が追ってきて2位の兵庫の背後に迫り、3.2kmでは兵庫を抜いて2位集団で京都を追い始めた。
 2位集団の勢いはとまらない。3.5kmではその差は5秒となり、トップ争いはにわかに熾烈になってきた。
 長野の山口の追撃がきびしく4km手前では京都の背後に迫った。京都の大西も粘って抜かせない。両者のマッチアップは中継所目前までつづき、京都が粘るかと思いきや、ラストスパートでわずかに山口がまさった。
 トップは長野、差なしで2位は京都、3位は千葉で12秒差、4位は兵庫で23秒差、5位は埼玉で31秒差、6位は岡山で33秒差、7位は東京で33秒差、8位は神奈川で36秒差……。区間賞は長野の山口竣平、区間新記録というオマケもついた。

第5区(8.5km)
 4区で待望のトップに立った長野のランナーは先の高校駅伝でも快走した吉岡大翔である。
 吉岡は1kmが2:46、あわてずにゆっくりはいった。京都の柴田大地がついてゆく。後ろは千葉の工藤慎作、兵庫の前田和摩がつづき、岡山の南坂柚汰、東京の田中純が兵庫を追っている。
 2kmすぎで吉岡はスパート、柴田をどんどんひきはなしになかる。おいてゆかれた柴田は2.5kmになって追撃急の工藤にとらえられてしまう。トップとの差は4秒である。
 3kmになると兵庫の前田に岡山の南坂、埼玉の松井海斗が追いついた。
 中間点通過は吉岡がトップで12:00、10秒差で千葉の工藤が追い、京都の柴田に、埼玉の松井、岡山の南坂、兵庫の前田が追っている。
 吉岡は快走、後続の2位の千葉との差をどんどんとひろげってゆく。3位以降は混戦となり。5kmでは兵庫の前田、埼玉の松井が京都の柴田を置き去りにしていった。京都はここで大きく失速して圏内から去ってしまった。
 吉岡は後続をぶっちぎって、2連覇への道筋をきっちりと描いた。2位には千葉がやってきて37秒差、3位は兵庫で42秒差、4位は埼玉で53秒差、5位は岡山で57秒差、6位は東京で1分20秒差、7位は京都で1分26秒差、8位は広島で1分52秒差となった。区間賞は吉岡大翔で4区の山口に続いて区間賞、長野にさらに勢いをつけた。


長野・上野裕一郎
  余裕のビクトリーラン


第6区(3km)
 長野のこの区間は小林睦だが、山口と吉岡で弾みがつき、その勢いはもうとまらない。。後続をどんどん引き離して、独走状態をきずいてしまう。37秒のリードをもらってスタートした木小林は貯金を49秒に増やしてアンカーの上野裕一郎にタスキをつないだ。
 かくしてトップは長野、2位は千葉で49秒差、3位は兵庫で49秒差、4位は埼玉で1分差、5位は岡山で1分12秒差、6位は東京で1分31秒差、7位は京都で1分55秒差、8位は広島で1分57秒差……

第7区(13km)
 トップの長野・上野裕一郎はゆったりとした走りで、もう後ろをふりかえらない。3kmで後続との差は50秒、兵庫の藤本珠輝、千葉の椎野修羅の2位グループに埼玉の荻久保寛也が追いついてきた。
 上野は余裕に走りである。沿道の観衆に手を挙げてこたえるというありさま、5kmすぎでは2位集団との差は53秒と、ひろがってしまう。
 上野が独走するなか8km手前では埼玉の荻久保が2位集団から抜け出して、長野を追い始めた。
 9km地点での順位はトップは長野、2位以下は埼玉、千葉、岡山、東京、兵庫、広島、京都となっていた。
 後ろでは東京の嶋津雄大の動きがよく、10kmでは岡山の岡本雄大をとらえて4位にあがってきた。さらに12kmでは千葉の椎野修羅もとらえ4位に浮上した。
 さらに後ろでは京都の西研人と広島の相葉直紀が兵庫の藤本珠輝をとらえて6、7位に順位をあげた。
 上野は最後までゆうゆうの走り、さすがに最後は25秒差まで詰められたが、大会新記録となる2時間17分10秒で2連覇、9度目制覇のテープを切った。

 長野は大会新というオマケつきの連覇を達成、史上最多のとなる9度目の制覇である。上野の後輩である佐久長聖の3人が、しっかりラストラン上野の花道をつくった。山口と吉岡は区間新記録の快走、中盤でトップを奪う作戦がみごと成功したといえる。
 2位には最後に埼玉があがってきた。区間賞はひとつもないが、中盤から後半にかけてのランナーが大きくくずれることなく堅実につないだのがよかったのだろう。
 3位の東京も藍玉と同じく、高校生、中学生、大学生が力を発揮した。
 前半を支配した兵庫、中盤を支配した京都、それぞれ8位、6位におわったが、優勝争いを演じての結果なので、その順位以上に評価しておこう。

 
◇日時 2020年01月19日(日)12時30分スタート
◇場所 広島市
◇コース 広島・平和記念公園発着/JR前空駅東折り返し、7区間48Km
◇天候:くもり 気温:09.4℃ 湿度:40.0% 風:北北東 0.6m(スタート)
◇長野(永原颯磨、猿田創汰、伊藤大志、山口竣平、吉岡大翔、小林睦、上野裕一郎)
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