駒澤大が13年ぶり7度目の制覇!
 10区の残り2kmで逆転トップに立つ

 

 勝負というものはまことに非情である。
 215kmあまり走ってきて、残りはあと2km……。タイムにすれば6分前後で、ほとんど奇跡としかいいようのないミラクルが現出しようとしていたのに……。
 復路のスタートからトップをまもりつづけてきた赤青ストライプ、その背後にいつのまにか藤色のユニフォームが迫っていたのである。
 そして……
 20.9km……
 トップはいれかわった。
 合宿所のテレビでなりゆきをみまもっていた創価大の部員たち、一瞬なにがおこったのか理解しかねるというふうに動作が凍りついたシーンが、事のなりゆくのすべてをものがたっていた。まさに十中八九、手中にしていた大魚が、あっけなくこぼれていったのである。
 かくして駒澤大が全日本につづいて二冠を達成!
 結果だけをみれば順当といえるが、レースそのものは大乱戦といおうか、大混戦といおうか。
 新春の箱根路のあちこちで悲喜こもごものドラマが弾けていた。

 レースは第1区(21.3km)からして、波乱ぶくみではじまった。
 今回のエントリーををみると、各チームともに往路重視の布陣で、なかでも1区に主力を投入してきた。当日のエントリー変更で昨年の覇者・青山学院大はエースの吉田圭太、前回2位の東海大はキャプテンの塩澤稀夕、同3位の國學院大は3年生エースの藤木宏太をそれぞれ投入してきた。昨年11月の全日本大学駅伝を制した駒澤大のみは1年生の白鳥哲汰、これは意外であった。順天堂大のスーパールーキー・三浦龍司も予想通り1区にやってきた。
 レースは超スローな展開で幕あけた。隊列は横に大きくひろがり、誰もがようすをみながらで前には出ないのである。
 1km通過はなんと3分33秒、昨年の2分45秒と比べるべくもない。2kmでは、たまりかねたのか。東海大の塩澤が集団をひっぱりはじめる。すぐ後ろに青山学院大の吉田、帝京大・小野寺悠、早稲田大の井川龍人らの顔があった。
 3km通過は9分16秒、5km通過は15分06秒で前回よりも40秒も遅い。21人がひとかたまりの大集団をなしている。8kmの新八ツ山でも大集団、起伏のあるハツ山橋で動きがあるかと思いきや、誰も仕掛けない。8.5kmでは塩澤は集団のなかにもどり、横一線の展開になる。10km通過はなんと30分40秒である。いぜんペースはあがらない。
 11kmでしびれをきらしたのか。國學院大の藤木が集団から飛び出した。早稲田大の井川、東京国際大・丹所健らがすぐ後ろにつけ、後続も離されずについていく。12kmぐらいからペースは少しづつあがり、13kmからタテ長の隊列になり、14kmで山梨学院大の新本駿が集団からこぼれてゆく。15kmでは国士舘大、専修大も遅れ、先頭集団は18人となる。
 六郷橋にはいった17.8kmだった。東洋大の児玉悠輔がするすると前に出る。ペースがあがったここで國學院大、城西大、東京国際大、中央大がややおくれはじめる。
 そして六郷橋下りの18.8kmだった。法政大の鎌田航生がスパート、青山学院大の吉田、東海大の塩澤、早稲田大の井川、創価大の福田がくらいついて追ってゆく。塩澤が20kmで鎌田に追いついて先頭争い、後ろは青山学院大の吉田、早稲田大の井川、創価大の福田が懸命に追ってゆく。
 先頭争いの主導権をにぎっていたのは鎌田、のこり1kmの表示を過ぎて2段スパート、塩澤との差はひろがりはじめた。塩澤も懸命に追ったが届かず、なんとなんと鎌田がトップでタスキリレー!である。
 2位は6秒差で東海、3位は大健闘の創価で16秒遅れ、4位には神奈川がとびこみ17秒差、5位は同タイムで早稲田、青山は6位で18秒差、7位は日本体育大で22秒差、8位は城西で22秒差、9位は東洋で24秒差、10位は順天堂で31秒差……となった。候補の一角、駒澤は47秒差の15位、明治はさらに遅れて、1分06秒差の16位というのは意外だった。
た。
 第1区は各陣営ともに主力を投入してきたせいだろう。トップから30秒差内に10校がはいっている。往路が大混戦になったのは多分にそのせいだろう。

 第2区(23.1km)にはいると、2位発進の東海大・名取燎太が1,4kmで法政大の河田太一平に追いつき、その差をじりじりとひろげていった。後方では青山学院大、早稲田大、日本体育大、神奈川大、城西大、東洋大、創価大の7チームが3位集団で追っていた。
 5kmを東海大の名取が14分12秒で通過。2位は法政大。そのしろは青山学院大、早稲田大など7チームが3位集団で追い、さらにその後ろから14位発進の東京国際大のイェゴン・ヴィンセントが順位をあげてじわじわと差を詰めてくる。
 6.6kmで3位集団の7人が法政大に追いつき、法政大、青山学院大、早稲田大、日本体育大、神奈川大、城西大、東洋大、創価大の8チームが2位集団となるも、6.8kmでヴィンセントが一気に2位集団の横をすりぬけていった。8人を一気に抜き去り14人抜きで2位に浮上したのである。ヴィンセントに創価大のフィリップ・ムルワがくらいつき、2人で東海大を追いはじめたのである。
 そして9.2km、ヴィンセントとムルワが東海大・名取をとらえてしまう。名取も後ろにピタリとついたが、その差はすこしづつひろがっていった。
 13kmになるとヴィンセントにくっついていたムルワが遅れだし、その差は開き始める。 そのうしろを名取が追い、日本体育大の池田が名取との差をどんどんつめてくる。
 権太坂でもヴィンセントのペースは落ちなかった。坂を下って、ヴィンセントとムルワとの差は5秒。21秒遅れで東海大と追ってきた日本体育大。先頭から39秒差で東洋大、神奈川大、早稲田大、城西大の5位集団が通過するも、青山学院大は2区スタートから順位を4つ落として10位。駒澤大は田澤で順位を4つ上げて11位に浮上してきた。
 18kmになるとヴィンセントが完全に抜け出し、ムルワとの差は20秒、3位集団をなす東海大の名取と日本体育大の池田がムルワを15秒差で追い始めた。二人は並走で、ムルワとの差をどんどんつめてゆく。
 もっとも厳しいラスト3kmになってもヴィンセントは大きなストライドで押してゆく。区間新ペースは最後までゆらぐことなく、東京国際大がトップ通過を果たした。2位は59秒遅れで創価大、3位は東海大で1分01秒遅れ、4位は日本体育大で1分02秒遅れ、5位は東洋大で1分05秒遅れとつづき、駒澤大は田澤が意外に伸びずで1分39秒差の8位まで上げてくるのがやっとというありさま。明治大はさらに順位を一つ落として4分20秒差の17位に沈んでいた。

 第3区(21.4km)にはいると東海大学の石原翔太郎がやってくる。3kmすぎでは東京国際大の内田光がトップ、創価大、東海大、日本体育大、東洋大が2位集団をなしていたが、そこから1年生の石原が抜け出して単独2位に浮上、東京国際大を追い始めたのである。8km地点では猛追する石原が内田との差を26秒差まで詰めていた。20秒ほど遅れて3位は創価大。トップから1分1秒差で駒澤大が4位に浮上。さらに2秒差の5位で東洋大がつづき、そこから6秒遅れの6位で日本体育大。以下、7位・神奈川大、8位・早稲田大、9位・拓殖大、10位・順天堂大とつづいていた。青山学院大は中継所からから2つ順位を上げ、先頭から2分21秒差の11位につけていた。
 石原はさらに追い上げて、10.8kmではとうとうその差は4秒となった。石原の表情はゆがんでいるが、内田も口がひらいてあえいでいる。そして11.4kmあたり、石原は内田に追いすがり、並ぶまもなく前に出た。3区で候補の一角・東海大が奪首に成功したのである。東海大の石原はその後も快調な走りで後続を引き離し、トップでタスキリレーした。
34秒遅れの2位は創価大。3位は56秒遅れで駒澤大、4位は東京国際大、5位は東洋大、6位は帝京大、7位は順天堂大。以下、8位は早稲田大、9位は神奈川大、10位は日本体育大とつづいたが、青山学院大は11位でトップ東海大から3分55秒の差がついていた。

 4区(20.9km)にはいると逃げる東海大の1年生・佐伯陽生を創価大の嶋津雄大が追ってくる。嶋津は前回10区区間賞のランナー、3kmですでに14秒も詰まっていた。5kmになるとその差はわずか5秒となり、じりじりと差は詰まってゆく。とうとう5,6kmで嶋津が佐伯をとらえて、あっさりとトップに立った。佐伯は嶋津の背後についたが追えなかった。その差はどんどんとひろがり、4区で創価大はトップに立ち、独走態勢となってしまう。
 9kmすぎではトップは創価大・嶋津、34秒遅れで2位は東海大の佐伯、駒澤大と東京国際大が3位集団をなして1分9秒差、5位は帝京大、6位は東洋大、7位で順天堂大、以下、8位に早稲田大、9位に神奈川大、10位に日本体育大とつづいたが、青山学院は伸びずで11位、日本体育大から1分1秒の差がついていた。
 東海大の佐伯は勢いがつかずに、ずるずると後退、17kmすぎで駒澤大の酒井にとらえられ、東京国際大、早稲田、東洋にもつかまってしまう。
 トップの創価大・嶋津は安定した走りで駆け抜け、トップで5区の三上雄太にタスキをつないだ。1分42秒差の2位で駒澤大、3位に早稲田大がやってきた。4位は東京国際大、トップから2分10秒差の5位で東洋大、山登りのスペシャリスト・宮下隼人が走り出す。そこから10秒遅れの6位で東海大はが3年連続の5区の西田壮志に期待をつないだ。7位は順天堂大、8位は帝京大、9位は神奈川大、そして10位に青山学院大がやってきて、トップからら3分41秒遅れで竹石尚人がスタートした。

 第5区(20.8km)、往路の最終区である。
 4区でトップに立った創価大、果たして逃げ切れるかどうか。2位の駒澤大との差は1分42秒、山登りのスペシャリストというべき宮下隼人との差は2分10秒である。
 三上の1kmのラップは2分57秒、トップをゆくランナーらしく、ゆったりとした入りである。後ろからは予想通り東洋大の宮下が順位をあげてくる。3kmで早くも東京国際大の荒井雄哉、早稲田大の諸冨湧をかわして3位まであがってきた。
 3.6kmの函嶺洞門では2位の駒澤との差は1分46秒だから、差はむしろひらいている。東洋大宮下との差も2分03秒で、それほど詰まっていない。三上は快調に逃げている。4位は早稲田、5位は東京国際大、6位は東海大、7位は順天堂大、8位は帝京大、9位は神奈川大。10位は青山学院大とつづいていた。
 山道にはいって宮下が駒澤大の鈴木を追いはじめ、その差はどんどんと詰まってくる。6kmすぎで追いつき、並走のかっちで前を追い始める。
 トップの三上はたんたんとしたペースをきざんでゆく。大平台のヘアピンカーブで、2位集団との差は1分54秒、東洋と差はややつまったものの、三上は快調に逃げている。宮ノ下では、1分48秒と7秒つまったが、、大平台からさらに7秒ほど縮まるが、小涌園前ではふたたび1分53秒差となる。三上は安定したペースは保っている。このあたりから創価大の音路優勝が現実味をおびてきた。
 宮ノ下では三上と駒澤の鈴木を引き離した宮下との差は1分46秒差とややつまったが、流れは変わらない。三上の走りは下りになっても軽やかでゆるぎがなく、後続の追撃をゆるさなかった。かくして三上は両手の人差し指を突き上げ、往路優勝のゴールにとびこんでいった。
 2分14秒遅れの2位で東洋大。さらに7秒遅れの3位に駒澤大。4位には4つ順位を上げた帝京大が入った。5位の東海大は1位から3分27秒差。さらに30秒差の6位で東京国際大。以下、7位・順天堂大、8位・神奈川大、9位・國學院大、10位・拓殖大。5区スタートから8つ順位を下げた11位の早稲田大は、シード圏内の10位とは11秒差。青山学院大はトップから7分36秒差の12位。前回覇者がまさかの結果となった。
 創価大の往路優勝を誰が予想しえただろうか。
 けれども結果からみると、区間賞こそないが、全員が区間6位以内で堅実に走った。1区、2区の福田、ムルワのエースが好発進すると、3区の葛西が区間3位で走った。4区の嶋津が区間2位で先頭に立つと、山登りでも三上が区間2位で走って逃げ切ってしまった。候補といわれたチームはそれぞれどこか大きくつまずいたが、創価大はミスというものがなかった。それが最大の勝因といえる。

 4強といわれた大学のうち往路で2チームが脱落した。連覇をねらう青山学院大は7分36秒差の12位、明治大にいたっては7分56秒差の14位である。踏みとどまっているのは2分21秒差で3位の駒澤大、そこから1分06秒遅れの東海大学であった。復路のみどころはこの2チームが創価大にどこまで迫るかであった。
 各陣営とも往路重視で、ビッグネームのランナーを往路で使い尽くしている。復路はどれだけ粘りを発揮できるかがポイントであった。そういう意味から、創価大の逃げ切りも十分ありうる情勢だった。

 復路の6区(20.8km)
 逃げ切りで総合優勝をねらう創価大は6区に当日エントリー変更で2年生の濱野将基を起用してきた。
 先頭の創価大の濱野がゆうゆうと逃げるが、後ろはあわただしくなった。2,8kmで東洋大の九嶋恵舜に駒澤大の花崎悠紀が追いついて2位にあがる。4kmすぎでは東海大の川上勇士が帝京大の三原魁人をとらえて4位までやってきた。
 トップの創価大・濱野は下りにはいっても快調だった。9kmの小涌園前を軽快に走り抜けてゆく。駒澤大・花崎はスタートから23秒差を詰めて2位で通過。3位は東洋大の九嶋、4位の東海大はトップから3分38秒で差はひろがっている。東京国際大が5位浮上、7位発進の順天堂大と5位争いをくりひろげている。4位発進の帝京大は7位まで落ちてきた。8位は神奈川大、さらに國學院大、早稲田大と続いた。10位の早稲田大と11位の青山学院大とは11秒差、そこから8秒遅れで城西大と拓殖大がつづいていた。。
 大平台のヘアピンカーブ(13.4km)でも創価大の濱野がトップで通過、2位でやってきた駒澤大・花崎は、さらに14秒つめてきた。勢いからみてどうやら、総合優勝は創価大と駒澤大の2チームにしぼられた観あり……。。
 15kmも創価大の濱野がトップ通過、足どりはまったくかわらない。函嶺洞門(17km)のバイパスでは、駒澤との差はさらに詰まった。1分29秒、スタート時から1分近く差を詰めてきた。東海大が3位浮上。5秒遅れの4位で東洋大が通過。5位の順天堂大・清水は区間賞ペースの快走で前を追ってゆく。
 創価大の濱野は下りを終えた箱根湯本駅からの平坦なコースも無難にこなしてトップでタスキリレー。首位をまもった。2位は駒澤大でその差は1分9秒差、先頭から3分23秒差の3位で東海大。さらにそこから7秒遅れの4位で東洋大、5位は順天堂大、6位で神奈川大、7位は東京国際大。さらに8位・國學院大、9位・帝京大とつづき、青山学院大はここで10位にあがり、シード圏内でタスキリレーした。11位の早稲田大との差は11秒であった。

 第7区(21.3キロ)
 逃げる創価大、追うは駒澤大学……。
 新参と古豪のマッチアップとなった。
 5km通過は逃げる創価大の原富慶季は14分31秒、追う駒澤大の花尾恭輔は14分17秒。14秒つまったが、原富はしぶとかった。9kmでは逆にひろがりはじめた。そして二宮(11.6km)では1分17秒、7区スタート時から9秒ひろがってしまう。後続の3位は東海大で3分38秒遅れ、トップ争いする両校とは差がひろがってゆく。4位は東洋大で、エース・西山をもってしても、東海から28秒遅れの4位。5位は順天堂大、6位は東京国際大。そして青山学院大が順位を3つ上げて7位にやってきた。8位は國學院大、9位は神奈川大。10位は帝京大で、26秒遅れで早稲田大が追っていた。
 創価大の原富は快調に逃げ足をのばす。15.0kmを44分31秒で通過、2位の駒澤大の花尾は44分54秒、差はさらにひろがって、スタート時から23秒ひろがってしまった。
 創価大の原富がトップをキープ、追ってくる駒澤大との差をひろげて、トップでタスキをつないだ。2位は駒澤大で1分51秒遅れ。3位の東海大は先頭から4分27秒遅れ、4位は東洋大。5位は東京国際大、6位は順天堂大。トップから7分01秒遅れの7位で青山学院大がつづき、8位・國學院大、9位は帝京大。10位は早稲田大で、ようやくシード権圏内までやってきた。

 第8区(21.4キロ)にはいっても創価大は快調だった。永井大育がリズミカルにピッチをきざんでゆく。駒澤大の佃康平もけんめいに追い、7kmあたりでその差を17秒つめていた。差は少しづつつまりはじまる。
 遊行寺の坂(15.6km)で創価と駒澤との差は1分24秒、8区のスタート時から27秒つめてきた。その後ろでは東洋大が3位に浮上。東海大が4位に後退、5位は青山学院大で、ここまで押し上げてきた。6位は順天堂大、7位が東京国際大、8位で國學院大と帝京大が並走する。10位は早稲田大だが、11位の神奈川大との差は12秒であった。そこから57秒遅れで明治大がここまで上げてきていた。
 逃げる永井と追う佃の差はじりじりと詰まってゆく。18kmすぎでは1分19秒となったが、追撃もここまで。この区間も創価大がトップを死守した。トップの走りというのはランナーに勇気をあたえる。おおきくガッツポーズで9区のランナーを送り出す永井、タスキを受けた9区のランナー石津は自信にみちた表情で駆け出していった。
 2位の駒澤大は1分28秒遅れ、トップから4分17秒遅れの3位で東洋大、さらに1分37秒遅れの4位で東海大。5位には順位を2つ上げた青山学院大、6位は順天堂大、7位は東京国際大、8位には國學院大、トップから8分5秒遅れで早稲田大と帝京大がほぼ同時にタスキをつないだ。

 9区(23.1キロ)は、まさに総合優勝の天下分け目の戦場、逃げる創価大、追う駒澤大の動向によって、一気に勝負の流れがかたむくだろう。両者の差がひろがれば、創価大、詰まれば追う駒澤に勢いがつく。
 トップを行く創価大の石津佳晃はひたすら逃げた。権太坂(7.7km)もそつなく登ってゆく。だが追う駒澤の山野力の走りにはいまひとつキレがない。その差はここで2分05秒と36秒ひろがってしまった。石津は快調である。14kmすぎの横浜駅通過では区間記録を上回っている。さわやかな落ち着いた表情で給水を受けとった。
 20kmをすぎても石津は回答でいぜん区間新ペース、力強い走りである。駒澤大の山野との差は2分49秒、9区スタート時から1分20秒も差がひろがってしまった。
 創価大の石津は微笑みながらタスキリレー、区間新こそのがしたが、ここで区間賞の走りはみごとだった。2位の駒澤大は3分19秒遅れ、2大会ぶりの3位以内を目指す東洋大はトップから6分11秒遅れの3位、4位は東海大との競り合いから抜け出した青山学院大、5位は東海大、6位は帝京大、7位は早稲田大、8位は順天堂大、國學院大が9位、10位は3つ順位を落とした東京国際大となった。

 最終10区(23.0キロ)は全区間を通じて3番目に長いコースである。だが、勝負はすでにして9区で決した観があった。レースは完全に創価大のペースにはまったと思えた。その差3分19秒といえば、距離にして1km以上もあるのだから……。
 4km通過が12分17秒の創価大・小野寺勇樹にとってのこり19kmはそのままビクトリーロードになるはずだった。
 だが駒澤大の石川拓慎はあきらめていなかった。背中すら見えない小野寺を懸命に追ってゆく。差はじりじりと詰まりかげんではあった。けれども創価大の小野寺も安定した走りで前をゆく。
 八ツ山橋(13.3km)では、さらにその差はつまって1分57秒差、スタート時から1分22秒もつまった。だがまだまだ余裕ありで、3分強のペースならば逃げ切れる。だが、差はじりじりと詰まってゆく。17km手前では1分17秒……、小野寺の顔はときおりゆがんで苦しそうのなる。18kmすぎだった。小野寺のペースはにわかにおちた。この間の1kmは3分26秒もかかったという・追っかける石川は2分55秒で、なんと1kmで47秒もの差、つまり1kmで200mつまる計算になる。ここで勝負の流れ一変した。
 田町では1分17秒差、御成門では47秒差、馬場先門ではなんと15秒差に縮まった。そして、20.9kmでついに石川が小野寺をとらえた。石川は並走しながら、苦しみにあえぐ小野寺の表情をちらと見て、一気にスパートした。小野寺にはもう追う余力はなく、その差はみるみるひろがった。。
 最終区、それも最後の最後で逆転……。まったく信じられないようなドラマが画面のくこうでくりひろげられ、あっけにとられてしまった。
 駒澤大アンカー石川はそのまま大手町のゴールにすっとんでゆき、両手のこぶしを握り締めてゴールテープを切った
 かくして駒澤大が逆転の総合優勝!総合記録は10時間56分04秒(速報値)。2位は創価大で小野寺はゴールした瞬間、地面に倒れこみ、担架で運ばれていった。トップのタスキを背負ったのが重荷だったのか。おそらく脱水症状だったのではあるまいか。東洋大は青山学院を抜き返して3位、5位は東海大。6位は3チームによるスパート合戦となり、早稲田大、順天堂大、帝京大よつづいた。9位は國學院大。10位の東京国際大がはいり、次回のシード権を獲得した。11位の明治大はわずか26秒でシード権をのがした。

 レースがここまでもつれたのは、往路に各校ともに主力を投入してきたからだろう。1区では信じられないようなスローペース、その結果、上位と下位に有意差が出なかった。それぞれ主力を投入してきているので、1位から17位までがトップから10分以内にはいっていた。エースといわれたランナー、注目の1年生といわれたランナーたちが思ったほど力を発揮できなかったのも紛れの原因になったのだろう。
 それはともかく……
 優勝した駒澤大学は13年ぶり7度目の制覇である。大八木監督の執念というべきか。
 往路は大苦戦、復路も9区でひきはなされて、ほとんど絶望的だった。幸運にめぐまれたといえばそれまでだが、勝負をあきらめなかった粘りが最後にモノをいったということか。復路は区間賞が二つ、ほかのランナーも区間6位以内にまとめミスがなかったのが勝因だろう。全日本につづいての制覇であることを思えば、まずは順当な結果だったといそうである。
 創価大は惜しかった。あれよあれよの往路優勝、復路も最後の2kmまでレースを支配していた。9区をおわったとき、もはや勝負あり……と思った。だが最後の最後で大魚は手からこぼれていった。しかし大健闘である。最後の最後のミスが致命傷になったが、これも実力のうちだろう。着実にチーム力は上向いており、来年も台風の目になりそうである。
 3位の東洋大は終わってみれば、いつのまにか3位に来ていたという感じである。とびぬけたエースはいないが総合力がモノをいったということだろう。
 4位は青山学院大学である。往路12位から盛り返してきたのはさすがというべきか。復路優勝で潜在力のあるところをみせつけた。
 5位は東海大学、優勝候補の一角とさえていたが、チグハグな戦いぶりだった。往路でエース3枚を投入しながら、5位に甘んじたのが敗因だろう。
 早稲田は往路で紛れがあった。前半でトップをうばうもくろみがならず、なんと11位である。復路でそこから盛り返しての総合6位はまずまず評価できるだろう。
 予選会からあがってきたチームでは順天堂大が7位に残った。予選会1位の実力からし順当な結果だろう。3年生以下のランナーが多いだけに、来年は期待できそうである。鳴り物入りのルーキー・三浦龍司は実力を発揮できずに終わった。来年はひとまわり大きくなってもどってくることを期待したい。
 何よりもコロナ禍のなかで大会が無事にひらかれたこと、ファンとしては何より喜びたいと思う。
 だが、ほとんど感染爆発という首都圏の現状のなかでの開催である。果たしてそれでよかったのか。その是非については議論のあるところだろう。
 無観客、沿道での無応援のレースとされていた。たしかに発着の大手町・読売新聞社まえは係員だけで、観衆はみあたらなかった。だが、沿道は人であふれかえり「蜜」になっているところがまま散見された。
 箱根駅伝は新型コロナウイルスによる感染症の感染拡大になっていないことをせつに祈りたい。

◇ 日時 2020年1月2~3日(祝) :午前8時00分 スタート
◇ コース: 東京・読売新聞東京本社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(108.0Km)、復路5区間(109.9Km)の合計10区間(217.9km)
◇天気:往路  気温:度 湿度:% 風:東南東m(スタート前)
 :復路 晴れ 気温:度 湿度:% 風:北西m
◇駒沢大学(白鳥哲汰、田澤廉、小林歩、酒井亮太、鈴木芽吹、花崎悠紀、花尾恭輔、佃康平、山野力、石川拓慎)
◇公式サイト:http://www.hakone-ekiden.jp/
◇総合成績:https://api.hakone-ekiden.jp/storage/top_setting/tournament/64.pdf