大阪が8年ぶり4度目の制覇!
  アンカーのー松田瑞生が逆転!


 

 今日の駅伝人気のきっかけをつくったのが、この全国女子駅伝である。
 男子の全国男子駅伝よりはるかに歴史のある大会である。女子の長距離・マラソンのトップはほとんどこの大会を足がりにして昇りつめていった。
 たとえば先の東京五輪の女子長距離、マラソンの代表をみわたしてもマラソンの前田穂南をのぞいてすべて本大会に出場している。たとえば鈴木亜由子、田中希実、廣中璃梨佳などは中学生のころからその名をはせていた。新谷仁美なんかは高校生ながら1区に出場し、実業団の猛者を相手に区間賞をもぎとっている。
 中学生、高校生のランナーが憧れの実業団トップクラスのランナーとともに走り、未来に夢をはせる。それが本大会である。
 われら観戦者にしてみれば、日本長距離の未来を背負うランナーを見つけ出す。そんな楽しみのある大会ということになる。
 優勝争いのほかに、そんな、いろいろな楽しみかたのある駅伝なのである。筆者なんぞは昔なじんだ京都の街並みがみられるという願ってもない機会なのである。
 
 混戦が予想された大会であったが、そういうケースは決め手のあるチームが最後に抜け出している。そういう意味で大阪の優勝は、終わってみれば、なるほど、と納得できる結果であった。


新潟が大会史上初めて1区で区間賞

第1区(6km)
 スタートの第1区は2番目に距離が長い。各チームともにここで好位置につけたいところである。予想通り先頭に立って引っ張ったのは群馬の岡本春美だった。スタンドから前に出て集団をひっぱった。1kmは3:09とまずまずの入り、後ろにつけたのは愛知の山本有真、長野の高校生・村岡美玖、大阪の水本佳菜……。
 5条通りにはいって、早くもタテ長の隊列になる。1~2kmも3:05というペース。西大路通りにを岡本がトップではいってゆく。
 3kmの中間点は9:27で岡本を先頭に、山本、村岡、水本、新潟の小海遥が集団をなし、第2集団は長崎の森智香子、鹿児島の兼友良夏、東京の小川陽香、福岡の野田真理耶らがつづいていた。
 4kmあたりになって長野の村岡がトップ集団からこぼれてゆく。トップ集団に動きがあったのは残り1kmの5km、新潟の小海が猛然とスパートをかけると、岡本も山本も水本もついてゆけなかった。小海はぐんぐんと後続を引き離し、新潟県勢としては初めての1区の区間賞を獲得した。
 かくして1くを終わってトップは新潟、10秒遅れで愛知、12秒遅れで群馬、14秒遅れで大阪、30秒遅れで福岡、31秒遅れで滋賀、32秒遅れで千葉と愛媛とつづき、東京は32秒遅れの9位、神奈川は35秒遅れの11位、連覇を狙う京都は37秒遅れの12位、長野は51秒遅れの15位と出遅れた。

第2区(4km)
 トップをゆくのは新潟の村山愛美沙、勢いがあったのは大阪の中島紗弥で1.5kmでは愛知の吉田莉帆をぬいて2位に浮上、後ろは群馬の荻野実夕、神奈川の渡邊菜々美がつづくという展開であった。
 大阪の中島はじりじりと村山を追い、2kmでは5秒差と迫り、2.5kmではとうとう村山をとらえてトップに立った。後ろからは渡邊がやってきている。
 中島はその後も村山をひきはなし、その村山を3.5kmでは神奈川の渡邊がとらえて2位にあがってきた。
 渡邊はトップの中島を追ったが、中島は粘ってトップでタスキをわたした。トップは大阪、3秒差で2位は神奈川、3位は10秒差で群馬、4位は16秒差で長崎、5位は新潟で16秒差、6位は愛知で17秒差、7位は福岡で21秒差、8位は京都で28秒差……。千葉は35秒遅れの12位、東京は36秒遅れの13位、長野は40秒遅れの14位だった。
 区間賞は神奈川の渡邊菜々美であった。


 スーパー中学生、なんとなんと17人抜き

第3区(3km)
 距離の短い中学生区間である。いつもここでも、大きな順位変動があるのだが、上位はそれぞれ堅実に走った。
 トップ大阪の増田来瞳を神奈川の井上穂奏が追うのだが、その差は詰まるようでなかなかつまらない。同志社大学のまえを抜け、京都御苑のかたわらをひたすらくだってゆく。風雲急をつげたのは、はるか後方であった。
 33位発進の岡山。3区のランナーはドルーリ朱瑛里、鼻からつっこんでゆき1.2kmではやくも8人をぬいて30位までやってきた。腰高で飛ぶがごとくの走りですっとんでゆく。走りそのものが他の選手と比べものにならなかった。最終的には17抜いて堂々の区間賞、一気に21位まで順位を押し上げたのである。
 トップ争いは大阪と神奈川、丸太町にはいってからも死闘がつづき、神奈川は追いきれず大阪がにげきった。
 トップは大阪、2位は神奈川で2秒差、3位は群馬で13秒差、4位は福岡で13秒差、5位は愛知で23秒差、6位は東京があがってきて27秒差、7位は千葉で27秒差、8位は新潟で30秒差、9位は京都で31秒差とつづいていた。

第4区(4km)
 トップをゆく大阪の佐藤千紘、神奈川の出水田眞紀が追い上げ、すぐに並走にもちこんだ。ともにゆずらない意地のぶつかりあいである。後ろからは京都の山本釉未が急追してきた。福岡の武田胡春もやってくる。
 トップの攻防は3kmで出水田がスパートして佐藤をふりきった。後ろは激しい順位争いとなり、2位には京都の山本が7人抜きでとびこんできた。トップとの差は7秒、3位は福岡で9秒差、4位は大阪で10秒差、5位は愛媛で13秒差、6位は愛知で21秒差、7位は東京で22秒差、8位は長崎で36秒差という形勢。区間賞は京都の高校生・山本釉未であった。



大阪が中盤を支配

第5区(4.107km)
 跨線橋のアップダウンのあるコースである。
 4区で区間賞をもぎとって上げ潮ムードの京都はここも高校生の太田咲雪、1km手前で神奈川の古田島彩をとらえてトップに立った。しかし後ろから大阪の塚本夕藍、福岡の下森美咲が追ってきて4チームのトップ集団となってしまう。
 激しい主導権あらそいのなかで先に仕掛けたのは塚本だった。跨線橋の下りにさしかかったところでスパート、京都以下を一気に突き放した。福岡の下森も太田をぬいて2位に浮上してくる。
 宝ヶ池の中継所にトップでやってきたのは大阪の塚本、3秒遅れで福岡、17秒遅れで東京、21秒遅れで長崎、26秒遅れで京都は5位と失速して3連覇に黄信号がともった。6位は神奈川で34秒遅れ、7位は千葉で37秒遅れ、8位は愛知で39秒遅れであった。区間賞は千葉の上杉真穂である。

第6区(4.087km)
 トップをゆく大阪の薮谷奈瑠が快調にトップをひたはしる。福岡の福山光も悪くないがその差はつまらない。後ろは東京の鈴木美海、2kmすぎで神奈川の近藤希美が京都の池田悠音に追いついて4位グループとなる。
  薮谷は福山に追わせず、福山を抜いて2位まで来た鈴木にも追わせずそのままトップでタスキを渡した。2位は東京で7秒差、3位は福岡で9秒差、4位は神奈川で17秒差、5位は長崎で23秒差、6位は愛知で27秒差、7位は千葉で31秒差、京都は8位まで後退して34秒差でうづいていた。区間賞は神奈川の近藤希美だった。

第7区(4km)
 トップをゆく大阪の白川朝陽、後ろでは東京の河野花と福岡の西松美樹がならんで追ってきた。今出川通りに出て1km手前で白川の背後に迫った。3チームで先頭集団を形成、トップ争いははげしくなる。
 東大路にはいってひとたび西松がトップに立ったが、白川、河野ははなれることなくくっついてゆく。今出川に出たところで、3チームは横並びの展開になってしまう。トップ争いは熾烈をきわめた。あるいはこのレースの命運をかけた区間ともいえた。
 のこり600mで白川がスパートするも西松も、河野もねばる。残り400mでこのどは河野がスパートするも決着がつかない。最後はのこり200mで白川がわずかに先んじて中継所にとびこんだ。
 かくしてトップは大阪がまもり、2位は福岡で1秒差、3位は東京で2秒差、4位は神奈川で15秒差、5位には京都があがってきて23秒差、6位は愛知で25秒差、7位は長崎で53秒差、8位は千葉で64秒差。区間賞は京都の細谷愛子と福島の岩崎麻知子である。


見どころのあったアンカー勝負!

第8区(3km)
 トップから6位までが25秒差のなかにいるというまれにみる混戦状態の中で、8区は中学生区間である。
 ここでまたレースをガラガラポンにしてしまったのが福岡である。
 福岡のランナー菅原心菜は懸命に前を追い、1kmでトップ大阪の川村璃央をとらえてしまう。ひとたびトップに立つも川村も東京の大木優奈もくっついてはなれない。2kmでは大木が前に出たが、すぐに菅原が抜き返す。
 最後は残り700で福岡の菅原が抜け出した。
 福岡がトップでタスキリレー。2位は東京で2秒差、3位は大阪で5秒差、4位は神奈川で8秒差、5位はきゅとで22秒差、6位は愛知で35秒差、7位は千葉で63秒差、8位は長崎で90秒差となっていた。ちなみに区間賞は福島の木戸望乃実であった。

第9区(10km)
 8区を終わってトップから6位までが35秒差、10区の距離から考えれば、いずれにもチャンスがあるという形勢のなかで勝負はアンカー対決に持ち越された。
 トップを行くのは福岡の逸木和香菜を東京の唐沢ゆりが追ってゆく。後ろは神奈川の佐藤成葉が大阪の松田瑞生に追いついて3位グループで前を追い始める。
 1kmで唐沢が逸木に追いついてトップグループなるも唐沢が前に出る。二
人はともに九電工のランナー、あるいは二人で引っ張り合いをしてゆこうという算段か。3位グループはじりじりと先頭集団との差を詰めてゆく。そしてとうとう北大路の上り坂で追いついて京、大阪、神奈川、福岡が先頭集団を形成することになる。
 先頭集団をひっぱり常に支配したのは大阪の松田だった。素軽さはないが力強い走りでぐいぐいと体を前に運んでゆく。4チームのトップ集団は長くは続かなかった。2.7kmになって松田が前に出ると佐藤はついたが、唐沢と逸木はは遅れ始めた。
 このとき注目すべきは5位の京都の柳谷日菜のポジションである。トップ集団の動きをうかがうかのように後方でたんたんと走っていた。タスキ渡しのときから、それほど離れてはいないのである。なんとも不気味な存在にみえた。
 3kmをすぎると先頭は松田と佐藤のマッチアップになり、優勝はほぼこの2チームにしぼられた。後ろはひらく一方である。
 5kmの中間点を大阪と神奈川がならんで通過。3位福岡とは19秒差、4位東京とは23秒差ついていた。
 レースの主導権は松田がにぎっていた。佐藤はその松田の背後に影のようについていた。しかし松田が下りになってペースを上げるとその差はひろがりはじめた。6kmでは9秒差となり、そこから松田の独り旅となった。7kmではその差20秒になってしまった。
 後ろでは京都の柳谷がひたひたと追ってきた。唐沢をとらえて4位にあがり7kmでは福岡とも18秒差に迫っていた。8kmでは逸木を抜いて3位に浮上すると2位の佐藤を追いはじめた。
 残り1km、トップを独走する松田はやや苦しそうな表情になったが走りは寸分のゆるぎもない。圧倒的な力の違いをみせつけて、そのままタケビシスタジアムのゴールにとびこんでいった。大阪にとっては8年ぶり4度目の制覇である。むろん区間賞は松田瑞生である。
 2位には残り1kmすぎで神奈川の佐藤をとらえた京都の柳谷がグランドにあらわれた。3連覇を逃したが最後はきわどく2位にすべりこんで意地を見せたというべきか。

 優勝した大阪の勝因は前半からつねに好位置をキープしていたこと。区間賞こそ松田のひとつだけだが、悪くとも4位で常にトップがみえる位置につけていた。さらに決定力のある松田というエースの存在である。松田瑞生、いまや新谷仁美とともに日本の女子マラソンのトップにある。そんな彼女が最後にひかえていて、トップが見える位置でタスキをもらいというお誂え向きの展開なったのである。
 2位の京都は3連覇をのがした。優勝争いをしたうえでの2位だから、それほど価値はないが最後になってようやく意地を見せた。立命館宇治の山本と細谷が区間賞、9区の柳谷が区間2位の快走、しかし前半の出遅れで流れにのれなかったようである。
 3位の福岡は大健闘である。3区以降はつねにトップがみえる位置をキープ、最後まで優勝争いに絡んでいた。区間賞はひとつもないが、全員が堅実に走ったといえる。
 4位には神奈川が粘りこんだ。2区と6区で区間賞、アンカーの佐藤成葉が最後まで松田と競り合い、優勝争いにきわどくからんでいた。
 5位には東京のこった。5区の増渕祐香で3位まで浮上して2位でアンカーにつなぎ、大阪、神奈川と優勝争い演じた。中学生・高校生、大学生が着実に走った。
 東京、大阪、京都、神奈川、さらに福岡……。東日本、近畿、西日本の雄というべき主力が上位を争うという稀有な大会となった。大会史上をかえりみても、これは初めてのことではないか。
 高校生の強い長野と宮城は候補の一角であったが、ともに今回は1区で大きくつまずいて不発に終わった。


◇ 日時 2023年01月15日(日)12時30分スタート
◇ 場所 京都市
◇ コース 西京極競技場発着 宝ヶ池国際会議場前折り返し9区間49.195Km 
◇ 天候:くもろ 気温:13.2度 湿度:60% 風:北0.1m(12:00)
◇ 大阪(水本佳菜、中島紗弥、増田来瞳、佐藤千紘、塚本夕藍、薮谷奈瑠、白川朝陽、河村瑠央、松田瑞生)
公式サイト
NHK:
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