駒澤大が6年ぶり、13度目の制覇!
     アンカー決着でエースが決めた!

 

 最終区まで勝負のゆくえが、まったく見えてこない。
 まさか、そんな展開になるとは夢にも思わなかった・
 7区をおわって、アンカーにたすきがわたったとき、トップをゆくのは青山学院大の吉田圭太、39秒遅れで東海大学の名取燎太、そこから2秒遅れて駒澤大の田澤廉が追っていた。さらに4位には明治大の鈴木聖人が追っていた。
 前半は波乱含みだったが、なんのかんのとありながら最後は3強の争いにしぼられた。
 青学陣営はアンカーの吉田にタスキがわたったとき30秒の差があれば逃げ切れると読んでいた。6区で6位にあまんじていた青学は7区の神林勇太の快走でトップを奪い、きっちりと筋書き通りの展開に持ち込んだのである。
 その差39秒、追う側としてはギリギリのところだった。しかし名取と田澤がたがいに競りながら追っかければ、あるいは……。
 かくして名取が引っ張り、田澤が背後につくというかたちで吉田追撃がはじまった。吉田の1㎞の入りは2:46……。余裕をもって逃げる。名取、田澤はけんめいに追う。3㎞通過は8:36、4㎞通過地点ではトップと後続の差は30秒になった。
 名取、田澤は並走、たがいに競り合いながら、先頭との差をじりじり縮めてゆく。8㎞ではなんと、その差は10秒にまで縮まった。さらに4位でつづく明治大の鈴木聖人もトップとの差を詰めてくる。
 そして……
 9㎞手前でレースは動いた。名取と田澤が中間点の直前に吉田をとらまえてしまう。だが追いついて二人はすぐに前には出ずに、トップ集団となる。
 集団がくずれたのは10.7㎞あたりだった。吉田が名取と田澤につけなくなった。けんめいに腕をふり立て直しにかかるが、ペースがあがらず、じりじりと遅れ始めたのである。
 先頭は名取、背後霊のように田澤がくっつき、12㎞では吉田との差は10秒ほど、明治の鈴木も快走して、トップから30秒前後につけていた。
 青学を振り切りマッチアップになった名取と田澤、どちらが、どこで、どのように仕掛けるかが焦点となった。
 14㎞、15㎞、両者の並走はゆるがない。トップをゆく名取、いくぶんその表情が緊張している。田澤はほとんど表情がかわらない。
 16㎞、長いのぼり坂にさしかかった。名取がゆくかと思いきや、並走はくずれない。あるいは行こうとしても行けなかったのか。たがいに表情をうかがいながらピッチを刻んでいる。どちらが、どのように勝負に出るのか。まさに駅伝観戦の醍醐味を満喫する瞬間がつづいた。
 18㎞になっても、どちらも動かずでもどかしかったが、18.5㎞になって、ようやく展開がうごいた。仕掛けたのは田澤である。瞬時、名取の前に出たのである。名取はついてゆけるかとおもいきや、そこで田澤が一気にスパート。たちまちその差はひらき、田澤は名取を置いていったのである。
 田澤はそのまま、両手をあげながら、ゴールにとびこんでいった。つづいて東海大の名取、3位には青学の吉田をかわして、明治の鈴木がとびこんだ。
 最終区19.7㎞、一瞬たりと眼をはなせないレース展開だった。

 眼離しできないといえば、本大会は1区から波乱含みの展開で、見どころもたくさんあり、5時間あまり、テレビの前を離れられなかった。
 第1区(9.5㎞)は短い距離だが、めまぐるしくトップが変動するスリリングな展開だった。札幌学院大のローレンス・グレが集団の先頭に立ってレースをひっぱる。1㎞の入りは2:48とハイペース。グレのあとに1年生ながら注目の順天堂大・三浦龍司がピタとつけている。3㎞の通過は8:36秒、区間新ペースである。
 3㎞すぎで日本文理大の山田泰史がグレにならびかける。5㎞通過が14:24、このあたりでグレが後続を突き放しにかかるが、すぐに後続は追いついてなれない。
 7㎞をすぎても、いぜん区間新ペース。7.6㎞で京都産業大の北澤涼雅がトップに立ち、集団が一気にタテ長になる。国学院大の島崎慎愛、明治大の児玉真輝らが先頭にとびだしてきて、先頭争いがはげしくなる。
 8㎞すぎでは、島崎が先頭。順天堂大の三浦、駒澤大の加藤淳らが前に出てくるが、青山学院大の湯原慶吾は遅れていった。
 そして9㎞、ここで三浦が待っていたかのようにスパート、明治大の児玉真輝、駒澤大の加藤淳、城西大の砂岡拓磨、國學院大の島崎慎愛をふりきってたすきリレーした。三浦は区間記録も18秒更新したが8位までが区間新というスピードレースで幕明けた。
 1区を終わって、トップは順天堂大、3秒遅れで城西大、6秒遅れで駒澤大、8秒遅れで國學院大、同タイムで明治大、11秒遅れで早稲田大、16秒遅れで東海大学とつづいたが、東洋大学は18秒遅れの9位……。候補の一角。青山学院大は19秒遅れの10位とやや出遅れてしまった。

 2区(11.1㎞)も主力が下位に低迷するなか、順位変動はめまぐるしかった。
 2.8㎞で城西大の菊地駿弥が順天堂大の伊豫田達弥とらえてトップに立った。はるか後方では皇学館大の川瀬翔矢がごぼう抜きで順位をあげてくる。
 4.7㎞では、明治大の小袖英人が先頭集団に追いつき、先頭集団となり、」少しずつ後続を引き離しにかかる。後方では東海大の市村朋樹、青山学院大の近藤幸太郎がペースアップできずにあえいでいた。
 そんなかでひときわ輝きを放ったのは皇学館大の川瀬翔矢である。21位発進の川瀬は3㎞までに4人を抜き、4㎞では13位集団にとりつき、7㎞までに11人抜き、8.5㎞すぎで15人抜きを達成。先頭との差もみるみる詰めてきた。
 8㎞すぎ、明治大の小袖と城西大の菊地が先頭を争っていたが、10㎞になって城西大の菊地がスパート、ここで明治大の小袖を置いていった。そして3位集団にとうとうに皇学館大の川瀬が追い付いた。息もつかずに追ってきたせいだろう。表情は少し険しそうだが、力強い走りは変わることがなかった。
 菊地はそのままトップでたすきを渡し、2位には13秒差で明治大、3位は22秒差で早稲田大、4位は皇學館大で23秒差、川瀬は17人抜きを達成した、5位は國學院で24秒差、以下は日本体育大、東洋大、東京国際大、駒澤大とつづいたが、候補の青山学院大は1分41秒遅れの14位、東海大は1分45秒遅れの17位と大きく後れをとり、ここで失速してしまった。結果的に駒澤との比較して、ここで1分も遅れをとったのが最終的に響いてしまったとみる。
 

 3区(11.9)にはいると主役交代、ここで早稲田が台頭してくる。
 1㎞で早くも3位発進の早稲田大は中谷雄飛が22秒差を一気に詰めて先頭集団にくらいついた。そして5㎞でトップを奪う。5㎞通過は13:53とハイペース、後続との差をひろげていった。7.5㎞ではトップ早稲田と2位集団の明治、城西との差は18秒、後続の追撃はいまだ勢いがつかず、青学はトップと47秒差の10位、東海は1:38も遅れて15位に甘んじていた。
 早稲田の中谷はその後も粘ってリードを守った。明治が2位に来て20秒差、3位は城西で31秒差、4位は32秒遅れで國學院、5位に帝京45秒差とつづいたが、青山学院大は46秒差の6位、駒澤は48秒差の8位といまだ上昇気流ののれず、東海大にいたっていまだ1:26遅れの11位に甘んじていた。

 4区(11.8)にはいっても、太田直希というエースの一枚を配している早稲田が突っ走った。差をどんどんとひろげ、2位には明治の櫛田佳希がつけ、以降は3位集団として6チームがひとかたまりになって追っていた。
 6㎞では早稲田と45秒、2位の明治に順天堂大の野村優作、青山学院大の岩見秀哉、東洋大の前田義弘が追いついた。後方では東海大の石原翔太郎が急追、10位に順位を上げてきた。石原は9㎞で国学院大も交わして7位に浮上、さらに5位集団も一気にかわし、どんどん順位をあげてくる。区間新ペースである。
 早稲田大の太田も塩尻の区間記録を上回るペース。完全な独り旅、sなやかな走りでラストスパート、トップをまもった。。
 東海大の1年生・石原翔太郎は区間1位(区間新記録)の快走、順位を一気に5つあげてきた。
 4区を終わったところでは早稲田がトップ、2位の明治とは52秒差となり、早稲田も優勝戦線に浮上かと思われた。3位は順天堂大があがってきて1:10差、4位に青山学院大があがってきて1:17差、5位は東洋大で1:18差、6位にようやく東海大があがってきて1:19差、7位が駒澤大で1:23差となり、3強は上位に顔を出したが、まだトップとは1分以上の差があった。

 5区(12.4㎞)にはいると、ここも1年生ランナーが見せ場をつくった。4位グループにいた青山学院大の佐藤一世がやってくる。
 トップをゆく早稲田大の菖蒲敦司も1年生、落ち着いた入りでトップをひたはしる。4㎞で佐藤は3位にあがり、順天堂大の石井一希と並走、2人は八千代松陰高の同級生、いったい何を考えていたのか。後ろの5位集団には東海大の本間敬大、東洋大の大澤駿、駒澤大の酒井亮太がつづいていた。
 7㎞では青学の佐藤が順天の石井を突き放し、2位明治の金橋佳佑の背後に肉薄する。そして9㎞では、金橋を抜いて2位に浮上、トップをゆく早稲田の菖蒲との差もじりじりと詰めてゆく。10㎞をすぎると佐藤がさらにトップとの差をつめ、20秒をきるほどになった。後ろでは駒澤大の酒井と東洋大の大澤が3位集団の明治、順天の2人を追い抜き、順位をあげてくる。
 早稲田大の菖蒲は青学の佐藤に10秒差まで迫られたが、かろうじてトップをまもった。2位にきた青学の・佐藤一世は区間新記録の力走で、とうとうトップの影を捕まえた。3位は駒澤大で31秒差。以下、東洋大、明治大、順天堂大、東海大で、ここまでが43秒差となった。

 1分以内に駒澤、青学、東海がひしめく展開で迎えた6区(12.8㎞)は、主力チームにとって、きわめて重要な区間となった。
 トップを行く早稲田大の諸冨湧を青山学院大の山内健登が追ってゆく。ここも1年生対決である。一時は5秒差まで詰まったが、そこからは差が詰まらない。ぬしろ開き加減になってゆく。3位は駒澤大の山野力と東洋大の腰塚遥人が並走。そのすぐ後ろに明治大の大保海士、東海大の長田駿佑がつけるという大混戦となる。3㎞では長田と大保が3位集団に追いついてしまう。
 早稲田大の諸冨と青山学院大の山内の差はほとんど変わらず。7㎞をすぎるとその差は開いてゆく。青学の山内は追い切れず苦しい走りとうなる。。
 3位集団からは明治大の大保と東海大の長田が抜け出した。東洋大の腰塚はじりじりと離れていった。
 9.1㎞になると、明治大の大保と東海大の長田が一気に青山学院大の山内を抜いてゆく。山内は脱水症状か、あえぐよう苦しい走りになった。
 11.8㎞あたりだった。
 明治大の大保が早稲田大・諸冨を一気に抜き去った。諸富も必死に大保の背中につけるうりろから東海大の長田もやってくる。最後は東海大の長田が競り勝った。長田は区間新の快走、ここでチームをトップに押し上げた。ほとんど同時に明治大。3位に3秒差で早稲田大、11秒差で駒澤大、20秒差で東洋大、青山学院大は23秒差の6位とつづいた。
 6区を終わって、トップ東海と駒澤の差は11秒、青学との差は23秒、ほとんど差がないといってもいい。にわかに勝負は緊迫してきたのである。

 第7区(17.8㎞)になると20秒差で5位につけている東洋もインカレのチャンプ・西山和弥がいて、一発逆転をねらっている。
 東海大の西田壮志、と明治大の加藤大誠がトップを並走。3位集団は早稲田大の鈴木創士、駒澤大・小林歩、東洋大・西山と青山学院大神林勇太が追い付いた。5.0㎞をすぎると東洋大・西山と青山学院大・神林のせめぎあいがつづく。
 8㎞をすぐると神林が集団から抜け出し、単独3位となり、前を行く2人とも差を6秒まで詰めてしまう。ここで東洋大の西山は神林についていけなくなってずるずる後退していった。
 中間点で神林が先頭集団に追いつき、トップ争いは東海大、明治大、青山学院大のみつどもえとなる。そして10㎞手前で神林がとうとうトップを奪ってしまう。その後も力強い走りで2位の明治大の加藤との差も広がり、ここで東海大・西田はついていけなかった。
 神林はその後も快走、大きなストライドで軽やかに走り、2位との差をどんどんとひろげていった。最後は少し苦しげな表情になったが、さすがはキャップテンである。後ろとの差が30秒ほしいという陣営の目標にきっちりと答えた。

 そして……
 冒頭に記した8区の大逆転劇につながるのである。

 優勝した駒澤大はエース・田澤廉の走りに尽きる。区間賞はこの田澤の8区だけ。各区間ともに大きなミスをせずに、堅実に走り、エースが活かせる展開に持ち込んだことが最大の勝因だろう。まさにダークホースぶりを発揮したといえる。
 2位の東海大は2区で17位まで順位を落としながら、3区以降はもてる力を発揮したといえる。4区の石原翔太郎と6区の長田駿佑が区間賞、ともに区間新記録である。2区を終わった時点で、優勝した駒澤に1分も置いてゆかれていたことが、最大の敗因だろう。最後のアンカー決着で敗れたのは、レース展開的に不利だったことによる。2連覇はのがしたが、選手層の厚さ、さらには新戦力も育っている。区間と距離が長くなる箱根ではやはり優勝候補の一角となろう。
 優勝候補筆頭の青山学院大は4位に終わった。このチームにしてはミスがおおすぎた。そらが最大の敗因だろう。出だしでしくじり、勝負所のエースが失速した。それでもキャプテン神林の活躍で目算通りに帳尻を合わせたが、チグハグな戦いに終わってしまった。しかし敗れたとはいえ、選手層の分厚いチームである。潜在能力は一枚抜けており、箱根ではやはり優勝候補の筆頭にあげなくてはなるまい。
 健闘したのは明治と早稲田だろう。
 明治大は全員が区間1ケタ順位で走り、各区間とも5位以下におちていない。堅実に走ったことが3位躍進の原因だろう。
 5位の早稲田大は中盤までのレースを支配していた。6区の出来いかんでは、あわや、このまま突ききるか、思わせられる雰囲気もあった。箱根でも期待できそうである。
 6位の東洋大もさすがというべきか。7区の西山和弥のデキがよかったら、あるいは8区できわどく優勝争いに絡んでいたかもしれない。
 それにしても、区間新記録が続出、大会新記録による決着である。とくに1年生ランナーの活躍が目に付いた本大会……。コロナ禍の鬱憤を晴らすかのような選手たちの活気ある走りに感動をおぼえ、テレビ観戦者であるわれらは元気をもらった。


◇ 日時 2020年 11月1日(日)午前8時05分スタート 
◇ コース:熱田神宮西門前(名古屋市熱田区神宮)→ 伊勢神宮内宮宇治橋前(伊勢市宇治館町) 8区間 106.8 km 
◇ 天候:晴れ  気温11.1℃ 湿度67% 風:北:2.1m(8:00) 
◇ 駒澤大学(加藤淳、花尾恭輔、鈴木芽吹、伊東颯汰、酒井亮太、山野力、小林歩、田澤廉)
◇総合成績:http://daigaku-ekiden.com/file/2020result.pdf
◇公式サイト:http://daigaku-ekiden.com/index.html
◇tv asahi:http://www.tv-asahi.co.jp/ekiden52/