資生堂が16年ぶり2度目の制覇
  選手層の分厚さで創業150周年v

 

 最大の見どころは3区
 新鋭、ベテラン入り乱れて三つどもえの死闘

 

  駅伝はケンカである。
 トラックはレースだが駅伝はケンカである。そう言い切ってっはばからない。
 過去をかえりみて、たとえば弘山晴美、福士加代子、渋井陽子、赤羽有紀子などなど。ハナからぶっこんでいってゴボウヌキの走りはいかにも駅伝のおもしろさにあふれていた。……
 近年、そんないかにも駅伝ランナーらしい、ケンカ走りをするのは誰か? まずは新谷仁美と廣中璃梨佳があげられる。そんな2人が激突した第3区は、本大会をみわたして、最大のみどころとなった。
 強風がすんさぶなか、資生堂、積水化学、JP日本郵政、上位を争うであろうとみられたいた3強が、奇しくもエース区間といわれる3区でトップを激しく争った。そういう意味でも興味ある区間であった。
 2区を終わってトップをゆくのは資生堂の一山麻緒、JP日本郵政の廣中璃梨佳は47秒遅れの4位、積水化学の新谷仁美はそこから3秒遅れと、それほど差のない5位でタスキをうけている。後ろからはダイハツの加世田梨花がくらいついてきて4位グループとなる。前をゆくは豊田自動織機の川口桃佳、2位のヤマダホールデングスの筒井咲帆まではおよそ18秒であった。
 4位グループをひっぱるのは廣中、ぐいぐいと前を追ってゆく。2kmあたりでどういうわけか新谷がじりじりと遅れ始める。廣中、加世田がマッチアップとなり、3km手前では2位集団との差は5、6秒となり、射程距離にはいってくる。
 この時点で、トップをゆく一山は安定したペースでゆうゆう……。3kmの通過が9:29と快調。しかし後続の争いは風雲急をつげてくる。廣中はギアを上げて、3.7kmでとうとう2位集団の筒井、川口をとらえて2位に浮上してくる。
 5kmになると一山のペースは1km=3:10とまずまずだが、表情がやや苦しくなる。後ろの廣中は20秒と迫り、後ろはひとたび落ちた新谷がふたたび3位にあがってきて、川口、加世田、筒井がつづいている。後ろからはパナソニックの渡邊菜々美、九電工の逸木和香菜、エディオンの西田美咲が7位グループをなして追っていた。
 7.5km、廣中はとうとう前をゆく一山の背後にについた。しばらくは一山も必死に粘っていたが、8.2kmあたりで廣中が抜け出した。8.9kmになると一山の後ろは新谷が追い上げてきて一山をとらえて2位に浮上、かくして廣中と新谷のマッチアップになるのである。
 10kmになると廣中のすぐうしろに新谷がやってきた。前半で遅れたのはあえて死んだふりを装う高等戦術だったのか。それはともかく、ここから二人の壮絶な区間賞御争いがはじまった。
 10.3kmで新谷が廣中をかわすも廣中も粘り併走にもちこむ。新谷が出たかと思うと、廣中が追いついて前に出る。ベテランと新鋭による長距離界日本のエースの意地とプライドをかけた闘いがはじまった。
 最後は新谷が前に出て、勝負はついたかと思いきや、残り300mで廣中がスパートして、中継所ではわずかに先にタスキを渡した。
 しかしその差は2秒、2人がタスキをもらったときの差が3秒だったので、区間賞は1秒差で新谷仁美ということになった。
 廣中はこれまで、出場した駅伝のすべてで区間賞を手中にしていた。よって新谷がその連続区間賞をストップしたことになる。新谷のベテランらしい冷静な対応、順位はぜったに譲らないという廣中の根性、まさに壮絶な闘いであった。長距離界のトップをゆくベテランと新鋭の強烈な走り、ふたりのケンカ魂にぶつかりあいは火花が散っていた。


 ハナからケンカを売った資生堂・木村友香

 第1区(7.6km)
 オリンピアンの田中希実(豊田自動織機)の実業団駅伝デビューで注目された第1区、どっこい主役はわたしだ、とケンカを売ったのは資生堂の木村友香だった。
 今季、絶好調で資生堂では実力ナンバーワンといってもいい木村はスタートからとびだした。1km=3:01、2km=6:06、3km=9:19というハイペースでぶっとんでゆく。駅伝の主役は私なのよ、といわんばかりの強烈な自己主張……
 強烈な向かい風をものともせずにひたはしる木村を追ったのは、田中とヤマダホールディングスの岡本春美、そのうしろは大集団をなしていた。
 3kmでは木村と田中らの2位集団との差は10秒、そこから4位集団との差も10秒ぐらいだった。田中はあえて追わなかったのか。いや、追えなかったのかもしれない。
 5kmの通過は15:33、区間新ペースである。田中、岡本も懸命に追うのだが、その差はつまらない。後ろの集団からはダイハツの松田瑞生、エディオンの萩原楓が抜け出してきた。
 木村の独走状態になり、6kmでは田中らの第2集団との差は20秒とひらいてしまった。 機先を制したというべきか。木村は終始、田中らに追わせることなく、ゆうゆうとトップで中継所にとびこんでいった。プライドをかけたケンカは木村に分配が上がった。
 2位は豊田自動織機で20秒差、3位は梁田ホールディングスで23秒差、4位はエディオンで45秒差、5位はダイハツで46秒差、6位はJP日本郵政で47秒差、7位はユニバーサルエンターテイメントで48秒差、8位は九電工で49秒差……
 2連覇をもくろむ積水化学、今シーズンは佐藤早也加の調子がいまひとつなのか、50秒遅れの9位と出遅れた。好発進は豊田自動織機、田中めぐみならば当然の結果とはいえ、2位につけ、シード権復帰に期待が高まった。


 4人が区間賞という椿事

 第2区(3.3km)
 資生堂の2区は佐藤成葉である。木村の勢いにのって、ゆうゆうとトップを独走する。昨年は3区のエース区間に出てきて、10000m=32分台のランナーが、2区のような最短区間に出てくるのだから、資生堂の選手層の厚さはきわだっている。
 後ろはヤマダの清水真帆、豊田自動織機の小笠原安香音、さらにJP日本郵政の大田琴菜がエディオンの中島紗弥、ダイハツの西出優月をひっぱり、後ろからは積水化学の卜部欄が追ってくるという展開であった。
 資生堂の佐藤は快走、トップをまもり2位のヤマダホールディングスに29秒もの差をつけた。3位は豊田自動織機で30秒差、4位はJP日本郵政で47秒差、5位は積水化学で50秒差、6位はダイハツで51秒差、7位はエディオンで55秒差、8位は九電工で56秒差おつづいた。なおこの区間の区間1位は4人、資生堂の佐藤成葉、積水化学の卜部欄、JP日本郵政の大田琴菜、パナソニックの内藤早紀子で同タイムだった。

 第3区(10.9km)
 冒頭で再説したとおりである。

 ケンカを売ったのは廣中、新谷はいかにもベテランらしく、どっしり受けて立つというまさに横綱相撲、かくして歴史にのこるせめぎあいとなった。

 レースのほうは、ここでJP日本郵政が4位から奪首した。積水化学、資生堂の3チームが抜け出すかたちになって4区以降、優勝争いがくりひろげられるのである。
 JP日本郵政を追って2位が積水化学で2秒差、3位は資生堂で12秒差、4位はダイハツで33秒差、5位は豊田自動織機で40秒差、6位はヤマダホールディングスで59秒差、7位はパナソニックで1分10秒差、8位はエディオンで1分19秒差であった。
 目立たないが、この区間、注目すべきは第一生命の小海遥である。廣中をはじめ、各チームのエースがそろうなかで区間4位の快走、第一生命を13位から9位まで押し上げた。

 勝負どころでねじ伏せるー五島莉乃が今年も快走

 第4区(3.6km)
 3区と5区のはざまにあるつなぎの区間だが、外国人も走れる区間、ここに資生堂はJ・ジェプングティチを配していた。トップみえる位置でタスキをもらったJ・ジェプングティチは猛ダッシュ、はやくも1kmで2位に浮上、1,5kmでJP日本郵政の大西ひかりをとらえてトップに立ってしまう。
 あとはその差がひろがる一方だった。
 J・ジェプングティチは区間賞、後続を36秒ちぎって5区のエース・五島莉乃にたすきをつないだ。
 4区を終わって2位はJP日本郵政で36秒差、3位は豊田自動織機で38秒差、4位は積水化学絵42秒差、5位以降は1分以上遅れて、ダイハツ、九電工、パナソニック、ヤマダホールディングスとつづいていた。

第5区(10.0km)
 昨年は区間新を更新した資生堂・五島莉乃は今回も5区に登場してきた。
 独走態勢ながら、3km=9:19と区間新ペースでうしろをどんどん引き離しにかかる
 後ろでは積水化学の鍋島莉奈が追い上げてきて3kmで豊田自動織機の籔下明音の後ろにつく。
 五島の5km通過は15:26秒、なおも区間新ペースを維持していた。12秒も上回るペースである。もはや誰も追ってはこない。後続は五島の背中さえみえない状態である。7kmの通貨は21:56、ここでも区間新ペース。
 後ろでは3位に浮上した鍋島がなおも追ってきて、8.8kmでとうとう2位をゆくJP日本郵政の鈴木亜由子おもとらえて2位までやってきた。
 資生堂の五島は終盤ペースダウンして区間新はならなかったが、2位の積水化学に2分13秒の差をつけて、ここで優勝をほぼ決めてしまった。
 資生堂は3区こそ低迷したが4区、5区で圧倒的な力の差を見せつけた。どこからでも軌道修正が効くから強い。
 3位以降はJP日本郵政、エディオン、ダイハツ、豊田自動織機、パナソニック、九電工とつうき、最後のシード権を九電工と第一生命が28秒差でしのぎをけずっていた。
 この区間、後ろで快走したのはエディオンの細田あいである。9位発進ながら2km手前でシード圏内に順位をあげ、その後もじりじりと前を追って、4位までやってきた。五島につづいて区間2位はみごと。

第6区(6.795km)
 資生堂のアンカーは駅伝キャプテンの高島由香、もう普通に走って、タスキをゴールまで運んでゆきさえすればいい。百戦錬磨のベテランがアンカーならば陣営は安心して観ていられただろう。
 高島は力強い走りで、たんたんとピッチをきざみ、そのまま資生堂の16年ぶり2度目の優勝ゴールに駈けこんでいった。
 熾烈をきわめたのは後ろのシード権争いであった。3,5km地点で逃げる九電工の森田真帆と追う第一生命の櫻川響晶との差は10秒と迫っていた。その差はどんどんと詰まって、5.5kmでは3秒差。そして追うものの強みというべきか、5.7kmでとうとう櫻川は逆転、8位に浮上したのである。


 しばらく続くか? 資生堂時代

 資生堂は16年ぶり2度目の制覇で、創業150周年に記念の花を添えた。
 その強さは前評判通りだった。区間賞4つの圧勝、他のチームにつけいるスキさえみせなかった。エントリーされたメンバーはどの区間でも走れるほどの実力者ぞろいである。オーダーからはずれたメンバーのなかにも遜色ない実力者もいる。年齢的にも油ののりきったランナーばかりで、資生堂時代はしばらくつづくのかもしれない。
 2位の積水化学の連覇はならなかった。
 しかし序盤で遅れながら、中盤でなんとか挽回、5区、6区で2位までやってきたのはさすがというべきだろう。2区、3区、6区で区間賞はみごと。ほとんどミスはなかったといえるが、今年はおどかなかったのは地力の差というべきか。
 エースの新谷仁美を昨年の5区から3区に配したのは、資生堂の強さを十分認識していたせいだろう。なんとか3区で安全圏までたどりつき、粘って逃げ切ろうとしたのだろうが、1区、2区で50秒の遅れではいたしかたがなかったというべきか。それほど資生堂が強力だったのである。
 
 JP日本郵政も中盤までは優勝争いいからんでいた。3位は至当なところ。和田有菜など新戦力も育っており、まだまだ上積みはあるだろう。
 4位のエディオンは大健闘というところか。予選会11位ながら堂々のベストファイブ入りである。萩原楓、細田あい、矢田みくにの3本柱が実力を発揮した。初めてのシード権獲得はみごとだった。
 5位のダイハツも終始5~6位をキープ、安定した力のあるところをみせた。
 6位の豊田自動織機はひとえに田中めぐみの活躍によるものだが、わすれていた強豪がもどっきたというところか。
 パナソニック、第一生命というかつての覇者もきわどくシード権をもぎとった。第一生命は最終区で逆転、まだ若い力のあるランナーがいるだけに、このチームは来年が期待できそうである。
 今回、デンソー、ヤマダホールディングス、ユニバーサル・エンターテイメント、ワコールという4チームが9位以降に落ちて、シード権を失った。かわってパナソニック、第一生命、エディオン、豊田自動織機がクイーン8に復帰した。半分が入れ替わるのである。
 昨年は本戦3位だったデンソー、さらにワコールのようなかつての王者でさえも容赦はない。女子駅伝の世界はいかにも消長が激しいなと思う。


◇ 日時:2022年11月27日(日)午後12時15分スタート
◇ 場所:宮城県仙台市
◇ コース:松島町文化観光交流観前(スタート)→仙台陸上競技場(フィニッシュ)6区間計42.195㎞。
◇ 天気:晴れ 気温:15.0℃ 湿度:39% 風:北西 2.0m
◇資生堂(木村友香、佐藤成葉、一山 麻緒、J・ジェプングティチ、五島莉乃、高島由香)
詳しい結果
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